悪女、悪魔に転生する。

3,悪女、お昼を食べる

約2,200字(読了まで約6分)



「いちにぇんに、いっこ?」


 あたし、もしかして食べすぎ? と不安になってエヴァンの顔を見ると、笑って頭をなでられる。


「たくさん食べてもいいし、3、4年食べなくても問題ないよ。10年以上食べてないと命にかかわってくるけどね」

「しょーにゃんだ」


 問題ないならよかった。
 まぁ、問題があるなら そもそも、家族が何個も食べさせてなかったと思うけど。

 悪魔の生態をひとつ知ったところで、屋敷の玄関(げんかん)到着(とうちゃく)する。
 ぞろぞろとついて来た使用人が重そうな大扉を開けて、あたしはやっぱりエヴァンにだっこされたまま、屋敷のなかにもどった。

 悪魔の主食が生き物のタマシイだと知ってから、あたしは覚悟(かくご)を決めている。
 元人間とは言え、あたしの今世は悪魔。
 寿命が長いなら、それこそ新しい生態に適応しないと、しんどくなるのは自分だし。

 ――悪女と呼ばれていたあたしだもの、それが悪魔の主食だって言うなら、自分でタマシイを調達することさえ こなしてみせるわ!


「父上、母上、シーラを連れて来ました」


 赤いじゅうたんが敷かれた広い屋敷のなかを歩き回って食堂に着くと、両親は すでにそろっていた。
 エヴァンの顔を渋くして しわを付け足した、イケオジと言ってさしつかえない父と、一見してクール美女なのに、あたしたちを見ると顔がゆるむ母。
 今回横に長いテーブルにならんでいるのは、きのこと ほうれん草のような野菜を使ったパスタだ。

 悪魔には必要ない食事とは言え、おいしいことがわかっているからか、じゅるりとよだれが出てくる。


「エヴァン、シーラ、楽しみにしていただろう。席に座りなさい、みんなで食べよう」

「お散歩は楽しかった? シーラ、お母さまのおひざにおいで」

「ひとりですわれりゅ」

「もう、そんなさみしいこと言わないで。ほら、お母さまと一緒に食べよう」


 く、と顔をゆがめても、無慈悲(むじひ)なエヴァンによって、あたしは母のひざの上に下ろされた。
 いわゆる誕生日(たんじょうび)席に座る父の右側にあたしたち、左側にエヴァンが座り、全員が着席すると、食事が始まる。
 子どもの体で、以前よりも多少動きにくさがあるとは言え、あたしは元高校生。

 1人でも食べられると言うのに、母は小さなフォークにパスタを巻き取って、あたしの口に運んでくる。


「あーん。おいしい?」

「……おいちい」

「ふふふ、たくさん食べようね」

「母上、父上。先ほどシーラがタマシイについて尋ねてきたのですよ」


 親鳥に餌付(えづ)けされるひな鳥のような心持ちで昼食をとっていると、エヴァンが両親に()げ口をした。
 父は「ほお」と顔をほころばせて、ニコニコしながらあたしを見る。


「シーラもタマシイに興味を持つようになったか。そろそろあれを食べる時期だからなぁ」

「……! おとーしゃま、あたち、たまちい、とってきちゃい」


 話題に上がった流れで、いつか言おうと思っていたことを口にした。
 あたえられてばかりの箱入り娘なんてごめんだし、悪魔にとって必須(ひっす)なら、生き物を殺すことにも なれておく必要がある。
 元人間で、生き物を殺すことに抵抗(ていこう)があるなら、なおさら早いうちに。

 自分を追いこむ決心をしていると、頭上から母の声が降ってきた。


「シーラ、女の子がそんなことをする必要は……」

「いや、シーラがやりたいと言うならやらせてあげよう。シーラにも、なにかこだわりがあるのかもしれない」

「……そうねぇ」

「父上、それなら俺がつきそいます」

「そうか、ではエヴァンにまかせよう。2人で存分にタマシイを収穫(しゅうかく)してきなさい」


 ニコーッと笑う父に顔を向けられ、よし、とドレスのすそをにぎりながら覚悟を決める。
 悪女の汚名(おめい)を着せられて、悪魔に転生させられたからと言って泣き寝入りはしない。
 立派(りっぱ)な悪魔になって見返してやるわ!


「シーラ、はい、あーん」


 メラメラと燃える決意に水を差すように、また口の前に差し出されたパスタを、あたしは死んだ魚の目で「あ」と食べた。


****

 昼食を終えたあと、あたしはさっそくエヴァンにだっこされて、人間が住む街へ向かうことになった。
 いわく、人間のタマシイが一番おいしいらしい。
 異世界だし、馬車にでも乗っていくのかと思ったら、エヴァンが乗ったのは空にただよう くも。

 悪魔になってこんなメルヘンな体験をするとは思わなかった。
 上空はさむいし空気が薄いとどこかで聞いたことがあるけど、涼しいと感じるくらいで済んでいるから、悪魔の肉体は丈夫なのかもしれない。
 この世界にも青い空というものがあったらしく、家から離れるほど、赤から青へ、周りの空がグラデーションして変わっていくのは一種の芸術だった。


「もうすぐ人間の街に着くよ。人間は俺たちを見たらおどろいちゃうから、街に降りたら屋根を歩いていこうね」

「ん」


 まぁ、人間のタマシイが一番おいしいと言ってタマシイを狩りに来る悪魔がいたら、そりゃあ命の危機を感じてさわぐでしょ。
 思わず人間に同情して考えたあと、ハッとして首を振る。
 ちがうちがう、あたしはこれから人間を殺しに行くの。

 あたしはもう人間じゃない、悪魔として生まれて、5年 生きてきたのよ。
 人間に同情なんてしちゃいけないわ。
 眉間(みけん)にしわを寄せてグッと足元のくもをにらんでいると、エヴァンは「降りるよ」と言って、くもから飛び降りた。


ありがとうございます🌒

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