邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
7,依頼 の内容
「シアが王城にもどれなかった理由は理解した。で、今後どうするかだが」
先のことへ向けた思考をうながすグレンさんの言葉を聞いて、ただおそろしさにとらわれるだけだった状態から抜け出せた。
私はグレンさんの視線を受けながら、胸を押さえるように両手をにぎりこむ。
「王妃殿下を告発するため、一度は失うことを覚悟した命です。自分の命は、惜しくありません……ですから」
今の今まで、かっとうしていた。
けれど、
それを口にする覚悟を決めて、私はふるえる手を押さえこんだ。
「
「……」
「けれど……王妃殿下が邪教徒であることを明かさなければ、この国はいつか危険におちいってしまうかもしれません……」
真実を知る私は、命を絶つ前にやらなければいけないことがある。
150万の
それがようやく見えたから、私は顔を上げてグレンさんを見た。
けれど、グレンさんが目を細めて私の胸元を見ていることに気づき、あわてておくびょうな気持ちが表れている両手を背中に隠す。
「お、お話を聞いていただいて、ありがとうございます。グレンさんへの依頼ですが、王妃殿下が邪教徒であることを明かす手助けをしていただければと……」
「……
「っ、そのような、ことは……!」
グレンさんはすべてを
国を守る、民を守る王族としての役目をまっとうしきれない、おくびょうな私を見つけられてしまったような気がして、心がふるえる。
私を見つめたまま、グレンさんはその唇を開いた。
「だれだって、死にたかねぇよ。本当にたのみてぇことが、他にあるんじゃねぇのか?」
低い声が、私の心をゆさぶってくる。
眉を八の字にして、唇を硬く閉じ、返せる言葉を探しながらグレンさんを見つめると。
「すなおになれよ。――守ってやるからさ」
「っ……」
グイッと手を引っぱってくれるような力強い言葉をかけられて、じわっと涙がこみ上げた。
グレンさんのまっすぐな目を前にして、あふれた涙がほおを伝っていく。
「死にたく、ない……っ」
ひとつ、本当の気持ちが飛び出すと、もうあふれ出す感情を止められなかった。
「ジュリアンを、この国の人を、世界の人を、守りたい……! 助けて……っ」
次から次へとあふれ、ほおをぬらしていく涙が、私の視界をゆがませる。
頭の上に、初めて感じる
「方法を考えようぜ。シアも、他のやつらも助けられる方法をさ」
ゆっくりと左右に動く温もりが、心のうちに火を
「ありがとう、ございます……っ」
ふるえきった涙声で感謝を伝えると、頭の上の温もりはポンポンとはねる。
グレンさんは「ちいせぇ体に
体にふれる体温が胸のうちまでジンと
「ずっと……ずっと、つらかったんです……っ!」
「あぁ」
やさしい声に、ポンポンと頭をなでてくれる感触に受け止められるまま、私は声をあげて16年分の涙を流した。
****
人の温もりを、初めて知った瞬間。
抱えこむしかなかったすべてを吐き出したあと、私は
「お気をつけて。むりはしないでくださいね」
「ちょっくら向こうの動きを探ってくるだけだ。あぶないことはねぇよ」
軽く笑って答えるグレンさんがたのもしくも、心配になる。
1にも2にも、まずは情報収集、ということで、グレンさんはあれから王妃殿下がなにか行動していないか、調べてきてくれることになった。
今は、そばに院長先生もいる。
あまり直接的な言葉は言えないけれど、もう一度なにか、とかける言葉を探したとき、グレンさんが先に口を開いた。
「いい子で待ってろ、シア」
「……私、それほど子どもではないです」
そんな言葉を返しながらも、本のなかでしか聞かなかった言葉を向けられたことがうれしくて、同時にドキドキもして、ほおが熱くなる。
グレンさんは明るくほがらかに、「ははっ」と笑った。
「先生、シアをたのむな」
「えぇ、行ってらっしゃい、グレン」
「あぁ」
顔のシワを深めて、にこやかにほほえむ院長先生と視線を
私に視線をもどしたグレンさんは「じゃあな」と言って、手を上げながら孤児院を出ていった。
人前に出ることがないから、一般に顔が知られていない私だけど、城に
孤児院のなかで隠れていよう、と玄関に背を向けると、院長先生から話しかけられた。
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