邪神(じゃしん)花嫁(はなよめ)は、金目当ての傭兵(ようへい)にさらわれる

6,不吉な(ひめ)()い立ち

約1,900字(読了まで約5分)



「ここでその呼び方をするのは、こまるでしょう? シンシアでかまいません、グレンさん」

「あぁ、俺の名前、先生から聞いたのか。とは言え、(ひめ)さんの名前をそのままってのもな……じゃあシア、あんたは今後どうしたいんだ?」


 初めてあだ名のような呼び方をされて、ドキッとする。
 けれど、私はすぐにうつむいて、眉根を寄せた。


「……私にも、どうしたらいいのか。お話を、聞いていただけますか?」

「ワケありか。まぁ、仕事の一環(いっかん)だ。……なんだ?」


 グレンさんの返事を聞いて、私は目を閉じた。
 ずっとこの胸に(かか)えこんで、隠してきたこと。それを初めて人に話すことへの緊張(きんちょう)が湧いてきて、ギュッとひざの上で手をにぎる。


「……私が、“不吉な姫”と呼ばれているのはご存知ですか?」

「あぁ、それくらいはな。たしか、赤い満月の夜に生まれたんだったか」

「そうです……人に()けられていても、幼いころの私は、周りの人と仲良くしたいと思っていました」

「ふぅん。そりゃあいいじゃねぇか」

「そう、思いますか? ……でも、王妃殿下は、私が人と関わることを禁じました。自身が……」


 胸のおくにしまってきた ひみつを口にしようとして、すこし言葉に詰まる。


「自身が、邪教徒(じゃきょうと)であることを明かし……言いつけをやぶれば、私を邪神(じゃしん)生贄(いけにえ)にささげる、と言って」

「はぁ? 王妃が、邪教徒?」

「はい……現実とは思えない力を見せられたので、うたがうことはできませんでした。幼かった私は、自分の身を守るために、王妃殿下の言葉にしたがったのです」


 沈黙(ちんもく)するグレンさんの顔を見る勇気はない。
 最初に服従(ふくじゅう)をえらんだのは、私のあやまち。


「しかし、年齢(ねんれい)を重ねて、自分の身を守ることよりも、おそろしい邪教を(めっ)することのほうが大事だと、気づくことができました」

「……そりゃあ、ご立派な考えで」

「邪神がさずける力は、この国の人々を……そして、世界中の人々を危険にさらす可能性がありますから」


 皮肉(ひにく)をふくんでいそうな言い方に、うつむいたまま苦笑いした。


「私が王妃殿下を告発する決意をしたことに、王妃殿下はすぐ気がつきました。そして、私の行動を(ふう)じるかのように、言ったのです」


 その言葉にしばられる苦しさを吐き出すように、打ち明ける。


「邪教のことを他言すれば、私ではなく弟、ジュリアンを生贄にすると」

「なるほどね……王子を人質にとられたわけか」

「はい。ですから、私は硬く口を閉ざして、王妃殿下の望みどおり、他者と関わることなく生きてきました」


 ずっとすごしていたと言っても過言ではない図書室の司書も、王妃殿下が手をまわしているのか、入れ替わりが はげしかった。
 だから、私が長い時間を共にした相手は、だれ1人いない。


「グレンさんが私をさらいに来た日、私は王族のみが閲覧(えつらん)できる、とある禁書を読んでいました。そして……“邪神の花嫁(はなよめ)”という存在を知ったのです」

「邪神の、花嫁? なんだそれ?」

「……赤い満月の夜に生まれた女児が、16歳になったとき。その者を邪神の生贄としてささげれば、邪神が世界を支配する力を得る」

「赤い満月の、夜……」


 グレンさんがくり返した言葉を聞きながら、私は小さく深呼吸をした。
 その後、顔を上げて、眉をひそめているグレンさんを見る。


「私は、邪神に強大な力をあたえる邪神の花嫁……昨日私たちの前に現れた王妃殿下が口にしたとおり、“最高の生贄”なのです」

「あれが、王妃……!?」


 グレンさんは目を見開いて、おどろきをあらわにした。
 私は「はい」と、なにかを吹っ切れたような、けれど地に足がつかないような心地でうなずく。


「……そうか、ってことは、ヴァーノン伯爵は邪教の上に王妃がいることを知らずに、邪神の花嫁を手に入れようとしたから、始末されたんだな」

「え……?」

「王妃がじきじきに来たってことは、ヴァーノン伯爵の計画は利用されてたのか? くそっ、100万と言えど、手ぇ引いときゃよかった」


 ぶつぶつとつぶやいて、くやしげに頭をかくグレンさんを前に、私は目を白黒させるしかなかった。
 ヴァーノン伯爵が、“邪神の花嫁”を手に入れようとしていた……?
 伯爵も邪教徒だったの?


「グレンさん、どういうことですか?」

「あー、ヴァーノン伯爵がちょっと口をすべらせたんだよ。これでぜんぶ見えた、王妃は姫が“さらわれた”って事実を作って、シアの失踪(しっそう)を隠したかったんだ」

「私の失踪を……」


 それはつまり、私を“誘拐(ゆうかい)”されて行方不明(ゆくえふめい)のまま、ということにして、ひそかに邪神へささげるつもりで……?
 計画された殺意を感じて、思わず体がふるえる。
 王族のみが閲覧できるということは、王妃殿下もあの禁書を読むことができたということ。

 私はいつから、王妃殿下に“最高の生贄”として見られていたの……?


ありがとうございます💕

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