Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
番外編
1,その後の日常
お兄ちゃんと
水曜日の今日は、青空が見える屋上で、
相談に乗ってくれたお礼として、それぞれに飲み物をおごった流れで、せっかくなら一緒にお昼を、ということになったんだ。
「それにしても、
「んぇ?」
「おもしろい女の子だからこそ、支配人の心も射止めたんだろうね」
なんだろう、これってほめられてるのかな。
使用人さんに用意してもらったお弁当のおかずをもぐもぐと食べながら、私は左にいる茜と、右にいる晴琉くんを交互に見た。
「そうそう、それ。結花がうっかりこぼしたけど、帝さまの予言っての、あたしが知ってよかったの?
「僕は消されてないし、大丈夫じゃないかな。それに、
「……
「あはは、黒街に住んでたらね」
半目で晴琉くんを見る茜に顔を向けて、私は口のなかのものを飲みこんでから、ちゃんと弁解する。
「大丈夫だよ。茜にだったら話していいって、
「はぁ~、結花経由のその信頼が重いわ。あたし結花の友だちやめよっかなぁ」
「えぇっ。なんで!?」
「國家の人のひみつなんて知りたくないって。自分から危険に足突っこむようなもんじゃん」
本当に いやそうな顔でぼやく茜に、友だちを失う危機!?とあせった。
あ、茜と友だちじゃなくなったら……私、なにを楽しみにして学校に来ればいいの!?
「小笠原さん、結花さんの顔色がすごいことになってるよ」
「あ~もう、
「ほんと!? よかったぁ、唯一の友達を失ったら泣くところだった~」
「……結花を泣かせてもやばそうだな、あたし」
「今じゃ、支配人の最愛の彼女だからね」
あはは、と笑う晴琉くんと、はぁ……と重いため息をつく茜のあいだで、帝さんの“最愛の彼女”というワードにほおが熱くなる。
帝さんの最愛の彼女。私が。帝さんの最愛。それも彼女。
「……なに今さら照れてんの」
「んぇっ。だ、だって」
「予言は見事に的中、だったね。さすが黒街一の
「は。そ、そうだ、晴琉くん、占い師さんとよく会うんですよね? お礼を言いたいので、今度占い師さんに会わせてもらえませんか?」
「うん、いいよ。それじゃあ予定が会う日にでも、一緒にカフェへ行こうか」
「ありがとうございます!」
晴琉くんに笑顔を向けると、茜がパンをかじって もぐもぐと口を動かしたあとに、「で」と言った。
「結花は今晩、帝さまたちとパーティーするんだっけ?」
「うん。廉さんが、あ、帝さんと一緒に文化祭に来てた人なんだけど、お祝いしたいって」
「そ。あたしなら生きた
「楽しんでね」
それぞれの言葉をかけてくれる2人にうなずいて、笑顔を浮かべる。
私の休みに合わせて、帝さんも廉さんも今日の仕事を休んでパーティーをしてくれるんだよね。
今日の夜が楽しみだなぁ……!
****
わくわくしながら夜になるのを待っていた私は、廉さんを迎えた食堂で、ぱくりとチキンをほおばった。
おいしいお肉に気分も上がる。
市販のものとはぜんぜん味がちがう ぶどうジュースも、飲むだけでとろけそうだし、とほおをゆるめていると、肩に廉さんの腕が回された。
「ゆいちゃん、ほんと~に帝サマ救ってくれてありがとな~」
お酒を飲んでいるからか、いつもより倍ゆるい声で、廉さんが何回目かの感謝を伝えてくる。
「いえいえ。廉さんこそ、アドバイスをくれたり、ありがとうございました」
「とうぜんよぉ。ほんとさぁ、うちのご主人サマは なに
「……廉、結花にからむな」
「あぁ、はいはい、おおせのままに。……まじでゆいちゃんは救世主よ~」
私をはさんで反対どなりの帝さんに注意されると、廉さんは私の肩から手を離して、へらりと笑った。
そんなに感謝されるほどでは、と思うけど、たしかに帝さん、予言どおりなら自殺しちゃうかもしれなかったんだよね。
「でも、カジノの仕事やめないでよかったん~? もうゆいちゃんを制限することはないし、晴れて自由の身よ?」
「自由の身、ですか」
「そーそー、毎日5時間睡眠くらいじゃ、ぶっちゃけきついだろ~?」
「うーん……もう慣れちゃいましたから。それに、
ほほえんでとなりを見ると、帝さんも私と目を合わせてほほえみ返してくれる。
私がカジノの仕事をやめたって、帝さんは夜、カジノにいるわけだし。
それなら家で待ってるより、はたらいて一緒にいたいもの。
「ははっ、ゆいちゃんは
食堂もテーブルも広いけど、せっかくなら近くで食べたいと言った結果、帝さんと同様にとなりに来てくれた廉さんが、反対側で笑った。
健気……なのかなぁ?
首をかしげつつ、私も廉さんに聞きたいことがあって、おずおずと廉さんに視線を向ける。
「あのぉ、廉さん。わがままを言ったのは私なんですけど、本当に帝さんの彼女になっちゃってよかったんでしょうか?」
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