ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
3,転校した理由
自然な名前呼びにも、守ってくれるという言葉にも、ドキッとする。
「ありがとうございます……」
「ううん。こうやって裏でサポートするのが俺の役目だから」
裏でサポート……?
ほほえんで答える遠藤先輩を見てふしぎに思いながら、歩き出した先輩についていく。
周りを見て、男子校かと思うくらい男子しかいない校内に、ここまでお嬢さま学校と正反対な学校もないだろうなぁ……と考えた。
「
「え……あ、えっと、その。先月、お父さんが勤めていた会社が、倒産して……
階段を登りながら、となりにならぶように足を緩めてくれた遠藤先輩をちらりと見て、視線を落としながら答える。
「叔母さんの旦那さんって、いくつも会社を経営してる人で、いわゆるセレブな家庭というか。
「うん」
「私と弟も、叔母さんの好意でいい学校に転校させてもらえることになって。私は女の子だからと、お嬢さま学校に転校させてもらえる、という……」
話、だったと思うんですけど……と、小さく続ければ、遠藤先輩の「え」とおどろく声がとなりから聞こえた。
改めて口にしても、当事者の私でさえよく分からない状況なんだよね……。
「もしかして、それで実際に来てみたら、滝高だった……とか?」
「……はい」
「……優衣って、その叔母さんとあんまり仲良くないの?」
どこか気遣うような、慎重に尋ねる声を聞いて、肩を丸めるように体を小さくする。
正直なところ……。
「きらわれてる、みたいです……もともと、叔母さんとお母さんは姉妹仲がよくなかったという話で……私はお母さんによく似てるみたいだから」
「……そっか。なんというか……ふびんだね」
「うぅ……」
同情されると、現実を認めざるをえない……。
私、叔母さんにきらわれるあまり、この学校に転校することになったのかな……。
なにかの間違いじゃなくて、わざとうそをつかれたんだとしたら、かなりショックかも……。
校則が厳しいからってスマホも家に置いてきたし、寮があるって聞いて遠くまで引っ越してきたし……もしかしてあのアパートも、本当は寮じゃない……?
「……
「健って……弟?」
「あ、はい……弟は、従弟と同じ学校に転校するはずなので、学校にいなかったら従弟が気づくとは思うんですけど……」
健はちゃんと従弟たちと同じ学校に転校できてるのかな……?
どこか大変な学校に転校させられてたりは……。
心配で口元に手をやると、となりから遠藤先輩のやさしい声が聞こえた。
「家族想いなんだね。こんな状況なのに、弟の心配をするなんて」
「そ、そんな……お父さんも仕事がなくなって大変だろうし、お母さんは天国にいるし……私が気にかけてあげないと、誰も気づけないかもしれないから」
私は高校2年生になったけど、健はまだ中学3年生になったばかりだから、助けを必要としていたら助けてあげないと。
ほめられるほどのことではないのに、遠藤先輩を見るとほほえんで私を見つめていたから、ほおが熱くなって視線をそらす。
「いい子は、なおさら
笑うようにつぶやいた遠藤先輩は、階段の前の教室を通り過ぎて3年2組に入り、「みんな、ちょっといい?」と声をかけた。
私は、とうとう3年生の教室に着いてしまった……!と
教室のなかにいたのはやはり不良男子ばかりで、全員の視線が私に向いていることに気づくと、肩が跳ねた。
だけど、遠藤先輩がその視線を断ち切るように、ひらひらと手を振る。
「2年の転校生、俺が面倒見ることにしたから。うちの教室に通うけど、ビビらせないように頼むよ」
「え、アイドル……? 超かわいくね……?」
「あの1年とはタイプちげーの?」
「こっちの子はかよわいお姫さま。かわいいから近づきたいのは分かるけど、俺らに慣れてないから、遠くから見守る感じでよろしく」
「「おう」」
向けられた視線の数に緊張したものの、遠藤先輩が話すとみんな視線をそらして、ちらちらとしか見てこなくなった。
同じクラスの不良男子たちよりも怖くなさそう……というか、少し理性的な感じで、ちょっとほっとする。
「おいで、優衣」
「あ、はい……」
振り返った遠藤先輩にうながされて、私は緊張しながら3年2組の教室に入った。
遠藤先輩が2年の不良男子に移動を頼んでいた私の机とイスは、そのあとすぐに運びこまれて、スクールバッグも元の位置に戻される。
さっきの教室と同じ、窓ぎわの一番うしろの席。
だけど、となりには遠藤先輩の席がある。
ドキドキしながら席に座ると、遠藤先輩がいるほうから電話の着信音が聞こえた。
「はい、もしもし。どうしたの、
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