ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
6,予想外の同居人
最上階の、612と書かれたその家のなかでは、
「“彼氏と
「え……えっと……」
ダイニングのテーブルに置かれていたメモを持ち上げた知暖先輩は、中身を読み上げて顔を引きつらせる。
つまりは、お姉さんがちょうど今日から家を出ていっちゃった……ってこと?
おろおろして、きれいに片付けられている家のなかに視線をただよわせると、知暖先輩がため息をついた。
「はぁ……ごめん、
「い、いえっ」
「優衣を泊めてって頼める人が……あぁ、そうだ。ちょっと電話してもいい?」
「あ、はい、どうぞ……」
それから知暖先輩が電話をかけた相手は、例の“
話が知暖先輩の想定していない方向に転がっていったんだろうな、っていうのは、電話しながら
知暖先輩が電話をかけてから10分後に、ピンポーンとインターホンを鳴らしてやってきた美人なお姉さんを前にして、私は
「やっほ~、知暖くん。その子が知暖くんが拾ったっていう女の子?」
頭の形にそった、暗い紫色のショートヘアに、赤いつり目の女の人。
にこっと知暖先輩に笑ってみせた凛恋さんは、口角を上げながらじろじろと私を見る。
「拾ったって……優衣は犬猫じゃないよ。凛恋さん、本当にうちに泊まる気?」
「ふーん、優衣ちゃんって言うんだ。
苦笑いする知暖先輩に、凛恋さんはにっこり笑って答えた。
どうやら、このお姉さんが知暖先輩の家に泊まって、私たち3人で生活することになる……みたい?
「俺、そんなに子供じゃないんだけど。まぁ、凛恋さんが来てくれるならそれはそれでいいや。優衣、この人が姉さんの友だちの
「あ……は、初めまして、よろしくお願いします……っ」
「で、凛恋さん、この子が滝高に転校してきちゃった
「よろしく」
凛恋さんは私ににこっと笑いかけてくれて、知暖先輩と仲良さそうに話しながら、リビングに上がる。
私も2人のあとについていくと、知暖先輩が少し離れたタイミングで、凛恋さんからひそっと言われた。
「優衣ちゃん、知暖くんはあたしの彼氏になる予定だから。知暖くんがやさしくても、勘違いしないでね?」
「え……」
おどろいて凛恋さんの顔を見ると、きれいな笑顔を向けられて、私はこくりとうなずくことしかできなかった。
凛恋さんは……知暖先輩のことが好きなんだ。
胸がちくっとしたのをふしぎに思いながら、私たち3人の同居生活は始まったのだった。
****
知暖先輩と凛恋さんとの同居生活は、気を遣うことはあっても、凛恋さんがそっせんして家事をしてくれるから、すごく楽をさせてもらっている。
滝戸高校に来てから3日目になり、私は休み時間、トイレに行くために知暖先輩と階段を下りていた。
この学校は知暖先輩が言っていた通り共学校で、女子トイレも各階にあるんだけど、ふだん使われることがないせいで利用するのはオススメできないと……。
先生の目が届く、1階の女子トイレに行くことを
「じゃあ、俺はここにいるから。なにかあったら大きい声出して教えて」
「はい。すみません……」
1階の階段で足を止めてほほえむ知暖先輩に、毎回ついてきてもらうもうしわけなさを感じながら頭を下げたあと、私は1人で
静かな廊下に1人分の足音をひびかせてトイレに入ると、私は大きく目を見開く。
「えっ……? ん――!」
「静かに。乱暴なことはしねぇ、ちょっと俺と話そうぜ?」
女子トイレのなかに不良男子がいたことにおどろいた次の瞬間、私は不良男子の手で口と鼻をふさがれて、一切声を出せなくなった。
ぞわっと恐怖心が湧き上がって両手で不良男子の手を離そうとすると、左腕の手首をぐいっとつかまれる。
「大人しくしてくれよ、じゃないと“乱暴”しちまうだろ?」
「――! ――!」
にやぁっと笑う不良男子が怖くて、じわりと涙が浮かんできた。
「前からかわいいなーと思ってたんだ。でも赤髪の野郎がそばにいるせいで声かけられないからよぉ。こうやってあんたが1人になるトイレで待ち伏せてたんだぜ?」
「――!」
やだ、やだ……っ。
知暖先輩に助けを求めないとっ、でも、まったく声が出ない……っ!
どうしよう、どうしたらいいの……!?
不良男子から
そのとき、なにか言おうとした不良男子の視線が私のうしろにそれて――。
「チッ、“イケメン狂い”か……!」
「――!」
「な……っ!?」
うしろを見ると、私と同じセーラー服姿の女の子がトイレの入り口に立っていた。
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