Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第1章 黒街 から出るための勝負
9,外を賭 けた勝負
受付で入場料を払い、こちらへ向かってくるお客さまに笑顔を向けて、道をあける。
あそこはセキュリティールーム……と、ぼんやりながめていると、そこから
その声に気づいたのか、2人がこちらを見た。
「おー、ゆいちゃん。おつかれ」
「おつかれさまです」
片手を上げて、ひら、と軽く振る廉さんと、無言の帝さんに
会話するのにこまらない距離まで来ると、おずおずと2人を見上げて「あのぉ」と話しかけた。
「今っておとりこみ中……ですか?」
「ん~? どうしたん?」
へらりと笑って答えてくれた廉さんに ほっとして、話がある帝さんのほうへ視線を移す。
「帝さんにお願いがあって……」
「……なんだ?」
帝さんは私と目を合わせて、そっけなく答えながらも聞く姿勢をとってくれた。
「私、“外”を
「あ~、それはだめ――」
「――わかった」
「えっ」
目を伏せて許可してくれた帝さんに、廉さんがめずらしくおどろいた顔を向けてガン見している。
私は、やった、と小さくガッツポーズをとった。
「本気ですか、帝サマ。もしゆいちゃんが勝ちでもしたら……」
「もういい」
「……あー、ハイ、わかりました。帝サマがおっしゃることにイチ
2人とも今年で21歳だけど、廉さんは早生まれだから、学年では帝さんの1つ上だった。
でも、やっぱり國家の人だからか、帝さんには敬語の廉さんが、
「はぁーーー」と吐き出されたため息が、なんだか重々しい。
廉さん、私が勝負をすることに否定的なのかな……?
「希望するゲームは?」
「あ……うぅんと……」
いつものひょうひょうとした態度をくずしている廉さんをよそに、帝さんから勝負のことを聞かれて、
研修のときにゲームのルールはぜんぶ覚えたし、適性をはかるために一通りのゲームの進行をやったこともある。
その結果、ディーラーとしてはルーレット担当になったけど、だからと言ってルーレットが得意かと言えばそうじゃないし……。
この場面ではこうすれば勝つ確率が高い、っていう
お兄ちゃんにも あやかれるかもしれないし。
「ブラックジャックでお願いします」
「……それなら、勝利条件はハウスより先に3回ゲームに勝つこと。ハウスが先に3回勝てば、
「分かりました!」
よかった、昔みたいにチップを一定以上かせぐ、とかだったら自信がなかったけど、
とは言っても、先に3回勝つ、なんていうのも運要素が強いけど……。
がんばろう!
「今から始める。着替えてこい」
「はい!」
「廉、
「はいはい……」
帝さんに言われて、私はスタッフルームに行き、
身支度を終えて通路にもどれば、ちょうど話を終えたのか、廉さんが帝さんと別れてセキュリティールームに入っていく。
帝さんは暗い
「つけろ。声は出さなくていい」
「はい」
帝さんから仮面を受け取って、ゴムひもを頭につけ、視界を確保できるように位置を
私の姿を確認したあと、帝さんは玄関ホールに向かって歩き出した。
帝さんのうしろに続いてカジノフロアまで もどってくると、私たちの存在に気づいたお客さまから周りのお客さまへ、ざわめきが
Gold Nightの制服じゃ だめだし、かと言って学校の制服以外の着替えは持ってきてないし。
お客さまとしては来れない高校生が、支配人の帝さんと一緒に、なんて、だれだって目的がわかるよね……。
ルーレットのテーブルもそうだし、ブラックジャックのテーブルも数台あるけど、帝さんが向かったのは、ちょうど1人席を立って空きができたテーブル。
近づく帝さんに気づいて顔を上げた、そのテーブルを担当している
「3先で、“外”を賭けて」
「
帝さんが
となりのお客さまどころか、近くにいる周りのお客さまに見られながら、私は一番左の空席に座ってトランプが くばられるのを待った。
半円の形をしたテーブルの円周をなぞるように、さっ、さっ、と右から左へくばられたトランプが、まずは1枚表を向いた状態で届く。
私の1枚目はスペードの8。とは言っても、ブラックジャックじゃ、スペードとかハートとかのスートは関係ないんだけど。
トランプを使ったゲームは、ジョーカーを
次に来るカードがなんなのか、なんてまるで予想できないのが常。
プレイヤーと、ブラックジャックではハウスと呼ばれるディーラー、全員の手元に2枚のカードが行き渡ると、かけひきが始まる。
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