ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。

2,私を守ってくれる人

約2,100字(読了まで約6分)



「……なんだ?」


 “仁木(にき)大我(たいが)”くんは、ストレートの黒髪に青いつり目をした、不機嫌(ふきげん)そうな顔つきのイケメンだった。
 教室のなかから出てきた仁木くんは、ちらりと私を見て眉をひそめたあとに、やさしそうなイケメンの人を見る。
 イケメンな人は私に向けたのと同じ、愛想のいいほほえみを仁木くんに向けて言った。


「きみさ、2年のトップとして、この子が平穏な学校生活を送れるように守ってあげてよ」


「……」


 2年のトップ……? 平穏な学校生活……??
 話についていけなくて、イケメンな人と仁木くんを交互(こうご)に見ていると、仁木くんの視線も私に向く。
 じっと見つめられて緊張(きんちょう)していると、仁木くんはイケメンな人に視線を戻して口を開いた。


「それはいいが、俺の頼みも聞いてもらおうか」


「頼み?」


「俺とタイマンを張れ」


 たい……まん……??
 どこかで聞いたことがあるような、ないような言葉に引っかかっていると、イケメンな人は「ははっ」とさわやかに笑う。


「それ、頼みじゃなくて要求でしょ。めんどくさいからパス」


「……チッ」


「俺が言ったことも忘れて。タイマン要求されるくらいなら、この子の面倒は俺が見るから」


「それは――」


 仁木くんがなにか言いかけているのを無視して、イケメンな人は私にほほえみかけてから、来た道を引き返した。
 え、と無視された仁木くんを見て、イケメンな人の背中を見て、置いていかれないようにあわてて歩き出すと、彼は私のクラスに入って。
 壁に固定されている、明らかに教員用っぽい電話を取り、悩む様子もなくボタンを押す。


「あ、もしもし。3年2組の遠藤(えんどう)です。2年2組の女の子ですけど、うちで面倒見ることにしたので、よろしくお願いします。……はーい、それじゃ」


「あの……」


「あぁ、連れ回してごめんね。きみの名前、聞いてもいい?」


「えっと……笹森(ささもり)優衣(うい)です」


 受話器を壁に戻した遠藤先輩の質問に答えると、先輩は「優衣、か」とほほえんで私を見た。


「俺は遠藤(えんどう)知暖(ちはる)。滝高のナンバー2ってところかな。不良のなかに1人じゃ怖いでしょ? うちにおいで。守ってあげる」


「え……」


 きょとんとして、やさしいまなざしをしている遠藤先輩を見つめる。
 “滝高のナンバー2”って言われても、よく分からないけど……。
 不良男子から、遠藤先輩に守ってもらえるってこと?
 ちらりと教室のなかにいる不良男子たちを振り返ると、やっぱり居心地が悪そうな様子で、遠藤先輩を見ていた。

 ただのやさしそうなイケメンの男の人に見えるけど……遠藤先輩は、不良男子たちを抑制(よくせい)するなにかを持っているみたい。
 自分でも、卒業するまでこの学校で過ごせるか不安だったし……遠藤先輩の言葉に甘えてもいい、かな?


「……はい。よろしくお願いします」


 おずおずと、上目遣いに遠藤先輩の顔を見て小さく答えると、先輩は満足そうに目を細めた。
 こぼれた笑みがかっこよくて、見ているだけでじゅわっとほおが熱を持ってしまい、視線を下げる。


「優衣の席は一番うしろだったね」


 遠藤先輩が教室のうしろへ向かうのが見えて、あわてて学ランを羽織(はお)った背中についていくと、今度は誰にも止められることなく席についた。
 遠藤先輩はちらりと私を見て、追いかけてくる猫をかわいがるように笑うと、机のフックに下げていた私のスクールバッグを持つ。
 そして、周りの不良男子に目を向けた。


「悪いけど、誰かこの机とイス、3年2組まで運んでくれる?」


「「は、はい……!」」


「え……?」


 3年2組まで、って……もしかして“うちにおいで”って、“うちのクラスにおいで”って意味だったの……!?
 そんな、3年生のクラスなんて緊張するんだけど……っ。
 しかも机まで運びこむなんて……!
 遠藤先輩の言葉の意味をようやく理解して焦っていると、遠藤先輩は「行こう」と私にほほえんで廊下(ろうか)へ出た。

 不良男子ばかりの教室に取り残されるのも心細いから、あわててついていけば、遠藤先輩が振り返って、黒いセーラー服の胸元に手を伸ばす。


「これは俺があずかっててもいい? クラストップじゃなければふつうはねらわれないんだけど、たまに全員分集めようとするやつがいるから」


「え……? 校章、ですか?」


 距離の近さにドキッとしつつ、遠藤先輩の指先がつまんだものを見て、首をかしげた。
 校章を集めるって……どんな意味があるんだろう?
 視線を上げると、遠藤先輩は私のえりに視線をとめて、校章を外しながら「うん」と答える。


「この学校、見た通り不良ばっかなんだけど、ケンカの腕で序列が決まっててさ」


「け、ケンカ……っ?」


「各クラス、トップのやつの校章を全員分集めたら、滝高トップに挑めるっていうルールがあるんだ」


「は、はあ……」


 ダメだ……私にはついていけない……。
 想像以上にぶっそうな学校だっていうのは分かったけど……。
 校章を外し終えて、私のえりから手を離した遠藤先輩は、私の顔を見て安心させるようにほほえんだ。


「大丈夫。優衣が巻きこまれることがないように、俺がちゃんと守るから」



ありがとうございます💕

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