悪女、悪魔に転生する。

2,悪女、5歳になる

約2,100字(読了まで約6分)


 庭園(ていえん)(はな)やかに かざっている色とりどりの花々。
 そのなかでも、あたしは地球のバラに似ている赤い花が好きだ。

 交通事故で死に、生まれ変わってから5年。
 あたしが転生した種族は、やっぱり“悪魔”で まちがいないらしい。
 そして、悪魔が存在するこの世界は、地球とは ことなる異世界だ、というのもすでに受け入れた事実。


「お(じょう)さま、失礼いたします」

「ん?」


 庭のベンチに座って、手入れの行き届いた花をながめていたら、執事(しつじ)に声をかけられた。
 振り向くと、ベンチの背もたれに手のひらサイズの巨大なてんとう虫が止まっている。
 いつのまにか飛んできたらしい。

 ぶわっと“下から”強風が吹いて、てんとう虫の体が浮くと、執事は すばやく てんとう虫をつかんで、手のなかで にぎりつぶした。
 その後、パッと開かれた執事の手から落下していった てんとう虫の残骸(ざんがい)は、地面に空いた穴のなかに収まる。
 なにごとも なかったかのように、ひとりでに地面がふさがっていくのも、先ほど風が吹いたのも、悪魔が使える魔法によるもの。

 風や土、そのほかには水や火まで、悪魔は自然をあやつる力があるらしい。
 あたしはまだ子どもだからか、自然をあやつれたことはないんだけど。


「きちゃないから、て、ありゃって」

「かしこまりました」


 執事が頭を下げて、近くにひかえていたほかの使用人と替わり、ここから去っていくのをながめて、庭園に視線をもどした。
 このとおり、我が家は なかなか裕福(ゆうふく)な上流家庭らしく、毎日使用人が数十人うちで はたらいている。
 あたしのふだん()豪華(ごうか)なドレスだし、家だって宮殿(きゅうでん)かと思うくらいのバカでかい豪邸(ごうてい)

 暮らしのほうは、と言うと、毎日3食のごはんにおやつ、たっぷりの睡眠(すいみん)をとっていて、身構えた心が裏切られるほど、人間じみた生活を送ってきた。
 まぁ、お嬢さまというのに加えて、この家で565年ぶりに生まれた女の子、ってことで、居心地がわるいくらい かわいがられてるんだけど。


「シーラ、お昼ごはんの時間だよ」

「えばん」


 低い声に呼ばれて横を見ると、15歳年上の兄・エヴァンが屋敷のほうから歩いてきていた。
 右肩の前で結んでいる、黒いつややかな髪は胸のあたりまで伸びていて。
 顔の左側に流した長い前髪に、やさしげな赤いたれ目が片方隠れているけど、女にキャーキャーさわがれそうなイケメンっぷりはまったく隠せていない。

 黒いYシャツに黒いパンツ、大昔の貴族がしていたようなフリフリの白い胸かざりを身につけたふだん着も、自然体で似合(にあ)っている。


「屋敷にもどろうね」


 ベンチの前まで来たエヴァンは、ほほえんであたしをだっこした。
 前世の両親ですら、あたしがいつも男関係のトラブルを起こしていることに(しぶ)い顔をしてばかりだったから、こういうあつかいは なれない。
 来た道をもどるエヴァンの腕のなかで、歩調に合わせてゆられながら、あたしは いかにも悪魔が()む場所らしい赤い空を見上げた。

 生活にこまることはない裕福な家柄、接し方にこまるけどあたしを溺愛(できあい)している家族。
 そもそも母以外の女を見たことがないというのは置いといて、男をうばったとさわぎ立てる女もいない今の生活は、まぁ文句のつけどころがない。
 こんな色の空でも昼と夜はちゃんとあるし、5年も暮らしていれば地球とはちがう景観(けいかん)だろうと なれた。

 でも、あたしはこの前、屋敷の書斎(しょさい)にある本を読んで知ったの。


「ねぇ、えばん」

「うん? どうしたの?」

「ごはん、たべにゃくても、ちなにゃいんでしょ?」


 悪魔に、毎日3回の食事は必要ないって。
 視線を下げて、あたしをだっこしながら歩いているエヴァンの顔を見ると、やわらかくほほえんで うなずかれた。


「そうだよ。俺たち悪魔にとって、毎日食べてる“ごはん”は、味を楽しむ娯楽(ごらく)。人間は生きるために ごはんを食べているけどね」


 本に書かれていたとおりの返答だ。
 悪魔にとっても、食事の回数は貧富(ひんぷ)の差で変わるらしいから、毎日3食、おやつまで食べている我が家は想像以上に裕福なのかもしれない。

 でも、本題はそこじゃなくて。
 “それなら、悪魔の命を(たも)つために必要なものは なんなのか”
 それも本に書かれていたとおりなら――生き物のタマシイだ。


「えばん、たまちいって、どんにゃもの?」

「シーラは かしこいね。もう本で読んだの?」


 エヴァンはとろけるように表情をくずして、飼い主が溺愛しているペットに向けるような笑みを浮かべた。
 こうやってネコかわいがりしてくるところが、今世の家族の苦手なところだ。


「しちゅもん、こたえて」


 そっぽを向いて返答をうながすと、エヴァンは「あぁ、ごめんごめん」と笑い混じりに言う。


「毎年、今ごろの時期に半とうめいのふわふわしたものを食べているだろう? あれが生き物のタマシイだよ」

「え」


 あれが? と思わず目を丸くした。
 たしかに毎年1回だけ、家族からもらう半とうめいの わたあめみたいなものを食べている。
 ごはんとスイーツみたいに、ふだん食べている料理とは系統(けいとう)がちがうおいしさに、1個だけじゃ物足りなくて、2、3個ねだっていたけど。


「悪魔は数百年 生きるけど、1年に1個タマシイを食べていれば、寿命(じゅみょう)が来るまで健康に生きていられるんだよ」



ありがとうございます🌒

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