Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

番外編

2,(みかど)溺愛(できあい)

約2,600字(読了まで約7分)


 私は(みかど)さんが好きだし、帝さんの特別になれるなら特別でいたい。
 でも、やっぱり……。


「私ってただの庶民(しょみん)だし、(くに)家の人たちによく思われなくて、引き離されたりとか……」

「気にするな」


 まっさきに答えてくれたのは、反対どなりの帝さん。
 (れん)さんも吹き出すように笑って、すぐに「ないない」と否定した。


「ゆいちゃんは帝サマの命を救った女の子だぜ~? 國家の方々は、ゆいちゃんが なに不自由なく すごせるよう、丁重(ていちょう)にもてなす気概(きがい)ですよ」

「んぇ……それはそれで、おそれおおいような……」


 國家の人たちにわるく思われてないならよかったけど、平々凡々(へいへいぼんぼん)な一般人には、身にあまるお気持ちだよ~……。
 へにょんと眉を下げると、廉さんはゆるく笑って首をかしげる。


「気にすんなって~。國家の全面的支援(しえん)がある黒街(くろまち)生活は、快適(かいてき)も快適だぜ~?」

「國家の全面的支援……」


 たとえばどんなことがあるんだろう、と考えてみて、ひとつ思いついたことを口にしてみた。


「テストで、もし赤点を取っちゃっても、許してもらえたり……?」

「っははは!」


 急に、廉さんがとなりで大爆笑し始めて、びくっとする。
 え、私、そんなにおもしろいこと言った……??


「高校に通わなくても卒業できる」

「え。そ、そうなんですか」


 笑い続けている廉さんの反対どなりで、帝さんがそんなことを教えてくれて、さすが國家、と感嘆(かんたん)した。


「あ~、腹いて~。はははっ、テストで赤点、ははははっ!」

「れ、廉さん……そんなに笑わなくても」

「だってゆいちゃん、はははっ! かわいすぎだろ~、っははは!」

「……放っておけ。酒が入っているときに笑い始めると、廉は止まらない」

「は、はあ……あ、帝さん、このチーズおいしいですよ。一口いかがですか?」


 帝さんに教えられて、ツボがなぞだなぁと思いながら廉さんをそっとしておき、おいしかったおかずを帝さんに(すす)める。
 すると、帝さんは私を見つめて口を開けた。
 こ、これは……もしや、“あーん”待ち!?

 私はどきどきしながらチーズを一口とって、帝さんの口元まで運ぶ。
 私の手からチーズを食べた帝さんは、目を細めて「うまいな」とこぼした。
 あの日から、なんだかようすが変わった帝さんは、今までより感情表現がゆたかで、まとう雰囲気(ふんいき)もやわらかくなっている。

 こんなふうに、帝さんに近づくことを許されると、どきどきして落ちつかなくなってしまうから、私はぶどうジュースに手を伸ばした。
 でも、グラスをつかんだ私の手に、帝さんの手が触れる。


「それは俺のワインだ。……飲みたいなら、止めないが」

「んぇっ。い、いえ、まちがえただけです!」

「そうか」


 帝さんは、ふ、と笑って私の手からグラスを抜き取り、ぶどうジュースにそっくりな“ワイン”を飲んだ。
 伏し目気味にこくりとのど仏を上下させる帝さんには、大人の雰囲気がただよっていて、どきどきすると同時に、なんだか もどかしい気持ちになる。
 帝さんは大人だけど、私はまだお酒も飲めない子どもなんだよね……うぅ。

 決して帝さんが相手にしてくれないわけじゃないけど、早く大人になりたいかも。


****

 ふだんよりゆるゆるで、たぶん、笑い上戸(じょうご)というものにあてはまる廉さんとパーティーを楽しんだあと。
 夜もふけて、帝さんと部屋の前にもどってきた私は、別れのあいさつをしようと帝さんを見上げた。


結花(ゆいか)、俺の部屋で寝ないか」

「へ」

「となりの部屋でも遠い」


 帝さんは私を見つめながら、するりと手をつないでくる。
 ばくっと心臓がはねて、ほおに熱が集まるのを感じながら、私は考える前に「はい」とうなずいていた。
 ほほえむ帝さんにつれられて、帝さんの部屋に入ると、ふかふかのベッドへ招かれる。


「あ、あのぉ……今さらなんですけど、帝さんの部屋って、私に見せられないものとか、たくさんあるんじゃないですか……?」


 私に隠してた許可証とか手紙もそうだし、他にもいろいろと、立ち入り禁止になってたくらいの場所だから。
 私が気安く入っていいのかな、と思ったんだけど、帝さんは私のとなりに体を横たえながら、あっさりと答えた。


「この部屋で結花がなにを見ても、問題ない。結花が知りたいなら、なんでも教える」

「んぇ……あの、私、付き合ってまだ1週間も経ってないのに、帝さんに溺愛(できあい)されてるなって感じるんですけど」


 私は知ってる。他の人の前では、帝さんは前みたいに、ずっと無表情でいること。
 かんたんに笑顔を見せてくれるのは、私を前にしたときだけ。
 今日だって“あーん”を求めたり、一緒に寝ようって言ってくれたり。

 帝さん、かなり私に甘いよね……?
 向かい合ってまくらに頭をあずけながら ととのったお顔を見つめると、帝さんは私をやわらかいまなざしで見つめ返す。


「あぁ」


 へ、平然と肯定(こうてい)された……っ。
 うぅ~っ、こんなのどきどきするしかなくない……っ!?
 私は大きな鼓動(こどう)を聞きながら一通りもだえたあとに、思い切って帝さんに抱きついた。


「私、早く大人になりたいです……っ」

「……どうした?」

「帝さん、大人だから……なんだか、遠い存在に感じて。もっともっと、帝さんに近づきたいです……」

「……」


 ぎゅうう、と抱きついていると、「結花」と呼ばれる。
 顔を上げて帝さんを見た瞬間、唇を重ねられて、ばくっと心臓がはねた。


「俺に一番近い存在は、結花だ。“遠い”なんて感じるひまがないほどに……これからもっと、それを教えてやる」

「帝、さん……」

「愛してる、結花。その思考に触れて、感情を感じて、結花のすべてを知りつくしたい」


 帝さんは私のほおに触れながら、唇を寄せて、そうささやく。
 私をからめとるような視線に、どくどくと心臓が音を立てた。


「俺のそばで、結花が自由に振るまう姿をずっと見ていたい。結花のことを考えていれば、退屈なんて感じない。……結花が俺のすべてだ」

「……っ、私、ずっと、帝さんの特別でいたいです……帝さんが恋しくて、前の関係にはもどれそうもないので……」


 わがままな欲望を口にすると、帝さんは美しくほほえんで私との距離を詰めた。
 何度だって味わいたい感触。帝さんを近くに感じる刹那(せつな)
 私は帝さんとキスをするのが好きなんだな、と気づいて、もっとしたいと帝さんに伝えてから。

 帝さんは私を、離してくれなくなった。


「愛してる、結花」


 私への溺愛に拍車がかかった帝さんは、口癖のように、日々私へ、愛をささやく。


fin.
ありがとうございます💕

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