Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望
9,届かなかった手紙
「2日前、
「……」
「あの約束を守るためにも、私、
今日、学校から帰って許可証を探してたら、お兄ちゃんの手紙も見つけて、と話した。
「今外に出れば、お兄ちゃんかお父さんにも会えると思ったので……つい。博ツキくんのライブを観たら、絶対にすぐ帰りますから!」
ぐっと両こぶしをにぎって、前のめりで帝さんにうったえかけると、帝さんはめずらしく、グレーの瞳をぱっちりと開く。
も、もしかして帝さん、おどろいてる?
帝さんのおどろき顔なんて
「
「んぇっ!? お、お兄ちゃんが博ツキくんなの!? ぐうぜん声がそっくりなんじゃなくて!?」
お兄ちゃんの言葉にびっくりしすぎて、いきおいよく振り返ると、お兄ちゃんもまたおどろいた顔をして、すぐに眉をひそめた。
「やっぱり手紙、届いてなかったんだ……3年前、借金を返すために博戯ツキになったことも、いろんな仕事を受けていることも」
お兄ちゃんは悲しげに瞳をゆらして、私を見つめる。
「もうすぐ借金が返せそうだってことも、ぜんぶ、手紙に書いて送ってたんだよ」
「そ、そんな……」
私、そんな手紙、もらってないよ……?
ゆっくり振り返ると、帝さんは無表情にもどって、無言で私を見つめていた。
帝さんが……これまでも、隠してたんだ。
私が書いた手紙だって、内容をチェックされて、これは書いちゃだめって何回も修正させられてたし……。
“黒街の住人”に見せられない内容の手紙は、私に届けずに、処分されてたのかも。
「結花。家族と自由な文通もできない街には、もういたくないでしょ? それに、中学生の結花を、夜にカジノで はたらかせたりして……!」
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃんの手紙をずっと隠されてたこと、ショックだった。
それに、お兄ちゃんが怒ってくれる理由もわかる。
黒街での生活は、たぶん、ふつうじゃない。
でも……と、私はお兄ちゃんを見て、眉を下げながら笑った。
「たしかに、お兄ちゃんの手紙を見せてもらえてなかったのはショックだけど。私、カジノの仕事も、黒街での生活も、けっこう好きだよ」
「結花……?」
「
大変なことばっかりじゃ、ないんだよ。
そう伝えるために、笑顔でお兄ちゃんに話す。
「ライブを観に行きたくて
「……」
「帝さんは やさしい人だよ。私、帝さんのことが好きだし、大事な約束もしてるから。離れたくない友だちもいるし、ライブを観たら、黒街に帰ってくる」
「そんな、結花……」
「心配してくれてありがとう。私、博ツキくん大好きなんだ。中の人がお兄ちゃんなら、好きになったのも納得かも」
私、お兄ちゃんのこと好きだし。
博ツキくんに親近感を覚えたのも、本当はお兄ちゃんだったからなのかな?
えへ、と笑うと、お兄ちゃんは くしゃっと顔をゆがめた。
「借金を返すためにがんばってくれてありがとう、お兄ちゃん。お父さんにも、お礼を言わないとね」
ぎゅっとお兄ちゃんに抱きついてお礼を伝えてから、振り返って帝さんを見る。
目が合うと、やわらかく目を細めて見つめ返してくれた帝さんにどきどきして、ほおがじわりと熱くなった。
「帝さん、今日と明日だけ、お出かけさせてください。明日の夜には必ず帰ります。たっぷり栄養をチャージして、約束を守るためにがんばりますから」
ぐっと両こぶしをにぎると、帝さんは、ふ、と つきものが落ちたように、やわらかくほほえむ。
過去一の笑顔に ぶわっと赤面すると、帝さんは目を伏せて、独り言をこぼすようにつぶやいた。
「もとから、明日死ぬ気はなかったが……けっきょく、予言どおりになったな」
「……へ?」
“明日死ぬ気はなかった”……?
ぱち、ぱち、とまばたきをすると、帝さんは
「もうがんばってもらう必要はない。外に出たいなら、俺も一緒に行く」
「み、帝さん……っ!?」
え、な、な……っ!
目の前まで来た帝さんは、ほほえみながら、相当な熱を持っているだろう私のほおに触れた。
ちょっと心臓がばくばくしすぎて、頭もぐるぐるしてるんだけど、ひとつ、絶対に確認しなきゃいけないことがあるよね……!?
「あ、あのっ、み、帝さんの
「11月8日……明日だ」
「えぇぇっ!!」
み、帝さんの誕生日がっ、あ、あ、明日!?
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