邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
9,常夜 の森で待ち受ける邪教徒
身を隠した
うっそうと しげった木々が陽をさえぎり、日中でも薄暗い森であることから、常夜の森と呼ばれていると、地理を解説した本に書かれていた。
手紙と同様に、孤児院でお願いして もらってきた物を服のそでに隠しながら、私は到着した常夜の森に足を踏み入れた。
きっと、私がここから生きて帰ることはない。
グレンさんにさらわれてから、グレンさんや、院長先生に、子どもたち。これまでの人生からは考えられないほど、この数日間でたくさんの人と話すことができた。
最後に、人の
「シンシア
「……!」
おくへ進むほど、薄暗くなっていく森のなかを歩いていると、木々のあいだから
王妃殿下が着ていたのとおなじローブ……私を待ち
真紅のローブを着た人たちの先頭に立っている人物が、道をあけるように半身引き、森のおくを手で
「王妃殿下がお待ちです」
ごくりとつばを飲みながら、私はうなずいて、おそらく
城に忍びこんだグレンさんとおなじように、ローブのフードをかぶりながら、口元を布でおおいかくしている彼らの
逃げ道をふさぐように、私の周りをかこんで歩く邪教徒たちの中心で、私はそでを押さえてこっそり深呼吸をした。
ザクザクと土を踏みしめる音を立てながら歩くこと、しばらく。
その薄暗さから“常夜”と名付けられたはずの森に、陽が
ひらけたその場所で、キラキラと太陽の光を反射する湖の青さとは対照的に、真紅のローブを着た人たちが十数人 陽射しを受けてたたずんでいる。
そして、そんな彼らの中央に、どこからともなく真紅のローブを着た女性がパッと現れた。
「よく来たわね、シンシア。えらいわ」
日中で着替える時間がなかったのか、前回とはちがい、ローブの下に
フードをかぶらず、結い上げた紫色の髪と、ルビーのような赤い瞳を太陽のもとにさらしているのは、この国でもっとも
赤い唇に笑みを浮かべた姿は、ならぶ者がいないほどに美しい。
国王陛下からゆずり受けた青い瞳が、
「殿下。ジュリアンは……?」
「城で元気にしているわ。あなたが大人しく したがっているうちはね」
目尻のつり上がった瞳を細めてほほえむ王妃殿下を見ながら、ホッと息を吐く。
ジュリアンの無事が確認できてよかった……。
「シンシア。ただヴァーノン
「……はい」
「ここへは1人で来たようだけれど、今まであの男と一緒にいたのかしら?」
王妃殿下は私が人と関わることを禁じていた。
そのことで しかられるのかもしれない、と思いながらもう一度「はい」と答えると、王妃殿下は笑みを消して私を見つめる。
「あの男と関係を持ってはいないでしょうね、シンシア?」
「……関係、というのは?」
「たとえば、口づけを
口づけ……!?
どうしてとつぜんそんなことを、と思いながら、私は「い、いえ」と即座に否定した。
すると、王妃殿下は唇に笑みをもどす。
「そう、よかったわ。男と口づけをしてあなたの
「え……?」
「そのような変わった条件があるから、“
美しくほほえむ王妃殿下を見ながら、私はおどろきを胸におさえこんだ。
私が男性と口づけを交わせば、
命を絶たずとも、そんな方法があったなんて。
王妃殿下はあの禁書以上の知識を持っているみたい……。
「いい子のシンシア、お母さまの言うことをよく聞きなさい。あなたはこれから邪神さまの
「……」
「胸をナイフで一突きして、湖に落とす。そして邪神さまへお祈りすれば、この世界は邪神さまのものになるのよ!」
「「邪神さまバンザイ!」」
私へていねいに説明してくれた王妃殿下のあとに、周りの邪教徒たちが声を合わせて邪神をたたえる。
“胸をナイフで一突きして、湖に”。
王妃殿下はうっとりとした表情を浮かべながら、私を見つめる。
「私の
クワイン侯爵家……王妃殿下が邪教とつながりを持ったきっかけは、生家にあったんだ。
「花嫁を生み、育て、ささげた私にはどのような
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