Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第1章 黒街(くろまち)から出るための勝負

10,ブラックジャック

約2,000字(読了まで約5分)


 私の手元に届いた2枚目のカードは2。
 このゲームでは、トランプの数字を使って、2枚、または任意で追加した3枚目、4枚目のカードの合計を(きそ)う。
 合計が21になれば、相手が同点のときを(のぞ)いて、勝利が確定。最小の2枚で21を出せた場合、その組み合わせをBlackjack(ブラックジャック)と呼ぶ。

 だけど、合計が22以上になればその時点でバスト、敗北が決定。
 21未満の場合は、ハウスとプレイヤーのどちらがより21に近いかを競って、21に近い手を持つほうの勝利となる。
 プレイヤーが何人いても、プレイヤー対ハウスの1対1の勝負であるという事実は変わらない。


「……」


 さて、今回の私の手は8と2だから、現時点での合計は10。
 21とくらべれば半分以下の数字だから、絶対に追加のカードがほしいところ。
 それに、最大数を引いてもバストにはならないし……。

 ちら、と晴琉(はる)くんの手持ちカードを見ると、2枚あるうち、表に向けられたカードは10だった。
 ハウスの手はプレイヤーの行動がすべて終わるまで、2枚目のカードが伏せられたまま。最後に2枚目のカードを表に返して、17以上の数字になるまで追加のカードを引くのがハウスに課せられたルール。

 ブラックジャックにおいて、いわゆる絵札と呼ばれる、11のJack(ジャック)、12のQueen(クイーン)、13のKing(キング)は、すべて10としてカウントされる。
 じゃあ、1枚のカードの最大数は10なのかと言えば、これまた例外のカードがあって。
 1のAce(エース)は、手持ちカードの合計によって、1としても、11としてもカウントできる。11としてカウントすれば合計が21を超えるときは1、そうじゃないときは11、みたいな感じで。


 現状10同士の私と晴琉くんは、どちらも次のカードで12~21になる可能性がある。


「ステイ」

「ダブルダウン」

「ヒット」

「ヒット」


 右はしのお客さまから順番に宣言(せんげん)を聞いて、それぞれの行動処理を終えた晴琉くんは、ほほえんで私と目を合わせた。
 私はヒット、カードの追加を希望するという意味で、テーブルを人差し指でトントンと2回たたく。

 さっ、と手元にくばられた3枚目のカードはK。
 これで私の合計は20になった。晴琉くんの手が20以上にならなければ勝てるけど……。


「ステイ」

「ヒット」

「ステイ」

「ステイ」


 2巡目、ステイ、追加のカードはいらないという宣言が増えるなか、私もテーブルに伏せるように出した手を左右に振り、ステイの意志表示をする。
 3巡目、全員がステイすると、晴琉くんが裏を向いたダウンカードを表に返した。
 そのカードはK、私とおなじで合計は20。17を超えているので追加のカードは引かず、1戦目はプッシュ、引き分けが確定した。

 晴琉くんが()け金の処理をしているあいだ、私は小さく息を吐いて、ななめうしろに立っている(みかど)さんを見上げる。
 無表情でテーブルに視線を落としていた帝さんは、私の視線に気づくと目を合わせた。


「……」

「……」


 この勝負に負けたらライブに行けない……ものすごくプレッシャーがあるけど、(はく)ツキくんのライブに行くためにはがんばるしかない。
 私はへら、と帝さんに愛想笑いを向けてから、テーブルに視線をもどして2戦目に いどんだ。
 他のお客さまがチップを賭け終わってからふたたび くばられたカードは、Aと2。この時点で私の合計は13、晴琉くんの表を向いたアップカードはK。

 手持ちにAがあって、1とも11とも数えられる場合は、18以上になるまでヒットするのが定石(じょうせき)
 私はテーブルをトントンとたたいて追加のカード、4をもらった。
 これで合計は17。もう一枚カードを要求すると、追加で来たのは9だった。

 Aを11と数えれば26でバストになるけど、1として数えれば合計は16。
 この時点で、Aを1とも11とも数えられる場合、18以上になるまでヒットする、という定石の条件から外れるから、ここからは通常の定石にしたがう。
 ハウスのアップカードが10のときは、自分の手が15以下の場合はヒット、16以上のときはステイ、だから……。


 下に向けた手のひらを左右に振って、他のお客さまの行動が終わるまで待つと、晴琉くんのダウンカードが返された。
 結果的には合計が下がっちゃったけど……どうなるかな?

 晴琉くんの2枚目は8。合計は18だから、ヒットしていなくても負けだ。
 1引き分け1敗……あ~、出だしからびみょう!
 で、でも、ここから取り返せる可能性も ぜんぜんあるはず!

 私はひざの上で両手をにぎって、3戦目のカードがくばられるのを待った。


No(ノー) more(モア) bet(ベット). ゲームを開始します、賭けるのをやめてください」


 他のお客さまへ、チップを賭ける時間の終了を()げてから、晴琉くんがカードをくばる。
 3戦目、私の手元に来たのは、5と9だった。


ありがとうございます💕

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