Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第1章 黒街 から出るための勝負
5,ディーラーの仕事
え、緑!? うそでしょ!? 当たりでも外れでもないじゃん!
内心でさけびながら、私はいつもどおり、円柱の頭におなじ直径の球体をつけた置き物を持つ。
チェスのポーンを
まず、1~18・19~36、
これは0が出たときだけに発生する
その代わり、次に賭けた目が当たっても賭けたチップがそのままお客さまのもとにもどるだけなんだけど。
次に、0以外の数字マスに置かれた負けチップを順番に回収した。
最後に、勝ったお客さまへの払いもどし……をするんだけど、今回0に賭けていたお客さまはいないから、この手順はスキップ。
テーブルからマーカーを、ルーレットから白い球を回収したところで、お客さまの1人がテーブルに1000円札を3枚置いたので、目でピットボスを探す。
「
換金をお願いします、という合言葉を口にすると、すこし離れたところにいたピットボスが寄ってきて、テーブルからお金を回収した。
カジノでは、数台のゲームをひとつの島、ピットと呼んで管理するので、ピットボスはこの
私はお金を置いたお客さまのチップの色を確認して、おなじ色のチップを用意する。
ルーレットテーブルで使うカラーチップは基本、7種類あるカジノチップの最低額とおなじ1枚100円のものだから、3000円分で30枚……と。
10枚ずつ積んだチップをお客さまのお手元まで移動させて「どうぞ」とほほえんだ。
チップの
「
それぞれ逆向きに回転するホイールと、たまにはねる球をながめて、今度こそ赤が出ますように、といのる。
テーブルに伸びる手が増えて、ホイールの回転がゆるやかになってきたころ、「
「チップを置くのをやめてください。これ以降、チップにお手を触れないようお願いいたします」
ルーレットのディーラーとして決まった言葉を言いながら、テーブルをかこむお客さまのほうに目を向けて、あ、と遠くの存在に気づく。
いくつかのテーブルをはさんだ向こう側に、ワインレッドのスーツを着た
カジノの支配人として、いつもの見回りをしてるんだろう。
通りすがりに方々をながめている帝さんが不意にこちらを見た気がして、ぺこ、と
ホイールの内側に転がりこんだ球は、赤と黒が
色は……黒。
「あぁ……」
お客さまが小さくこぼした
そういえば私、賭けに弱いからここで はたらいてるんだった……。
お兄ちゃんとか
ざんねんな気持ちを胸の奥にとどめて、私は口角を上げながらマーカーを33と書かれた場所に置き、賭けに負けたチップを回収する。
1つの数字に賭ける1目張りか、テーブルのレイアウト上でとなりあう2つの数字に賭ける2目張りか、横1列の数字に賭ける3目張りか……。
なんていういくつかの賭け方に応じて、黒の33に賭けていたお客さまにそれぞれの配当、チップを払いもどした。
「
ホイールヘッドを回してお客さまに声をかけながら、はぁ~~、と心のなかでため息をつく。
博ツキくんのライブ……行きたいなぁ……。
一度もんもんと し始めると止まらない。
水曜日まで、ライブのことばかり考えてしまいそうだ。
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