Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望
8,関所の向こう側
Side:
それ以外は、
「ここまで来たの、初めてかも……」
住宅街を抜けて、倉庫がならぶ道の先に、開けば大型トラックも通れそうな、大きな大きな木製の門が立ちはだかっていた。
門の横には小屋があって、私が来たからか、その小屋から迫力のある顔つきの、体格がいい男の人が出てくる。
「許可証がなきゃ通さねぇぞ。見学なら帰りな」
「あ、いえ、私、外に出たくて……っ。許可証、持ってます!」
リュックを下ろしてチャックを開け、
こわもての男の人に許可証を渡すと、男の人はその内容に目を走らせて、私を見る。
「身分証は」
「あ、はいっ」
リュックのなかから生徒手帳を取り出して、顔写真つきのそれを見せた。
「……いいだろう」
生徒手帳と許可証を見くらべたあと、こわもての男の人はうなずいて、小屋に向かって手を上げる。
すると、ギギ、と音を立てて目の前の門がゆっくり開き始めた。
「ほらよ」
「あ、どうも。ありがとうございます」
男の人から生徒手帳を返してもらって、リュックにしまいなおしながら、私は人が通れるくらいに開いた門の向こう側を見る。
まっすぐに伸びた道路、ぽつぽつとある水たまり。周囲に建物がないことを
リュックを背負いなおして、どきどきしながら門のあいだを通り抜けると、
「
「んぇっ?」
耳になじむ声で名前を呼ばれて、どきっと心臓がはねた。
目を丸くしてきょろきょろあたりを見回すと、道路わきから、さわやかな黒髪に、ぱっちりとしたピンク色の目をした見覚えのある男の人が飛び出してくる。
「お……お兄ちゃん?」
「よかった、結花!」
「ええっ?」
この声、お兄ちゃんから出てるの!?
別の意味でびっくりしていたら、かけ寄ってきたお兄ちゃんに ぎゅううっと抱きしめられて、なつかしい匂いが鼻の奥に届いた。
昔の感覚が一気によみがえってくるようで、遅れてよろこびが湧き上がる。
「お兄ちゃん……ひさしぶり」
「うん……! ひさしぶり、元気にしてた?」
「うん、元気だったよ。お兄ちゃんは?」
「僕も元気にしてたよ。結花が心配だったけど」
あぁ、この感じ、お兄ちゃんだなぁ、なんて思いながら、耳になじみすぎる声に苦笑いがこぼれる。
4年間お兄ちゃんの声を聞く機会がなかったとはいえ、こんなぐうぜんあるんだ……。
その声で名前を呼ばれると、どぎまぎしちゃうな。
「本当に、来てくれてよかった。ここ数年、手紙を送っても返事がなかったから」
「えっ?」
お兄ちゃん、手紙送ってたの?
びっくりして手紙のことについて聞き返そうとしたとき、うしろから車がせまってくる音が聞こえた。
お兄ちゃんも気づいたみたいで、顔を上げて私を離そうとした……その腕が、ぴたりと止まる。
目を見開いておどろいた顔をしているお兄ちゃんのようすが気になったタイミングで、車のドアが開くような音がして。
「結花」
帝さんの、声がした。
「へ、帝さん……!?」
目を丸くして振り向くと、車のドアを閉めて、こちらに歩いてくる帝さんの姿が見える。
な、なんで帝さんがここに……!?
びっくりする私を、お兄ちゃんがぎゅっと抱きしめなおして、硬い声で帝さんに話しかけた。
「結花に、なんのご用ですか?」
「……
「おことわりします。うちの
「結花は……俺のものだ」
帝さんの言葉に、どきっと心臓がはねる。顔も熱くなってしまった。
「4年間結花の面倒を見ていただいたことには感謝しています。ですが、帝さまに結花を所有する権利はありませんよね」
「は……お、お兄ちゃん、ちょっと待って。帝さんも、あの」
なんだか言い合いになってしまっている2人を止めようとしたのだけど、お兄ちゃんは私の頭を押さえて、ひそ、とささやく。
「結花は大人しくしてて。僕が守るから」
「え、あの、でも」
「……結花が逃げたとしても、俺は結花を手放すつもりはない。今すぐ、もどってこい」
「んぇ……っ?」
「結花が黒街に
ひどい誤解をしている気がする帝さんに、お兄ちゃんが言い返して、また言い合いが始まってしまいそうなところを、私は大きな声を出して止めた。
「あ、あの、ちょっと待ってください! お兄ちゃん聞いて、私、守られる必要なんてないよ」
「でも、結花」
「ちょっとだけ離して」
眉を下げて私を見つめるお兄ちゃんの腕のなかから、よいしょ、と抜け出す。
それから帝さんのほうに体を向けて、無表情な、いや、心なしか
「帝さん、うそをついてごめんなさい! でもあの、明日の夜には絶対帰ってくるので! ちょっとだけお出かけさせてください!」
「え、結花!?」
「……明日の、夜?」2人、それぞれの声を聞きながら、私は顔を上げて、おずおずと帝さんを見つめる。
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