Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望
10,実 った愛
そ、そんな……私は なんてことを……!!
「ご、ごめんなさいごめんなさいっ。あ、あ、あの、私、
「あぁ。死なせないと言ったわりに、このタイミングで逃げようとするから、思わずつかまえにきた」
「わぁぁっ、ごめんなさいっ……も、もどります、今すぐもどりますから……っ」
いくら
涙目でひたすらあやまると、帝さんは、ふ、と笑って私のうしろを見る。
「ライブに行くために、1ヶ月がんばったんだろ。行きたいところへ行けばいい」
「で、でも~……っ」
「言っただろう。もう、がんばってもらう必要はないと」
帝さんはやわらかく、冷たさなんて一切ないまなざしで私を見つめた。
「好きだ、
するりと私の手をとって持ち上げ、手のひらに唇を寄せながら、帝さんが爆弾のような発言を落とす。
す、す、す、“好きだ”……?
え、み、帝さんが今、好きって言った?? 私に……っ!?
「え、え、え……っ!」
ばくばく、ばくばく、と心臓がすさまじく動いて、顔なんてゆで上がったように熱くて。
ぐるぐるぐるぐると頭が混乱した結果、私の口は欲望に
「な、なんでも かなえてくれるんですか……?」
「あぁ」
私を見つめながら答えた帝さんを前にして、ごくりとつばを飲む。
本当に帝さんが、なんでも かなえてくれるって言うなら。
「わ、私を、帝さんの彼女にしてくださいっ……帝さんの、特別に……唯一の女の子に、なりたいですっ」
分不相応で、わがままな願いを口にすると、帝さんは笑った。
さ、さっきも見た、けど……っ、み、み、帝さんが、笑ってる~……っ!!
「結花は本当に、想像もしないことを言う。……最初から、結花は特別な存在だ。――俺と付き合ってくれるか」
私のほおをなでて、帝さんは私の願いをかなえるように、告白してくれる。
今にも
「は、はいっ! 帝さんっ、好きです、大好きですっ……!」
「俺も、……愛してる」
帝さんはほほえんで、私にキスをする。
体が熱くて、うれしすぎるあまり泣きそうで、私は帝さんに ぎゅっと抱きついた。
帝さんと、想いが通じた。両想いに、なれた……っ。
「……どうして泣く」
「だって、だってぇ~……っ」
しかたなさそうに笑って、帝さんはとうとうこぼれてしまった私の涙を、唇でぬぐう。
ほおに落とされるキスにどきどきしていると、うしろから「……結花は」と、お兄ちゃんの落ちついた声が聞こえた。
「僕が思っていたよりも、たくましい女の子に育ったんだね」
「お兄ちゃん……」
帝さんの背中に回した腕をゆるめて振り向くと、お兄ちゃんは真剣な顔で帝さんを見つめる。
「結花が好きになった人だから、帝さまのことを信じます。でも……これまで結花にした仕打ちは謝罪してください」
「へ、お、お兄ちゃん??」
「無法の
「……すまなかった」
怒るお兄ちゃんにうながされて、帝さんもすなおに あやまるものだから、私はあわてて胸の前にもどした両手を左右に振った。
「い、いいんですよ! 衣食住も仕事ももらえたおかげで、好きなものを買ったりできてましたし!」
「結花……ちゃんと、あやまってもらうところは あやまってもらわないと」
「ほ、本当に大丈夫なの! 帰りだって
別にあやまってほしいなんて ちっとも思ってなかったから、私は全力でお兄ちゃんを説得しにかかる。
「ね、お兄ちゃんだって知ってるでしょっ? 黒街での生活は、たまにあぶないこともあるけど、けっこうわるくないって!」
切実な思いで見つめると、お兄ちゃんは困惑しながら私を見つめ返したあと、ため息混じりに笑った。
「……もう、結花は。うん、たしかに黒街での生活もわるくはなかったよ。思い出もいっぱいある。……しょうがないなぁ」
苦笑いして許してくれたお兄ちゃんを見て、やった!とよろこぶ。
私は黒街での生活しか知らないから、お兄ちゃんの心配も的を得ているのかもしれない。
でも、帝さんがいて、
帝さんの顔を見て笑うと、帝さんもほほえみ返してくれた。
すっかり夕焼けに染まった空が、道路に点々とある水たまりに映りこんでいるのを見て、私は、あ!と思い出す。
「そうだ、帝さん! あの約束、覚えてますか!?」
「……どの約束だ?」
「ほら、今度雨が降ったら、一緒に水たまりであそぼうって!」
「あぁ」
思い出したようにうなずく帝さんに笑顔を向けて、私はお兄ちゃんのほうを振り返った。
「ね、お兄ちゃんも一緒に、3人でだれが一番水しぶきを飛ばせるか
「結花……すっかりカジノに染まったね?」
苦笑いするお兄ちゃんに、えへ、と笑い返して、私は帝さんから離れる。
賭けのルールは……うん、こうしようかなっ。
「自分をふくめて、だれに賭けてもいいです! みんな、自分に賭けて勝ったらどんなメリットがあるか
お兄ちゃんと帝さんの視線を受けながら、私はまず、私に賭けるメリットを宣言した。
「私に賭けて勝ったら、今日と明日、3人で仲良くあそびます!」
「それじゃあ……僕に賭けて勝ったら、帝さんに明日のライブのチケットを差し上げます」
「……なら、俺に賭けて勝ったら、結花の外出を日曜の夜まで
こ、これは……みんなに賭けたいくらい
2人の顔を
「それなら、僕は帝さまに賭けようかな」
「俺は
「んぇっ……そ、それじゃあ、私は私に賭けます!」
うん、私は“3人で仲良くあそぶ”だもん、いろんな要素を
これは絶対に勝たないと……!
めらめらと
「この水たまりで勝負しましょう! 一番手は私がいただきますっ」
「うん」
「あぁ」
振り向けば、ほほえむお兄ちゃんと、私をやわらかいまなざしで見つめる帝さんがとなりあって立っていて、ほおがゆるむ。
「それじゃあ、いきますよーっ! えいっ」
大きな水たまりに いきおいよく下ろした足から、ぱしゃっと音がして、夕焼けを反射した水しぶきが遠く、遠くまで飛び散った。
きっと、この週末は人生で最高の日になる。
そんな予感を抱きながら、私は笑顔で2人のほうを振り返った。
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