Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第1章 黒街(くろまち)から出るための勝負

8,(みかど)の知名度

約2,100字(読了まで約6分)


 (みかど)さんの顔色をうかがって、けっきょく口を閉ざして大人しくしているうちに、学校が見えてきた。
 ひざの上に置いたスクールバッグを持ちなおすと、帝さんがぽつりと声を発する。


「気まぐれだ」

「え?」


 気まぐれって、なにが?
 きょとんと首をかしげてしばらく考え、もしかしてさっきの質問の答え?と気づくと、顔がゆるんだ。
 聞いちゃいけないことだったみたいなのに、答えてもらえてうれしい。

 でも……気まぐれで何年も赤の他人を家に住まわせるのかな?
 (くに)家の人にもなると、気まぐれで人を家に住まわせるのも たいしたことじゃないのかも。
 うーん、と考えていると、車が止まった。


「乗せてくださってありがとうございました。行ってきます」

「あぁ」


 帝さんと運転手さん、2人に向けてお礼を言ってから、私はドアを押し開けて車を降りる。
 顔を上げると、校門付近(ふきん)にいる登校中の生徒がみんなこっちを見ていて、わ、と面食らってしまった。
 まぁ……注目を浴びるのもとうぜんかぁ。

 なにせ國家の帝さんが乗ってる車だし、と視線を受け流すように振り返って、すこしかがみながら車中の帝さんを見た。


「帝さんも、行ってらっしゃい。どこかで仮眠(かみん)をとって体を休めてくださいね。それじゃあ、また夜に」


 笑顔であいさつすると、帝さんは横目に私を見てすこしうなずく。
 後部ドアを閉めて数歩うしろに下がれば、黒ぬりの車はまっすぐ走っていった。
 見てないとは思いつつ、手を振って帝さんたちを見送ってから、私は校門のほうに体を向けて歩き出す。


「ねぇ、帝さま見えた?」

「見えた見えた、國家の人はやっぱりオーラがちがうよね~……!」

「それに容姿も別格! ()れぼれしてため息が出ちゃう。どんな芸能人も帝さまには(かな)わないよね~」

「ね! でも……」

「「おそれおおすぎて恋とかできない~」」


 あちこちからひそひそと聞こえてくるうわさ話を聞き流して歩いていると、帝さん効果の名残(なごり)で、私にも ちらちらと視線が向けられているのを感じた。


「あの女子だれだ? 帝さまの車に乗ってたとか何者だよ」

「おまえ知らねぇの? 中学のときから帝さまのカジノで はたらいてるっていうやつだよ」

「はぁ? なんだそれ」


 うぅん、注目を浴びてた時期は すぎたのに、またしばらく注目の的になっちゃうかも……。
 私自身は すごくもなんともないのに、いたたまれない……。
 好奇心に満ちた視線をちくちくと感じながら昇降口(しょうこうぐち)まで来れば、アッシュブラウンに染めたショートヘアの勝気そうな女子が下駄箱(げたばこ)の前で待っていた。


「帝さまに送ってもらえるとか、結花(ゆいか)ってほんと何者?」

(あかね)!」


 乾いた笑みを浮かべながら声をかけてきた友だちに、「おはよ」とあいさつする。
 上履(うわば)きを取り出して、一緒にくつを履き替えながら、オレンジ色の猫目を見た。


「ただ通り道だっただけじゃないかな。それより聞いてよ、ライブの件、やっと帝さんと話せたのに外出許可がもらえなくて……」

「そりゃ、ここは黒街(くろまち)なんだからとうぜんでしょ。外に出たいなら借金を返すか、カジノで勝負に勝たないと」

「わかってるけどぉ……」


 はぁ、とため息をついて、茜と廊下(ろうか)を歩く。
 黒街に連れてこられた原因を解消する以外で、唯一(ゆいいつ)黒街から出ていける例外。
 でも、黒街の外を()けてGold(ゴールド) Night(ナイト)で勝負し、1回きりのゲームに負けたら、3年間は黒街から出ることを許されない。

 私が外を賭けて勝負したのは4年前だから、もう再挑戦する権利はあるけど……。


「勝負に勝てる自信がないよ~。私、賭けに弱いし……」

「それでも、そのVのライブに行きたいなら がんばるしかないんじゃん? あたしはどっちでもいいけどさ」

「うぅ……そうだよね」


 (はく)ツキくんに会いに行くには、外を賭けて勝負するしかない……。
 帝さんに外出許可をもらえるお願いのしかたもわからないし、ライブに行くためには、やるしかないんだよね……。


「茜……私、がんばるっ」

「そ。まぁ、がんばれば?」

「うん。博ツキくんの強運をちょっと分けてもらえますように~……!」


 すりすりと手を合わせて念じると、茜に「目閉じてたら転ぶよ」とツッコまれた。


****

 日中は高校生の私も、夜になればGold Nightのディーラーになる。


「「おぉっ」」


 遠くのテーブルから、がやっと歓声(かんせい)が上がるのを耳にしながら、今日の前半の仕事を終えた私は、すれちがうお客さまに会釈(えしゃく)しつつカジノフロアを歩いた。
 通りすがりにブラックジャックのテーブルを見ると、高校生とは思えないほど店内に溶けこんでいる晴琉(はる)くんが、ほほえみながらトランプをくばっている。
 さすがのよゆう。

 さらに店内を視線で1周すれば、カジノフロアのすみにあるバーの横で、真紅(しんく)のドレスを着た女性が歌っているのを見かけた。
 あの人は黒街で一番人気な歌姫さん。
 去年からGold Nightの専属アーティストになって、集客に一役買っている。

 一度生で歌を聴いてみたいんだけど、おなじ場所で はたらいていても、歌姫さんの歌を聴ける機会ってなくて……。
 うしろ髪を引かれる思いで視線を外して、私はカジノフロアから玄関(げんかん)ホールに出た。


ありがとうございます💕

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