ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。
11,本音と本音、秘めたもの
「え……
「いや、俺らはただホゴしてあげようと思って……っ?」
不良男子たちはとたんに顔をひきつらせて、ぎこちない笑顔を浮かべながらゆっくりうしろに下がる。
腕を解放されてほっとしていると、うしろから肩を抱かれた。
「言いわけとかいいからさ。さっさと消えな」
「「は、はいっ!」」
知暖先輩の手が肩から離れたあとも、私は先輩を見ることができず、うつむきながら口を開いた。
「ありがとう、ございます……1人で出てきて、すみません……」
「……ううん」
私に答える知暖先輩の声は、いつも通り穏やか。
でも、「
「……ごめん、優衣がいやがるようなこと、しちゃった? 俺といるのがいやだったら、
「っ……違うん、です……」
あくまでもやさしい知暖先輩の言葉に、胸が温かくなるのに、やっぱり苦しくて。
私はぎゅっと目をつぶって、うつむきながら罪深い自分の気持ちを吐き出した。
「私が勝手に……傷ついちゃって……! 知暖先輩が
「え……?」
「ごめんなさい……っ。知暖先輩はやさしいだけって分かってるのに……知暖先輩のせいじゃないんです、私が……」
勘違いしないでって言われてたのに、知暖先輩のこと、好きになっちゃったから。
昨日の夜に見た光景を思い出して、涙がにじんでくる。
ぎゅうっと胸を押さえつけるように両手をにぎりこむと、私の横を歩く足音がして、肩に手を置かれた。
「優衣……どうして俺と凛恋さんが付き合った、なんて思ったの?」
「っ……昨日の、夜……私、見てしまって……」
「……そっか。ねぇ、顔上げて? 俺、それで優衣に避けられるのはこまるんだ。俺が好きなのは、――優衣だから」
「……えっ?」
知暖先輩は両手で私のほおを包んで、ゆっくり顔を上げさせる。
大きく目を開くと、涙がこぼれ落ちた。
知暖先輩は眉を下げてほほえみ、親指で私の目の下をぬぐう。
「泣かせちゃってごめんね。凛恋さんとはなにもないよ。キスは止めたし、告白もことわった」
「ことわ……ったん、ですか……?」
「うん。俺は優衣が好きだから、凛恋さんの気持ちには
やさしく見つめられて、ドキドキと鼓動が加速し始めた。
“優衣が好き”って……聞き間違い、じゃないよね……?
「どうして……私なんか……」
「“なんか”って、優衣は充分魅力的な女の子だけど?」
知暖先輩は笑って、私を見つめながら目を細める。
「不良におびえてるかよわいところは守ってあげたくなるし、家族想いでやさしいところはいいなって思うし」
「え……っ」
かぁっとほおに熱が集まるのを感じていると、知暖先輩はほほえんだまま続けた。
「ひかえめで、
「そ、そんな……っ」
「そうやって顔を赤くしてるところもかわいいよね。朝起きて顔を合わせたら、“おはようございます”ってほほえんでくれるのもかわいくて……」
こ、これ、もしかしてまだ続くの……っ!?
知暖先輩にそんなほめ殺しにされたら、私、ドキドキが激しくなりすぎて、熱が出ちゃう……っ!
「ごはんをおいしそうに食べるのもかわいくて、俺の分もあげたくなるんだけど、お
「も、もう充分ですっ。それ以上は、私……っ!」
ほおを包む知暖先輩の手が冷め気味に感じるくらいまっかになって止めると、知暖先輩はやわらかく笑って、少し私に顔を近づける。
「好きだよ、優衣。俺も、期待していい?」
「っ……」
私の顔をのぞきこむ知暖先輩を上目遣いに見つめて……私は少しためらってから、口にすることはないと思っていた言葉を、胸の奥からすくいとった。
「……はい……私も、知暖先輩が好きです」
ドキ、ドキ、ドキ、と胸から大きな音がひびく。
知暖先輩はとろけるように甘くほほえんで、さらに顔を寄せた。
唇に訪れた感触にバクッと心臓が跳ねると、知暖先輩はしばらく体温を分け合って。
数秒後に、そっと顔を離して、大人っぽく私を見つめる。
「ごめん、がまんできなかった。……あのね、優衣にひとつ伝えなきゃいけないことがあって。凛恋さん、今日から家に帰るって」
「えっ?」
「今夜から、俺と2人でもいい?」
じっと見つめられて、私の心臓はバクッ、バクッとさわがしくなった。
ち、知暖先輩と、今夜から2人っきり……!?
「優衣がいやだったら……」
「い、いやじゃないですっ! でも、ドキドキして……っ」
「ふふっ、俺も。……本当はね、優衣をよそに行かせたくないんだ」
知暖先輩は私のほおをなでて、どこか
「俺のわがままを聞いてくれるなら、うなずいて。俺はこれからも、優衣と一緒にいたい」
「っ……はい……私も、知暖先輩と一緒にいたいです……!」
ドキドキを乗り越えて答えると、知暖先輩はうれしそうに笑って、私にキスをした。
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