ふびん女子は、隠れ最強男子の腕のなか。

エピローグ

約2,100字(読了まで約6分)


 家でゆっくりしたり、街へデートに出かけたり、知暖(ちはる)先輩の甘さにドキドキしっぱなしだった土日が明けて、ふたたび学校に来た月曜日。
 5時間目の終わりに、私たちは一足早く教室を出た。


遠藤(えんどう)知暖(ちはる)

「ん? 2年トップと1年トップがおそろいで、どうしたの?」


 知暖先輩と階段を下りると、仁木(にき)くんと真陽(まひる)ちゃんに出会う。
 “2年トップ”は仁木くんとして、“1年トップ”って……もしかして真陽ちゃんのこと?
 あのあと、仁木くんは様子を見に教室まで来てくれて、知暖先輩にいやなことをされた、っていう誤解は解けたはずなんだけど。
 いつもより近づきがたい、ケンカを売る直前、みたいな顔をした仁木くんは、知暖先輩をまっすぐに見て口を開いた。


「あんたにタイマンをもうしこむ。……残りは、あんたと笹森(ささもり)の校章だけだ」

「え……」

「遠藤先輩のそれ、大我先輩に渡していただきます」

「ふぅん……きみたち、手を組むことにしたんだ?」

「恋は盲目ですから! とは言え、私は大我(たいが)先輩が(かな)わなかったときの代打です」


 妖しく笑う知暖先輩に、真陽ちゃんは元気よく答える。
 “恋は盲目”って……もしかして真陽ちゃんと仁木くんって、そういう関係なの……!?
 私の校章って、確か知暖先輩にあずけてたよね……?


「ははっ、おもしろいね。でも俺たち、これから大事な用があるんだ。全校生徒分の校章を集めたその行動力に免じて、強二(きょうじ)への挑戦権はあげる」


 知暖先輩は学ランのえりにつけていた校章を外して、仁木くんに投げ渡した。


優衣(うい)のはいいでしょ? ケンカとは縁がないかよわい女の子だし、回収したって“最強”の箔付(はくづ)けにはならないからさ」

「……あぁ」


 眉をひそめて私を見た仁木くんがうなずいたのを見て、ほっとする。
 ケンカなんて挑まれたら、私、逃げることしかできないよ……。


「だが、俺が欲しいのは校章じゃなくて、あんたに勝ったっていう――」

「あのね、一番強いやつに勝てば最強って証明できるんだよ。覚えておきな、不器用くん?」

「……遠藤先輩は、吉田(よしだ)強二(きょうじ)さんに負けたことがあるんですか?」

「うん、負けたよ。病院送りになった。だからいいでしょ? 別に俺とは戦わなくて」

「知暖先輩……」


 “負けた”って……強二さんは、知暖先輩に負けたって言ってたのに。
 それに病院に行ったのも、“邪魔(じゃま)”が入ったからじゃ……?
 思わず知暖先輩を見ると、先輩は私を見てほほえんだ。
 わざと、うそをついてるのかな……?


「……大我先輩、とりあえず吉田強二さんに挑みましょう」

「……分かった」

「もういいね? ……行こう、優衣」

「は、はい……それじゃあ、またね、真陽ちゃん、仁木くん」


 にっこり笑って話を終わらせた知暖先輩に続いて、2人にあいさつをすると、真陽ちゃんは笑顔を返してくれて、仁木くんはうなずいてくれた。
 知暖先輩とまた階段を下りて校舎を出てから、私はとなりを歩く先輩を見て首をかしげる。


「あれで、よかったんですか?」

「うん。最強の称号なんて興味ないから。俺は、優衣を守れる力があればそれでいい」


 知暖先輩はほほえんで、ズボンのポケットから新品同様の校章を取り出した。
 もしかして、私の校章……?


「これは誰にも渡さない。もちろん、優衣自身も」

「!」


 知暖先輩は手のひらの上にある校章を見つめてから、私の肩に手を回し、ちゅっとほおにキスをする。
 かぁっと赤面すると、知暖先輩は甘く目を細めて笑った。


「優衣は、どうするの? 弟くんには滝高に転校しちゃったこと、言う?」

「あ……」


 私たちはこれから、従弟(いとこ)たちが通う名門校へ行って、弟の(けん)がちゃんと名門校に通わせてもらっているか確認する。


「……健たちは、家から学校に通ってるはずなので。私もお嬢さま学校で元気にやってるよ、って言おうかなと」

「そっか。じゃあ、いったん家で着替えていかないとね」

「はい。ありがとうございます、知暖先輩。一緒に行ってくれて……」

「ううん。俺も弟くんにあいさつしたいから」

「……はい」


 照れながらほほえむと、知暖先輩は笑って「優衣」と甘く私を呼んだ。
 キスをするときの合図だって分かって、私はドキドキしながら少し足を止めて、知暖先輩に顔を向ける。
 知暖先輩は私のほおをするりとなでて、ゆっくり唇を重ねた。


「……優衣のぜんぶ、俺が守ってあげるから。安心して」

「知暖先輩……ありがとう、ございます」


 ほおを赤くして、知暖先輩のYシャツのそでをきゅっとつかむと、先輩はほほえんで手をつないでくれる。
 ドキドキする帰り道をたどって、電車にゆられながら従弟たちの通う学校へ向かった私は――。


「いた……! 健!」

「え、姉ちゃん!? なんで学校に……!」

「健が心配になって、様子を見に来たの。元気にしてる? 大変なことはない?」

「う、うん……てか、その人誰?」

「初めまして。俺は遠藤知暖、優衣の彼氏だよ」

「はぁ!?」


 無事に弟の姿を見つけてほっとしたんだけど、知暖先輩に敵意をむき出しにする健にあたふたししながら、2人に取り合われることになってしまったのだった。


[終]
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