悪女、悪魔に転生する。
1,悪女、生まれ変わる
「私のヒロくんを返してよ!」
涙混じりの鼻声で、背後から聞こえたさけび声。
放課後の帰り道、聞きなれたそれを、あたしはかるく手を振ってあしらった。
「かんたんに浮気するクズ男だっただけでしょ、知らないわ」
「っ! どうして私なの……どうして人の彼氏ばっかりねらうの! この悪女!」
「はいはい、好きなだけ ののしれば?」
高校を出てから5分程度。おなじ高校の生徒もまだたくさん周りにいる。
それでもみんな、“またか”って顔で、好きにうわさ話をするだけ。
だって、私は男好きの悪女。人の彼氏、人の想い人をうばってばかりの、
「はぁ……」
まったく、私には好きな男もいなければ、男にさそいをかけてあそんだこともないって言うのに。
あいつらが勝手に
だいたい、あたしのほうこそいい
「あなたのどこがいいって言うのよ! 顔だけの性悪女じゃない!」
うしろから聞こえる涙声を無視して、点滅が始まった信号を早足で渡る。
向かいの歩道にたどり着く直前で赤信号に変わったのを見て、これであの女を引き離せたわね、と うしろにすこし視線を向けたら。
「あっ……!」
「ねぇやば……!」
歩行者が渡りきるのを待って、今まさにT字路をまがった車の前に、うつむいて涙をぬぐっているあの女が歩み出ていた。
信号が変わったのも、車がせまっているのも気づいていないのか――。
あんたバカなの!? という思いが口をついて出る前に、私は思わず振り返って、渡ってきたばかりの横断歩道をもどっていた。
「えっ……!?」
「きゃーっ!」
耳ざわりな
私をにらむ涙にぬれた瞳が丸く開かれるのを見ながら、体に
たぶん、動き始めたばかりの車に
後頭部をハンマーで思いっきりなぐられたような衝撃におそわれて、“これ死ぬ”、と思いながら、あたしは気を失った。
****
気がついたとき、どこを見ても真っ白で、
(はぁ!? なによここ!)
思わずさけんだつもりだったのに、声が出た感覚もなく、混乱は増す一方。
前を見てもうしろを見ても
現状を気味わるく感じ始めたとき、どこからともなく、ちょくせつ頭のなかにひびくような、気持ちわるい感覚の声が聞こえた。
「おぬし、人のうらみをたくさん買っておるのう」
聞き覚えのない、おじいさんみたいな声。
出会い
「転生先の種族はこれじゃ」
(転生先……?)
そういえばあたし車に轢かれたんだった、と思い出して、じゃあ――と思考が動き始めた直後、強い眠気におそわれたように、また意識が遠のく。
****
夜、寝ている最中にとつぜん部屋の電気をつけられたようなまぶしさが目に突き
引きずり起こされた意識で、急になに、と混乱してから、直前の記憶を思い出す。
『きゃーっ!』
『おぬし、人のうらみをたくさん買っておるのう』
――そうだ、あたし、死んだっぽいんだった。
だったらあそこは死後の世界的な場所で、あの声は神さま的な存在?
パズルのピースとピースがつながるように、急速に現状を理解したあと、あたしはムカムカして声を荒げた。
「おぎゃあ! おぎゃあああ!(ちょっと! うらまれてるのは あたしのせいじゃないわよ!)」
死んだあとまで
「……あう?(え?)」
「生まれたぞ! この子は……」
しゃべっているつもりなのに、自分の口から代わりに出ているのは赤んぼうの声。
混乱したのはそれだけじゃない。
まぶしさに なれて、目を開けたあたしの視界に映ったのは、浅黒い肌に、黒い髪と赤い目をした、非現実的な人間たち。
いや、頭の両サイドから生えている、黒くて硬そうな角を見ると、はたして人間と言いきっていいのか。
「お……女の子だ!?」
「妹……!?」
見開いた赤い目の
カパッと開いた口に生えているのは、ギザギザにとがった歯。
おどろいた顔をグッと近づけて、あたしをのぞきこんでくる、成人の男女2人と、あたしとおなじ高校生くらいの男1人はまるで。
人型の――
「あう……あ?(あく……ま?)」
存在自体が、根っからの悪役。
人間をおそう、極悪非道な種族として名高い――“悪魔”に、あたしは生まれ変わってしまったのかもしれない。
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