邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
6,不吉な姫 の生 い立ち
「ここでその呼び方をするのは、こまるでしょう? シンシアでかまいません、グレンさん」
「あぁ、俺の名前、先生から聞いたのか。とは言え、
初めてあだ名のような呼び方をされて、ドキッとする。
けれど、私はすぐにうつむいて、眉根を寄せた。
「……私にも、どうしたらいいのか。お話を、聞いていただけますか?」
「ワケありか。まぁ、仕事の
グレンさんの返事を聞いて、私は目を閉じた。
ずっとこの胸に
「……私が、“不吉な姫”と呼ばれているのはご存知ですか?」
「あぁ、それくらいはな。たしか、赤い満月の夜に生まれたんだったか」
「そうです……人に
「ふぅん。そりゃあいいじゃねぇか」
「そう、思いますか? ……でも、王妃殿下は、私が人と関わることを禁じました。自身が……」
胸のおくにしまってきた ひみつを口にしようとして、すこし言葉に詰まる。
「自身が、
「はぁ? 王妃が、邪教徒?」
「はい……現実とは思えない力を見せられたので、うたがうことはできませんでした。幼かった私は、自分の身を守るために、王妃殿下の言葉にしたがったのです」
最初に
「しかし、
「……そりゃあ、ご立派な考えで」
「邪神がさずける力は、この国の人々を……そして、世界中の人々を危険にさらす可能性がありますから」
「私が王妃殿下を告発する決意をしたことに、王妃殿下はすぐ気がつきました。そして、私の行動を
その言葉にしばられる苦しさを吐き出すように、打ち明ける。
「邪教のことを他言すれば、私ではなく弟、ジュリアンを生贄にすると」
「なるほどね……王子を人質にとられたわけか」
「はい。ですから、私は硬く口を閉ざして、王妃殿下の望みどおり、他者と関わることなく生きてきました」
ずっとすごしていたと言っても過言ではない図書室の司書も、王妃殿下が手をまわしているのか、入れ替わりが はげしかった。
だから、私が長い時間を共にした相手は、だれ1人いない。
「グレンさんが私をさらいに来た日、私は王族のみが
「邪神の、花嫁? なんだそれ?」
「……赤い満月の夜に生まれた女児が、16歳になったとき。その者を邪神の生贄としてささげれば、邪神が世界を支配する力を得る」
「赤い満月の、夜……」
グレンさんがくり返した言葉を聞きながら、私は小さく深呼吸をした。
その後、顔を上げて、眉をひそめているグレンさんを見る。
「私は、邪神に強大な力をあたえる邪神の花嫁……昨日私たちの前に現れた王妃殿下が口にしたとおり、“最高の生贄”なのです」
「あれが、王妃……!?」
グレンさんは目を見開いて、おどろきをあらわにした。
私は「はい」と、なにかを吹っ切れたような、けれど地に足がつかないような心地でうなずく。
「……そうか、ってことは、ヴァーノン伯爵は邪教の上に王妃がいることを知らずに、邪神の花嫁を手に入れようとしたから、始末されたんだな」
「え……?」
「王妃がじきじきに来たってことは、ヴァーノン伯爵の計画は利用されてたのか? くそっ、100万と言えど、手ぇ引いときゃよかった」
ぶつぶつとつぶやいて、くやしげに頭をかくグレンさんを前に、私は目を白黒させるしかなかった。
ヴァーノン伯爵が、“邪神の花嫁”を手に入れようとしていた……?
伯爵も邪教徒だったの?
「グレンさん、どういうことですか?」
「あー、ヴァーノン伯爵がちょっと口をすべらせたんだよ。これでぜんぶ見えた、王妃は姫が“さらわれた”って事実を作って、シアの
「私の失踪を……」
それはつまり、私を“
計画された殺意を感じて、思わず体がふるえる。
王族のみが閲覧できるということは、王妃殿下もあの禁書を読むことができたということ。
私はいつから、王妃殿下に“最高の生贄”として見られていたの……?
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