邪神 の花嫁 は、金目当ての傭兵 にさらわれる
2,さらわれた姫
「おい、よけいなことはするな!」
制止する言葉を無視して、ベッドわきにたれ下がっている、使用人を呼ぶためのタペストリーを下に引っぱる。
これで使用人がいる部屋に合図がいったはず。
だれかがこの事態に気づいてくれたら、と思っていると、うしろからベッドに押さえつけられて、体がうつ
「っ……!」
「ったく、こっちもムダに ケガをさせる気はないんだ。大人しくしててくれりゃあ、痛くはしねぇからよ」
その言葉どおり、背中側でひとまとめにされた腕は、それほど痛くはないけれど。
硬いひも状のもの、おそらくロープで手首をぐるぐると
「な、なにが、目的、ですか……っ?」
「さぁな。俺の仕事は、
この“
ごくりとつばを飲むと、体があお向けにたおされて、くしゃくしゃに丸めた布を口のなかに押しこまれる。
「んん!」
「あとは足をしばって、と……」
つぶやきながら、傭兵は腰に下げたふくろのなかに手を入れ、取り出したロープで私の足首も拘束した。
この傭兵に連れ出される前に、使用人が来てくれたら――!
そう願う心とは裏腹に、傭兵はだれに じゃまされることもなく、私を肩にかつぎ上げる。
傭兵が歩くたびに感じるゆれと、目の下から頭の先へ流れていくように見える床が、私の
となりの自室へ移動して、ゆっくりと扉を開けながら
月明かりだけが
けれど、そこにコツコツと、もうひとつの足音が遠くから聞こえてきて、希望が胸に差しこむ。
「んんー! んんー!!」
「おいっ」
言葉にならない声でも、と必死にくぐもった声を出せば、すぐさま傭兵が小声でとがめてきた。
「え……? だれか、いるの? ……きゃあっ!」
「チッ、見つかったか……!」
タペストリーの呼び鈴を受けて来てくれたのか、廊下の先に使用人の姿が見えた瞬間、傭兵が舌打ちをして走り出す。
使用人の姿が遠のき、体に伝わるゆれが大きくなって、私は身を硬くしながら目をつぶった。
「2人であの世へ行くことになるから、あばれんなよ!」
「んんっ!?」
傭兵に話しかけられた直後、冷たい夜風が足に吹きつける。
「姫さま!?」とはるか前のほうから聞こえた声に答えるひまもなく、私の体は傭兵ごと、ふわりと浮いた。
あわてて目を開けると、開いたガラス窓が目の前に見える。
ドン、と体の下から
この傭兵、木に飛び移った――!?
「もっかい行くぞ」
「んん!?」
そんな、物語みたいなことを!
目を見開いた私は、木の上から飛び降りた瞬間の浮遊感と、高速で流れていく
ふたたびドン、と体に衝撃が伝わったときには、そのまま意識まで飛んでしまったかと思った。
****
荷台に下ろされて、幕を閉じられたのは はるか前のこと。横たわった体に伝わる連続的な衝撃に耐えている時間が、もうどれほどになったか わからない。
半分気絶しているあいだに馬車が止まり、
「荒い走り方をしてわるかったな。元気か、姫さん?」
「んん……」
弱々しく声を出した私の返答をどう受け取ったのか、傭兵は「そーかい」と答えて歩き出す。
もう、彼の
夜が明けたら
“不吉な姫”である私を、彼の雇い主がどのような目的でさらわせたのか、わからないけれど……。
どこかで、逃げるすきを探さないと。
馬車のゆれにさらされて疲れた体へムチを打つように、私は顔を上げて、周りの景色に目を走らせた。
どうやら傭兵の目的地は貴族の
「今度はしずかにたのむぜ」
私に
ここは、使用人用の出入口……?
薄暗い廊下には、だれかがいるようすは まるでない。
人の
そんな なやみは、けっきょく だれともそうぐうしなかったせいで、意味を持たなかった。
傭兵はしばらく歩いたあと、廊下のとちゅうで足を止めて、コンコンとノック音を立てる。
「失礼しますよ、姫を――、はぁっ?」
カチャ、とかすかに扉を開ける音が耳に入った。
傭兵がおどろきの声をあげたのと同時に、鉄のような、独特の臭いが鼻を
「おい、おいおい……なんで死んでんだよ……!?」
“死”――?
まさかこれは血の臭い? と
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