ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
7,もう1人の女の子
「かわいい女の子になにをしてるんですかっ、この変態男!!」
前髪をセンター分けにした、肩上まですとんと落ちた黒髪の活発そうな女の子は、そうさけぶとこっちにかけ寄ってきて。
ひざ下までの黒いソックスを履いた足をきれいに伸ばして、不良男子のわき腹を蹴った。
ぽかん、としているあいだに、女の子は不良男子の腕をつかんで私の手首を離させ、「下がっていてください」と私たちのあいだに入る。
「女子トイレに入りこんで美少女をおそうなんてっ、死罪です!!」
「くそっ、ぐぁッ!」
1、2歩下がって女の子を見ていると、逃げようとした不良男子を空手のような動きでなぐって蹴って、あっという間にたおしてしまった。
タイルの床にくずれ落ちた不良男子はピクリとも動かない。
「大丈夫ですか。おけがはありませんか?」
「は、はい……ありがとう、ございます……」
強くつかまれた痛みが残っている左の手首をなんとなく押さえながら、目を丸くして答えると、女の子は自己紹介をしてくれた。
「私は1年3組の
「あ……えっと、私は
美少女さん……?と
だ、大丈夫かな……。
というか、この学校って私の他にも女の子、いたんだ……。
「先輩でしたか。私の他にも女子がいたなんて知りませんでした」
「うん、私も……あ、私は一昨日転校してきたばっかりなんだけど」
「そうなんですね。だから優衣先輩の存在が耳に入らなかったんですか」
「そうかも」
笑って答えたあとに、床にたおれこんでいる不良男子を見て「えっと」とつぶやいた。
この人……どうしたらいいんだろう?
とりあえず、
「あ、この男はひとまず廊下に出しておきますので、ご安心ください」
「え……あ、ありがとう。手伝おうか……?」
「いえ、優衣先輩にそんなことはさせられません! 私けっこう力持ちなので、大丈夫ですよ」
真陽ちゃんはにこっと笑って、不良男子をトイレの外まで引きずっていく。
完全に気絶してるからしばらくは大丈夫、と聞いて、おたがいトイレに来た用事を済ませることにした。
かがみの前にならんで手を洗うと、真陽ちゃんからかがみ越しにじっと見つめられて、なにかついてるかな、と自分の姿を見る。
ミルクティー色の、胸の下まであるくせっ毛に、いつも通り前髪を編みこんだ姿。
たれ目気味なピンク色の瞳の周りにもおかしなところはないし、セーラー服の赤いリボンもまがってない。
「あの……どうかした?」
「はっ、すみません。あまりにもお顔が整っているので、つい見惚れてしまって。美男美女のお顔を鑑賞するのが生きがいなものですから」
「えっ……えぇと、ありが、とう……」
そんな真顔で言われたら、お世辞だって分かってても照れちゃうんだけど……っ。
「優衣先輩、こんなぶっそうな学校ですから、今後もなにかあれば私を呼んでください。というか、優衣先輩の教室に行って男たちに忠告してやります!」
「あ、大丈夫なのっ。私、3年生の人に守ってもらえてて……今日は、たまたま1人になったところをねらわれたみたい、で……」
「そうでしたか……であれば、今後は一緒にトイレに行きましょう。私、空手をならっているので」
にっこり笑う真陽ちゃんの提案をもうしわけなく思いつつ、またこんなことがあったら……と眉を下げて、私はうなずいた。
「……うん、お願いしてもいい、かな?」
「もちろんです!」
それから、連絡先を交換しましょうと言われたんだけど、スマホがないことを説明して、トイレに行きたいときに真陽ちゃんの教室へ行くことに。
2人でトイレを出ると、
「た、
「寺岡……に、笹森、だったか。これはなんだ?」
私の名前、知ってるんだ……。
それに、真陽ちゃんとも知り合い、みたい……?
「あぁ、その男が女子トイレに入りこんで優衣先輩をおそっていたもので……」
「……なに? 大丈夫か?」
「あ、う、うん。真陽ちゃんがすぐに助けてくれたから……」
真陽ちゃんの説明を聞いて私に視線を向けた仁木くんに、
「そうか……なにかあれば俺も力になる。えんりょなく頼れ」
「え……あ、ありがとう、仁木くん」
そんなふうに言ってもらえるとは思ってなかったから、びっくりした。
仁木くんはクールに私を見て口を開く。
「階段のところにいたの、笹森を待ってるんだろ。早く戻れ」
「う、うん。……それじゃあ真陽ちゃん、本当にありがとう。またね」
「はい、また! この変態男は職員室に突き出しておくので、ご安心ください!」
「あ……ありがとう。任せちゃってごめんね……」
「いえ!」
笑顔で答えてくれた真陽ちゃんにもうしわけなく思いつつ、手を振って、知暖先輩が待っている階段に戻った。
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