Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望

9,届かなかった手紙

約2,100字(読了まで約6分)



「2日前、(みかど)さんにあいさつしてから寝たくて……その、帝さんの部屋に入ったら、ぐうぜん外へ出る許可証を見つけたんです」

「……」

「あの約束を守るためにも、私、(はく)ツキくんのライブに行って、栄養をチャージしてきたくて! 本当は明日、日帰りで行こうと思ってたんですけど」


 今日、学校から帰って許可証を探してたら、お兄ちゃんの手紙も見つけて、と話した。


「今外に出れば、お兄ちゃんかお父さんにも会えると思ったので……つい。博ツキくんのライブを観たら、絶対にすぐ帰りますから!」


 ぐっと両こぶしをにぎって、前のめりで帝さんにうったえかけると、帝さんはめずらしく、グレーの瞳をぱっちりと開く。
 も、もしかして帝さん、おどろいてる?
 帝さんのおどろき顔なんて貴重(きちょう)すぎる……っ!


結花(ゆいか)、なに言ってるの!? もう黒街(くろまち)には いなくていいんだよ。僕が博戯(はくぎ)ツキとしてたくさん仕事をして、父さんと一緒に借金(しゃっきん)を返したんだから」

「んぇっ!? お、お兄ちゃんが博ツキくんなの!? ぐうぜん声がそっくりなんじゃなくて!?」


 お兄ちゃんの言葉にびっくりしすぎて、いきおいよく振り返ると、お兄ちゃんもまたおどろいた顔をして、すぐに眉をひそめた。


「やっぱり手紙、届いてなかったんだ……3年前、借金を返すために博戯ツキになったことも、いろんな仕事を受けていることも」


 お兄ちゃんは悲しげに瞳をゆらして、私を見つめる。


「もうすぐ借金が返せそうだってことも、ぜんぶ、手紙に書いて送ってたんだよ」

「そ、そんな……」


 私、そんな手紙、もらってないよ……?
 ゆっくり振り返ると、帝さんは無表情にもどって、無言で私を見つめていた。
 帝さんが……これまでも、隠してたんだ。

 私が書いた手紙だって、内容をチェックされて、これは書いちゃだめって何回も修正させられてたし……。
 “黒街の住人”に見せられない内容の手紙は、私に届けずに、処分されてたのかも。


「結花。家族と自由な文通もできない街には、もういたくないでしょ? それに、中学生の結花を、夜にカジノで はたらかせたりして……!」

「お兄ちゃん……」


 お兄ちゃんの手紙をずっと隠されてたこと、ショックだった。
 それに、お兄ちゃんが怒ってくれる理由もわかる。
 黒街での生活は、たぶん、ふつうじゃない。

 でも……と、私はお兄ちゃんを見て、眉を下げながら笑った。


「たしかに、お兄ちゃんの手紙を見せてもらえてなかったのはショックだけど。私、カジノの仕事も、黒街での生活も、けっこう好きだよ」

「結花……?」

(くに)家の人と一緒に住んでるから、いろいろ制約があるのも理解してる。それでも私、帝さんには たくさんのものをもらったし……」


 大変なことばっかりじゃ、ないんだよ。
 そう伝えるために、笑顔でお兄ちゃんに話す。


「ライブを観に行きたくてGold(ゴールド) Night(ナイト)で勝負したときだって、1回負けたのに、再挑戦まで許してもらえたの。それでも、私は負けちゃったけど」

「……」

「帝さんは やさしい人だよ。私、帝さんのことが好きだし、大事な約束もしてるから。離れたくない友だちもいるし、ライブを観たら、黒街に帰ってくる」

「そんな、結花……」

「心配してくれてありがとう。私、博ツキくん大好きなんだ。中の人がお兄ちゃんなら、好きになったのも納得かも」


 私、お兄ちゃんのこと好きだし。
 博ツキくんに親近感を覚えたのも、本当はお兄ちゃんだったからなのかな?
 えへ、と笑うと、お兄ちゃんは くしゃっと顔をゆがめた。


「借金を返すためにがんばってくれてありがとう、お兄ちゃん。お父さんにも、お礼を言わないとね」


 ぎゅっとお兄ちゃんに抱きついてお礼を伝えてから、振り返って帝さんを見る。
 目が合うと、やわらかく目を細めて見つめ返してくれた帝さんにどきどきして、ほおがじわりと熱くなった。


「帝さん、今日と明日だけ、お出かけさせてください。明日の夜には必ず帰ります。たっぷり栄養をチャージして、約束を守るためにがんばりますから」


 ぐっと両こぶしをにぎると、帝さんは、ふ、と つきものが落ちたように、やわらかくほほえむ。
 過去一の笑顔に ぶわっと赤面すると、帝さんは目を伏せて、独り言をこぼすようにつぶやいた。


「もとから、明日死ぬ気はなかったが……けっきょく、予言どおりになったな」

「……へ?」


 “明日死ぬ気はなかった”……?
 ぱち、ぱち、とまばたきをすると、帝さんは(いと)おしいものを見るように私を見つめながら、こちらに近づいてくる。


「もうがんばってもらう必要はない。外に出たいなら、俺も一緒に行く」

「み、帝さん……っ!?」


 え、な、な……っ!
 目の前まで来た帝さんは、ほほえみながら、相当な熱を持っているだろう私のほおに触れた。
 ちょっと心臓がばくばくしすぎて、頭もぐるぐるしてるんだけど、ひとつ、絶対に確認しなきゃいけないことがあるよね……!?


「あ、あのっ、み、帝さんの誕生日(たんじょうび)って……!?」

「11月8日……明日だ」

「えぇぇっ!!」


 み、帝さんの誕生日がっ、あ、あ、明日!?


ありがとうございます💕

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