ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
4,遠藤先輩の彼女?
女の人、なのかな……。
私のとなりに座ってスマホを耳に当てる
「ははっ、俺の声が聞きたかったって、なにそれ。大学もひまじゃないでしょ?」
大学生の人なんだ……。
仲、よさそうだな……。
もしかして、遠藤先輩の彼女さん、とか……?
愛想のいいほほえみを浮かべて視線を落としている遠藤先輩を盗み見ていると、先輩に気づかれてしまったようで、視線が合った。
遠藤先輩はにこっと笑ってくれたけど、通話相手になにか言われたのか、すぐに視線をそらしてしまう。
「遊び? うーん、その日ならいいよ。……ダメ、滝高に来るのはあぶないって言ってるでしょ。凛恋さん美人だし絶対からまれるから」
「……」
胸がちくっと痛んで、私は遠藤先輩から視線をそらした。
遠藤先輩はやさしいから私を守ってくれるだけ。
赤の他人の私でさえも守ってくれるんだから、そのやさしさが他の人に……ましてや彼女に向くのは変なことじゃないのに。
……どうして、こんなに胸が痛むんだろう。
「うん、うん……じゃあね」
電話、終わったのかな……。
なにもしないのも落ちつかなくて、スクールバッグから教科書や筆箱を取り出そうと手を伸ばしたら、遠藤先輩の声が飛んでくる。
「あ、勉強は俺が教えてあげるから。基本自習になっちゃうけど、先生にプリントとか作ってもらえるように頼んでおくよ」
「え……あ、ありがとうございます」
びっくりして視線を上げると、遠藤先輩はにこりとほほえんだ。
「……遠藤先輩って、先生方と仲がいいんですか?」
「うーん、信頼はされてるかな。他のやつらと比べたらずいぶん聞き分けがいいほうだと思うし。うちに女の子が来るって教えてくれたのも先生たちなんだ」
「そ、そうなんですか……」
それって、けっこう仲がいいんじゃ……。
「ていうか、
「えっ」
い、いいのかな、遠藤先輩、彼女がいるのに……。
でも、不良男子にからまれないための名前呼び、っぽいし……。
私はおずおずと、ほほえんでいる遠藤先輩を見つめて口を開いた。
「そ、それじゃあ、知暖、先輩……」
「うん」
ほめるように目を細めながら笑う顔が甘く見えて、ほおに熱が集まる。
知暖先輩って、かっこよすぎる……っ。
恋人がいる人にときめくなんて、と自責しながら目をそらすと、
「あ、
「お前が女子を4階に連れてきたと聞いて様子を見にきたんだが」
ちらりと廊下のほうをうかがえば、教室に入ってきたのは大きくて分厚い体をした、こわもての男の人で。
怖そうな人……っ、と思ってすぐに顔を背ける。
「耳が早いね。
「そうか。大丈夫なのか?」
「女の子1人くらい守れるよ」
「いや、そういうことじゃ――」
「強二は過保護だな。俺も滝高で2年やってきてるんだし、大丈夫だって」
笑い混じりの声を聞いて、知暖先輩と仲のいい人なのかな……と、視線は向けずに2人の様子をうかがった。
強二さんはしばらくだまりこんだあとに「そうか」とため息混じりの声で答える。
「なにかあったら、俺にも言ってくれ」
「もちろん。頼りにしてるよ、滝高トップの男?」
「……あぁ」
やっぱりため息混じりの声で答えた強二さんは、それで話を終えて帰っていったみたいだった。
“滝高トップの男”って……さっきの男の人が、この学校で一番ケンカが強い人、っていうことなのかな?
知暖先輩はいったい……って、そういえば“滝高のナンバー2”って言ってたっけ。
え、それじゃあ強二さんの次にケンカが強いの? 知暖先輩って……。
気づいた事実にびっくりして知暖先輩を見ると、廊下に顔を向けていた先輩は振り向いて私を見る。
「あいつ、怖かった? 見た目はいかついけど、今は落ちついてるからふつうに話す分には大丈夫だよ」
「あ……は、はい」
「俺がいないときになにかあったら、強二を頼りな。って言っても、
ほほえむ知暖先輩を見てドキッとする胸をなだめつつ、人をなぐったりなんてぜんぜんしなさそうな知暖先輩の顔を見つめた。
「……なぁに、優衣? そんなに見つめられたら照れるんだけど」
ふっと、やわらかく笑いながらそんなことを言われて、私は「す、すみませんっ」とあわてて視線を外す。
やっぱり、知暖先輩がケンカに強いようには見えない……。
ふしぎな人だな、と思いながら、私はまたちらっと、知暖先輩を盗み見た。
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