ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
5,下校も、一緒に
3年生の授業を聞き流しながら、教科書とにらみ合って自習するのは慣れないけど、言葉通り知暖先輩がちょこちょこ解説してくれたし。
2年2組の教室に入って感じた学校生活への不安もかなり薄れた気がする。
「
「えっ……い、いいんですか? 下校時間までお世話になっちゃって……」
となりから声をかけてきた知暖先輩を、びっくりしながら見ると、「うん」とほほえみかけられた。
知暖先輩は席を立ってスクールバッグを肩にさげながら、私を横目に見て言う。
「優衣かわいいし、うちのやつらにあとつけられたら大変だから、家まで送るよ」
「えっ……!? い、家までなんてっ」
それに“かわいい”ってさらっと言われるのも照れちゃう……。
お世辞だって分かってるけど、それでもうれしい言葉だもん。
「というか……この学校ってやっぱり、“寮”とかない感じですか……?」
「寮? いや、ないけど。……もしかして、住む場所ない?」
気遣うように眉を下げて聞かれて、私は席を立ちながらあわてて両手を振った。
「い、いえっ。ただ、寮だと聞いていたので……」
「そっか。家があるならよかった。とりあえず、帰りながら話そうか」
「あ、はい……」
ほほえむ知暖先輩にうなずいて、私はスクールバッグを持ち、遠目からちらっと見てくる3年2組の人に
階段を下りていくと、他の学年の人もいる分、たくさんの視線を感じたんだけど……知暖先輩がそばにいるからか、声をかけられることはなかった。
私は寮と聞いた引っ越し先のアパートまで歩いて帰りながら、知暖先輩に昨日の夜アパートに移り住んだことを話す。
たまに紙の地図を見て道を確認しながら20分歩くと、アパートに着いた。
「あ、ここです。送ってくださってありがとうございました」
「……え、本当にこのアパート?」
「は、はい……2階の、はじっこから2つ目の部屋です」
ぽかん、とした顔で目の前の古びたアパートを見ている知暖先輩は、アパートを見つめたまま、私に聞いた。
「……優衣は、ここがお嬢さま学校の寮だって信じてたの?」
「う……そ、その、私みたいな
確かに、手すりや階段はさびついているし、壁は色あせているし、扉は立てつけが悪くてスムーズに開かないし……。
階段を登って、すみに穴が空いてる段を見つけたときはちょっと怖かったけど、どんなところでも住めば都っていうし……っ。
「……これはちょっと、心配すぎるな。元の家は遠いの?」
知暖先輩は乾いた笑みを浮かべながら首に触れて、私に視線を向ける。
「はい……電車を乗り換えていかないと」
「そっか。うーん……しばらく俺の家に来る?」
「えっ?」
目を丸くして知暖先輩を見ると、先輩は眉を下げてほほえみながら私に顔を向けた。
「お父さんに連絡とって、今の状況伝えなよ。かんたんに転校できないとしても、家は防犯がしっかりしてるとこを探してもらったほうがいい」
「あ……でも、スマホは叔母さんの家に置いてきてるので……それに、大変なときに心配をかけたくないし……どんなところでも、住めれば大丈夫です」
「女の子が1人でこんなところに住むのはあぶないよ。娘が知らないところでこんな状況になってるほうが、お父さん、いやだと思うけど?」
「……でも……」
視線を落として、スクールバッグのベルトをきゅっとにぎる。
お父さんは叔母さんが私をきらってることも知らないし……。
やっぱり、お父さん自身が大変なときに、よけいな心配をかけたくない。
私は、なんとかやっていけると思うし……。
「……分かった。とりあえず、うちに来なよ。俺と姉さんの2人暮らしなんだけど、姉さんも事情を話せば分かってくれると思うから」
「え……」
顔を上げて知暖先輩を見ると、にっこり笑いかけられる。
「お父さんに話してもいいって思えるまで、うちにいていいよ。結局お父さんには話さないとしても、姉さんの友だちとルームシェアできないか聞いてみるから」
「そ、そんな、もうしわけないです……っ! 知暖先輩には、彼女もいるのに……!」
よその女子と、お姉さんが一緒とはいえ同じ家に住むなんて……。
彼女さんがどんな気持ちになるか、と眉を下げていると、知暖先輩は目を丸くして「え?」と言った。
「彼女なんて、いないけど」
「えっ? で、でも、朝電話してた女の人が……」
「あぁ、
にこっと笑う知暖先輩を見て、おどろきつつ安心してしまったのはなぜだろう。
それでも知暖先輩たちにもうしわけない、と口元に手をやると、知暖先輩は体の向きを変える。
「おいで。“どんなところでも住めれば大丈夫”、でしょ?」
私を見ていたずらにほほえむ知暖先輩に負けて、私は「……はい」と答えてしまった。
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