ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
9,滝戸 高校最強の人
よ、“よかった”…?
目を細めてほほえむ
「家族想いで、ひかえめで、
「え……?」
「――よぉ。女とランチとはいいご身分だな」
とつぜんのほめ殺しにドキッとしたとき、知らない男の人の声が聞こえてきて、びっくりしながら振り向いた。
すると、私たちのうしろに不良男子が5~6人立っていて。
「……なんの用?」
知暖先輩はほほえみながらも、いつもより冷たい気がする声で尋ねる。
「
「そうだ、最近調子に乗ってるみてぇじゃねぇか!」
「はぁ……かわいい女の子の前で口汚くさわがないでくれる?」
「「なっ……」」
ビクビクして知暖先輩と不良男子たちの様子を見ていると、知暖先輩は目を伏せてお弁当にふたをした。
不良男子たちは怒ったように顔をゆがめると、私を見て手を伸ばしてくる。
おそわれる……っ!?
「この状況で“最悪”を選ぶとか、お前たちバカ?」
「いぎッ!?」
「ち、知暖先輩……っ?」
ぎゅっと目をつぶって顔を背けると、知暖先輩の低い声が聞こえて、おそるおそるまぶたを上げた。
知暖先輩はお弁当を階段に置いて、私に向かって伸ばされた腕を立ちながらひねり上げる。
それから私を見てやさしくほほえみ、人差し指を口の前に立てた。
「優衣、怖かったら目、閉じて、耳ふさいでて?」
「は、はい……っ!」
思わずこくこくうなずくと、知暖先輩はにっこり笑ったあとに、不良男子たちへ冷たい視線を向ける。
不良男子たちは一斉におそいかかったのだけど……知暖先輩は軽やかに手足を動かして、攻撃をきれいに
目の前で起こるなぐり合いなんて、怖いはずなのに……知暖先輩の動きがあまりにも
夢中になって知暖先輩をながめているうちに、不良男子たちはいつの間にか全員たおれてしまった。
「……すごい……」
腰に手をついて不良男子たちを見下ろす知暖先輩を見て、ほぅっと心の声がもれる。
知暖先輩は振り向いて私を見ると、目を細めて少しいたずらに笑った。
「――む、遅かったか……」
「あれ、
「あ……」
そのとき、
ぺこっと
「窓からこいつらの姿が見えたから、急いで来たんだが。俺は必要なかったようだな」
「ははっ、俺もひよわじゃないからね」
「あぁ、知ってる。知暖は俺よりも強い、まさしく最強の男だからな」
「え……?」
強二さんよりも強いって……滝戸高校のトップは、強二さんなんじゃないの……?
きょとんとする私をちらりと見た強二さんは、眉根を寄せて目を伏せる。
「俺は実質、知暖に負けたんだ。あのとき――外野の
「外野の、邪魔……?」
「昔の話だよ」
「1年の、冬の終わりのことだ。俺は当時、学年最強と言われていた知暖に勝負を挑んだ。だが、こぶしを
強二さんは校舎のほうを向いて、3階の教室を指さした。
「俺たちの共倒れをねらった2年が、机を投げてきた。知暖は俺をかばって机の下敷きになり……肩に、後遺症が残ったんだ」
「えっ……!?」
「大したものじゃないよ、ちょっと動かしづらくなっただけ。日常生活は充分に送れる」
勢いよく知暖先輩を見ると、当の先輩は笑って自分の右肩をぽんぽんとたたく。
そんなことして大丈夫なのかな……っ。
「それでも……まだ俺と
「どうかな。まぁ、それなら俺を心配する必要もないって分かるでしょ?」
じっと視線を交えていた2人だったけど、知暖先輩が私を見ると、強二さんはため息をついて笑った。
「こいつらの始末は俺がする。知暖たちはゆっくりしろ」
「ありがとう」
知暖先輩はにこっと笑って、不良男子たちを引きずっていく強二さんを見送る。
私も強二さんに会釈をしたあと、眉を下げて知暖先輩を見つめた。
「肩、大丈夫なんですか……? それに、ひどいけがをしたんじゃ……」
「ぜんぶ治ったから平気だよ。でも……優衣がハグしてくれたら、もっとよくなるかも」
「えっ!?」
は、ハグ!?
赤面する私を見て、知暖先輩は「ははっ」と笑う。
よ、よく分からないけど、ハグすると肩がいい感じになるとか、あるのかな……!?
「じょうだ――」
「そ、それでよくなるなら……っ」
私は思いきって知暖先輩に近づき、その背中に腕を回した。
頭上から「え」という声がもれ聞こえる。
ど、どれくらいの強さがいいんだろう……っ?
「……優衣ってほんと、かわいいね」
笑い混じりにそう言った知暖先輩は、ぎゅっと、私を抱きしめ返した。
ドキッとしつつ、これくらいの強さがいいんだ、と理解して、私も腕にぎゅっと力をこめた――。
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