Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第1章 黒街 から出るための勝負
7,かんたんには とれない許可
ごはんを食べるときの ささいな音がひびくくらい しずかな食堂で、もくもくと朝食をとる。
ぞんぶんにごはんを味わい、最後におみそ汁を飲んでいると、
は、とおわんを置いて、食堂を出て行こうとする帝さんの背中を見る。
「あのぉ、帝さん。ひとつお願いしたいことがあるんですが……」
席を立ちながら声をかけると、使用人さんに扉を開けてもらって
「なんだ?」
「私、11月になったらちょっと
数日間の外出許可をもらえれば、ライブ会場まで行って、ライブを観てこれると思うんだ。
できれば、お兄ちゃんとお父さんにも会いに行って、ちょっと話ができたらうれしいんだけど。
おずおずと顔色をうかがうと、帝さんは、ふい、と顔の向きを戻した。
「……だめだ」
いつもどおりの
帝さんの姿が壁の向こうに消えて、使用人さんの手で扉が閉められると、私はイスに座りなおして おみそ汁のおわんを手に取った。
ライブに行くためのチケットはある。
でも……11月までまだ時間があるとは言え、どうやって黒街の外に出ようかなぁ。
ごく、とおみそ汁を飲みながら、私はぼんやりと思考の海をたゆたった。
朝食を終えたあと、学校に行くための身支度を済ませた私は、部屋からスクールバッグを持って
ここはもともと帝さんが1人で住んでいたお
2階は帝さんの生活空間で、立ち入りを禁じられている場所もあるんだけど、
食堂とかお風呂場……というかあれは
学校からはちょっとだけ遠いから、毎朝けっこう歩くんだけど。
前に住んでいた家の10倍は広い玄関に着くと、黒いYシャツに黒いネクタイ、その上、上下黒のスーツに身を包んだ帝さんが階段を下りてきた。
1人しかくつを
すると、帝さんは ちらりと私を見て口を開いた。
「乗せてやる」
「え?」
きょとん、とまばたきをくり返せば、帝さんは私の前を横切って、使用人さんが用意したかわぐつを履きながら、もう一度声を出す。
「車」
「あ……ありがとうございます」
まさか、一緒に乗せてもらえるなんて。
おどろきつつも、ほおをゆるめて、私は使用人さんがついでに用意してくれたかわぐつを履き、玄関を出る帝さんのあとに続いた。
座席がふかふかで、上品ないい香りがただよう車のなかは、朝食のときとおなじく無言。
後部座席のはしと はしに座って、まんなかに1人分の空間がある、帝さんの近寄りがたさを表したようなこの距離感で、私は話題を探していた。
「あのぉ……帝さん」
「……なんだ?」
「えぇと……どうして私を家に住まわせたんですか?
お母さんが亡くなって、ショックだった。
でも、悲しみを追いやるように、生活の危機もせまっていて、これからどうなるんだろうって不安な気持ちもあったんだ。
お兄ちゃんだけ黒街から出ていける、ってなったときも、私1人でどうやって生活すればいいんだろうってこまった。
そんなときに、帝さんが手を差し伸べてくれたから、私は家族と離ればなれになっても4年間生活してこれた。
お兄ちゃんとだって文通させてもらえることになって、生まれて初めて、お父さんからの手紙をもらえたりもしたし。
今は、お兄ちゃんが いそがしくなっちゃったのか、ここ数年ぱったりと手紙のやりとりは
中学生でバイト、それもカジノで はたらくなんていうのはちょっぴり変わってたけど、仕事をもらえたおかげで、好きな物を買えるお金も持っている。
帝さんは、私の
「……」
帝さんに対しては感謝の気持ちでいっぱいなんだけど、そんな帝さんに横目でじっと見つめられて、あ、またやってしまった、と反省する。
「すみません、なんでもないです。えぇと、今日のごはんもおいしかったですよね。私、ひじきの煮物が好きなので、朝から食べれてしあわせでした」
へら、と笑って話題を変えると、帝さんはすこしのあいだ私をながめて、「そうか」と言いながら窓の外へ視線を移した。
踏みこんだ質問ばっかりして、帝さん、怒ってないかな……?
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