ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
10,夜中の失恋
それも、寝坊したら私に起こして欲しいとか、私がお嫁さんに欲しいとか、私のことを見てて授業を聞き
冗談を言ってくれるくらい仲良くなれたことをうれしく思いつつ、ときめきが抑えられないから、こまってもいる。
夜、なかなか寝つけなくて、なにか温かいものを飲もう、と貸してもらっている部屋を出ると、リビングに明かりがついていた。
誰か起きてるのかな……?
もし起きてるのが知暖先輩なら、明日の放課後、早退してもいいか聞いてみよう。
お父さんにはやっぱり話せないけど、弟の様子を見に行きたいって。
本当は先週の土曜日、知暖先輩と
遅い時間なのを気にして、静かに
「知暖くん、好きよ」
「凛恋さん……」
……知暖先輩の声と一緒に。
廊下の先のリビングで、ソファーに押したおされている知暖先輩と、そんな知暖先輩に目を閉じて顔を近づける凛恋さんを見てしまった私は……。
すぐに体を反転させて、物音を立てないように、けれどすばやく自分の部屋に戻る。
凛恋さんが……とうとう、告白しちゃった……。
私はバクバクする心臓を抑えこむように、ベッドにもぐりこんでぎゅっと目をつぶった。
****
「
「ごめんなさい、私お手洗いに行ってきます……!」
翌日の休み時間、私は知暖先輩から離れるためにうそをついて、1人で3年2組の教室を出る。
最初のころは1人で校内を歩くなんて考えられなかったけど、失恋のショックが私を
「待って、優衣――!」
うしろから聞こえる知暖先輩の声に胸を痛めながらも、私はかけ下りるように階段を下っていく。
休み時間が終わるまで、どこで時間をつぶそう? やっぱりトイレが安全かな……?
視線を落として考えごとをしていたせいで、前に人がいたことに直前まで気づかなくて、私はおどり場でどんっと男子にぶつかってしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい……!」
「いや……、
「え……? あ、
名前を呼ばれたことにびっくりして男子の顔を見ると、私がぶつかってしまった相手はどうやら仁木くんのようで。
「……1人なのか?
「えっと……お手洗いに行こうと思って。すぐ
「それで許したのか? 女が1人で歩くにはあぶない学校だろ」
仁木くんは眉根を寄せて、さらに不機嫌そうな様子で言った。
うそをついたせいで、知暖先輩の印象が悪くなっちゃった……っ。
「あ、ち、違うの、本当はちょっと、知暖先輩から離れたくて……1人で、出てきちゃったんだ……」
「……。いやなことをされたなら、本人に“いやだ”って言え。俺が味方してやる」
「えっ?」
仁木くんは私の手首をつかむと、階段の上に私を連れていく。
ぽかんとしてから、「あ、そういうわけじゃなくて……!」と仁木くんを止めようとしたんだけど、3階には知暖先輩が下りてきていた。
「おい、あんた。笹森がいやがることをするな」
「……優衣」
仁木くんは知暖先輩がいることを分かっていたかのように、動じることなく先輩を見上げて言う。
知暖先輩は眉を下げてまっすぐ私を見ていて、私はすぐに視線を落とした。
「ごめんなさい……っ、仁木くんもごめん……!」
「笹森?」
「待って優衣、1人じゃ――」
私は仁木くんの手を外して、2人に背中を向けるように階段をかけ下りる。
トイレ……じゃ、やっぱりすぐ見つかっちゃうかも。
どこか、不良男子がいない場所に隠れていよう……!
私は1階に下りて、あたりをきょろきょろと見ながら、廊下を小走りに進んだ。
「あ? うわさの転校生じゃねぇか」
「1人なんてラッキ~。鬼も近くにいなきゃ怖くねぇってな、ハハッ! なぁ、俺たちと遊ぼうぜ」
「え……す、すみません……っ」
中央の
私は少し後ずさって、すぐに去ってしまおうと、頭を下げてから廊下の奥に行こうとしたのだけど。
「待てって、乱暴なことはしねぇからさぁ?」
がしっと二の腕をつかまれてしまって、逃げられなくなった。
「あ、あの、私、今用事があって……っ」
「そんなのあとでいーって。俺らと楽しいことしよーぜ?」
「っ……」
やっぱり、1人で校内を歩くなんてよくなかったかな……。
後悔しながら、どうやって逃げようか考えていたとき。
「その手、離して?」
知暖先輩の声がして、安心と胸の痛みが同時におそってきた。
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