邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
4,真紅 のローブをまとった人物
また窓から!?
体が落ちていく感覚に、ギュッと目をつぶって身を硬くすると、すぐにドンッと
「ど、どこへ行くのですかっ?」
「どっか適当なとこ」
適当って……!
私にも考える時間をあたえて欲しい、と切実に思っていると、荷馬車と私たちのあいだに、とつぜん
目にしても現実かうたがってしまうこの光景を、私は以前にも
「うわっ、なんだおまえ? どこから現れた!?」
「
フードの下に隠れた顔がどのような見目をしているか、確信を持って想像できた私は、一瞬、首を
「
傭兵の男性はボソッとつぶやいて、一歩うしろに下がる。
「ヴァーノン
「“だれが”、それはささいなこと。しかし、我々邪教があの者を始末したことは事実です」
「はっ……」
鼻で笑うような声をもらしながら、傭兵の男性は私の体を
真紅のローブを着た女性は、色の白い右手をこちらに差し出す。
私の人生を、“邪神さまの生贄にささげる”という言葉でしばってきた、この国で一番
「姫を渡しなさい。その者は、邪神さまにささげる最高の生贄。さからうならば、我々邪教がおまえの敵となります」
邪教にまつわる禁書を読んでから、今まで以上に出会うことをおそれていた母が、とうとう目の前に現れてしまった。
「姫を邪神の生贄に、なんてたいそうなことを考えてるもんだ。あんたらのゴタゴタに巻きこまれるのは、ごえんりょ願いたいもんだが」
傭兵の男性は軽い口調で言葉を返したあと、ひっそりとため息をついて「どうすっかな」とつぶやく。
彼は今、私を王妃殿下に渡すか迷っている。そして彼は、お金のために、依頼主の目的も知らず、王族をさらう人物。
お金で動く彼なら、もしかすれば……。
「た、助けて、ください」
私はフードの下から、前を向いている男性の顔を見上げて、ふるえる唇を開いた。
金色の目が動いて、私を見下ろす。
「15年分のおこづかい、一切手をつけずに、
王妃殿下には聞こえないように小さく、けれど切実な思いをこめてささやくと、太い眉がくいっと上がった。
「へぇ」
笑いをふくんだ声がこぼされる。
ギラリとした彼の瞳が、私を射抜いた。
「それ、ざっといくらだ?」
「ひゃ、150万に、なっているはずです……っ」
毎年渡される金額を計算して答えると、ヒュウ、と布で隠れた彼の口元から高い音が聞こえる。
傭兵の男性は向かいに立つ王妃殿下に視線をもどして、小さく私に答えた。
「その依頼、引き受けた」
無事に
「邪教徒さんよ、俺は金でしか動かない。俺に言うことを聞かせたいなら、相応の金を持ってくるんだな」
「……」
王妃殿下にそう言い放った傭兵の男性は、クルリと体の向きを反転させて走り出した。
荷馬車に近づくことはできないから、別の逃げ道を探すしかなかったのだと思う。
けれど――。
「逃がしません。姫を“
「チッ、どこにでも一瞬で移動できんのか。その力めんどうだな……!」
私たちの行き先をさえぎるように、パッと目の前に現れた王妃殿下が、手を差し出しながら近づいてくる。
傭兵の男性は立ち止まって、1、2歩下がり、また王妃殿下に背を向け、荷馬車のほうへと走った。
「きゃぁぁぁっ!
「!」
頭上から、夜のしずけさをやぶるようにひびいた
傭兵の男性は じゃまされることなく荷馬車へたどり着き、私を御者台に下ろして、自分も馬車に乗りこんだ。
「ムダだということがわかりませんか? 望みどおり
「あいにくと、先約があるんでね!」
荷馬車のすぐ横へと転移してきた王妃殿下が、私の足をつかむ。
心臓までつかまれたように こわばった私の体を片手で抱いて、傭兵の男性は王妃殿下の腕を
「くっ……!」
王妃殿下の手が離れた直後、傭兵の男性は
今度は道の先に転移してきた王妃殿下を見て、「しつけぇな」とこぼした彼に、私はなんとか力になろうと、口を開いた。
「あの方は、“その場所”を知っていないと、転移できません! まっすぐ走らず、でたらめに進路を変えて、どこにいるか予測がつかないようにしてくださいっ」
「おう、知り合いかっ?」
「は、いっ」
王妃殿下を
手も足もしばられていて、どこかにつかまることができないから、ただ体に力を入れて
「こんなことなら しばらなきゃよかったな。俺のローブのすそでもつかんで、耐えててくれ」
「は、はい……っ!」
身をよじって、うしろ手に彼のローブをつかむと、腰にまわされた腕が離れる。
片手でムチを持った彼は、また道の先に転移してきた王妃殿下を見ながら、馬に軽くムチを当てた。
「ハッ! しっかりつかまってろよ、姫さん。飛ばすぜ!」
その言葉どおり、荷台を引く馬はより速くかけ出す。
私は手のなかに にぎりこんだローブのすそを離さず、夜の街を走る荷馬車にゆられ続けた。
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