友人の異世界実況
昨日は頑張ったから、今日は何もしない。
ただごろごろして、だらだら休日を
とは言え、自分には
暑いから外には出ないって決めてるし、家にある漫画は全巻読んでるし、テレビは特に面白い番組がなかったし。
スマホには
うーん。
とりあえず、寝っ転がってぼーっとしてみるか。
そしたら何か思いつくかもしれないし。
ソファーの上で横になると、体が少し
寝心地はベッドに
「ふぅ……」
お腹がゆっくり動いてる。
膨らんで、
膨らんで、凹んで。
――ピロン♪
「ん?」
スマホを見ると、友達からメッセージが来ていた。
[ピンチ。異世界来たかも。やばい]
「……」
何を言ってんだか。
[あっそー、頑張れー]
適当にメッセージを返して、ついでに
クーラーをつけているはずなのに、どうにも暑い。
クーラーの風がソファーにも行くように、扇風機の位置を調整した。
ソファーに戻ると、涼しい風がこっちにも流れ込んでくる。
これでますます快適だ。
もう一度寝転んで、お腹の上に手を置く。
吸って……吐いて。
吸って……吐いて。
扇風機のからからとした音が、心地よくなってきた。
ぼーっと天井を見つめると、窓から差し込んだ日の光が、ぼんやりと一体を照らしていることに気づく。
なんか、いいなぁ……。
――ピロン♪
ん?
友人から届いた写真を見る。
青い空に、黒い影のようなものが映っていた。
鳥にしてはシルエット大きい気がするけど……ハッキリ映ってないし、よく分かんないな。
強風で何かが飛ばされたとか?
[ドラゴン飛んでるんだけど。ガチやばい]
ドラゴンねぇ……。
[ワー、スゴイネー]
この暑さで友人の頭はやられてしまったのかもしれない。
[本当なんだって]
続いて送られてきた写真は、画面いっぱいの草原と青い空だった。
これはまた大自然だなぁ。
どこに旅行してるんだろう?
[どこまで行ってるの?]
尋ねてみるも、返事は来ない。
まぁ、旅行を楽しんでるんだろうな。
自分も何もしない休日を楽しもう。
スマホを置いて、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。
吸って……吐いて。
吸って……吐いて。
からからと扇風機が鳴る。
涼しい風が吹いてくる。
ゆっくりとお腹が膨らんで、
自分の呼吸の音が聞こえる。
自分の心音が聞こえる。
まったりとした気分に
あぁ、なんだか……。
眠たくなってきた……。
気づいたら、意識が途切れていた。
――ピロン♪
「ん……」
あぁ……。
ちょっと、うとうとしてたかも……。
ぼんやりしたまま、スマホを手に取る。
[本物の冒険者に会って、街に連れてきてもらった。やばくね? ガチの異世界なんだけど]
三度送られてきた写真は、確かに異世界を舞台にした漫画やアニメで見かけるような街並みだけど。
どっか、そういうとこに遊びに行ってんのかな……。
[お土産よろしく]
返事をしてから、
「お腹空いた……って、もうお昼じゃん」
なんか食べよう。
冷蔵庫にすぐ食べれるもの、あったかな。
スマホをソファーに置いて、キッチンに行く。
冷蔵庫の中を
そうめんでも
いや、量を
そうだ、そういえば前に買ったカップ麺が残ってたはず。
お湯を作ってそそぐだけ、うん、楽だ。
さっそく食品棚を
味はシーフード、ちょうどいい。
ケトルに水を入れて、加熱する。
待ってる間は……スマホでも触っていようか。
「ん、またなんか来てる」
ソファーから拾い上げたスマホに表示されていた通知をタップする。
[これからギルドに行くんだって。ギルドマスターに会う、とか怖くない人だといいんだけど]
へぇ。
ツアーみたいなのもあるのかな。
なりきってて楽しそうだ。
[あとで感想聞かせて]
返事はこなかったから、今ギルドとやらに行ってるのかもしれない。
友人のツアー実況、なかなか楽しいな。
自分も今度行ってみようか。
そんなこんなでスマホを触っているうちに、お湯が出来上がる。
カップ麺にお湯を入れてから、暇つぶしにゲームをして、3分経つのを待った。
――ピピピピ……
「お、できたか」
タイマーを止めて、カップ麺のふたを外すと、もくもくと湯気が立ち上る。
いい匂いだ。
さっそく
「んん~♪」
うまぁ。
やっぱりたまに食べるカップ麺はいいなぁ。
さっぱりした味がたまらない。
熱いスープを飲んだせいで汗が出てきたけど。
あとで扇風機の風を強くしよう。
「ふぅ~……満腹だ」
空になったカップを片付けて、ソファーにもたれかかる。
今日は大して動いてないけど、しばらく動きたくない。
満腹感というものは人を
――ピロン♪
なんだろう、友人もお昼を食べたのかな?
スマホを見ると、やはり友人からメッセージが届いていた。
[日本人がこっちに来るの珍しくないんだって。すぐ帰れそう]
あぁ、そういう設定なのか。
[今
ふぅん、そんなところまであるんだ。
[でも帰れるって分かったら
[残りの時間楽しめばいいじゃん]
[それもそうだ。せっかくだし動画撮ってみるわ!]
[楽しみにしてるー]
返事をしたあと、ずるずると横になる。
それにしても友人が送ってきたこの写真、セットがよく出来てるなぁ。
ドラゴンが飛んでるって写真は、拡大してもよく分からないけど。
この草原も広大だし、かなり大きいところなのか?
調べたら名前出てくるかな。
“異世界 テーマパーク”で検索、と。
……うーん、友人が送ってきた写真と同じ場所はないな。
ワードを変えてみるか。
“異世界 ツアー”、と。
うーん……こっちでも友人が行ったところは出てこないな。
まぁ、本人から直接聞いた方が早いか。
友人はどうやって見つけたんだろう。
そんな面白そうなところに行くなら、自分にも声をかけてくれればよかったのに。
あれで1人が好きなところあるのかな?
結局は実況してるけど。
ちょっと肌寒くなってきたな。
扇風機の風量、戻しておこう。
ソファーの方を見れば、部屋の中だと言うのに、……いや、外でも意味が分からないけど、光の柱が天井から床まで伸びていた。
まぶしさに目をやられて、とっさに手の甲で目元を
「……は?」
指の隙間から、相変わらずまぶしい光が漏れてくる。
「…………は?」
もう一度声を出したところで、光が急速に弱まっていって。
「わ、どこだここ! 家じゃないんだけど!」
「……何してんの?」
どこかに旅行していたはずの友人が、光の柱の
……
「あ、
「は? ……君さ、どこから現れたわけ」
「異世界から? あ、動画見る!? 魔法撮ってきたよ、魔法!」
「……」
……あれ、本当だったの?
まったりした休日が、途端に非日常へと塗り替わるのを感じた。
「……うん、まぁ、見るわ」
(※無断転載禁止)
この物語は、別名義でノベルゲームとして作った物語を、小説版として改変したものです。
→ノベルゲーム版「チルする5分」