Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望

7,予定外の出発

約2,100字(読了まで約6分)


 今日はこれから仕事があるけど……でも、この機会を(のが)したら、明日ライブに行くとちゅうで、お兄ちゃんとお父さんに会いに行けるかわからない……。
 今黒街(くろまち)を出れば、確実にお兄ちゃんかお父さんに会えるし、明日のライブにもよゆうを持って行ける……うぅ~……っ。


(みかど)さん……ごめんなさいっ……」


 ライブを観終わったら、絶対にすぐ帰ってくるので!
 ぎゅっと目をつぶって、心のなかでそうことわってから、私は許可証を取り出し、お兄ちゃんの手紙を一緒に持って、自分の部屋にもどった。


「すぐに荷造りしなきゃ。それに、帝さんにも休みの連絡を入れて~……っ」


 帝さんの部屋から持ってきた紙類をつくえの上に置いて、しまってあったリュックを引っぱり出す。
 スマホを取り出し、連絡先のなかから帝さんの番号をえらんで電話をかけた。
 呼び出し音を聞きながら、スマホを耳と肩ではさみ、クローゼットを開けて着替えを用意する。


《なんだ?》

「あ、もしもし、帝さんっ。こんばんは、おつかれさまです。あの、とつぜんなんですが、今日と明日、仕事をお休みさせていただきたくて~……っ」

《……理由は?》

「え、えぇ~と、そのぉ、きゅ、急に体調をくずしてしまって……!」

《……》


 う、苦しい言いわけだったかなぁ~……っ。
 無言の帝さんに胸が痛むなか、手だけは動かして、必要な荷物をつぎつぎリュックに詰めていく。


《わかった》

「えっ。あ、いえ、ありがとうございます! ごめんなさい、あの、またあらためて電話させてください」


 仮病(けびょう)を使って休みたいと うそをついたあげく、これから勝手に家を留守(るす)にするんだから、黒街を出たらちゃんと あやまらないといけないよね……っ。


《……あぁ》


 帝さんの返事を聞いて、私はもう一度「ごめんなさい」とあやまり、あいさつをしてから電話を切った。
 着替えとさいふ、それから身分証代わりの生徒手帳をリュックに詰め終わったあと、私はたなを開けて、ライブのチケットを取り出す。
 許可証とお兄ちゃんの手紙を合わせた、その3枚の紙を大切にリュックに入れてから、私は私服に着替えて家を飛び出した。


****
Side:(くに)(みかど)


《ごめんなさい。それじゃあ、あの、またあとで》


 ごそごそと物音を立てながら通話を切った結花(ゆいか)が、今度は なにを考えているのか。
 退屈しのぎに、と家から回された、比較的(ひかくてき)刺激(しげき)”がある仕事を片付けながら、俺は家に電話をかけた。


《はい。どのようなご用命でしょうか》

「結花はいるか」

《はい。10分ほど前に、忘れ物をしたとおっしゃり、ご帰宅されております》

「結花に動きがあれば知らせろ」

《かしこまりました》


 電話を切ってしばらく。
 今回もけっきょく退屈しのぎにならなかった仕事を済ませて車に乗り込んだとき、家から折り返しの電話がかかってきて、すぐに応答した。


「なんだ」

《つい先ほど、お(じょう)さまが外出されました。私服に着替えられて、リュックを背負っておられます》

「そうか」


 もとから急な体調不良という自己申告(しんこく)は信じていないが。
 仕事を休んでどこへ行く気なのか。
 報告を受けて電話を切ったあと、今度は(れん)に連絡をとる。


《はいはい、今回はどんなご命令でしょうか?》

「結花が今日と明日、休みを申請(しんせい)した。行き先がわかったら報告しろ」

《え……はい、承知(しょうち)しました。え~、とりあえず今は家の近くにいるようです。このままGPSの動きを監視(かんし)します。監視カメラも使いますか?》

「いや」

《承知しました。はぁ~、こんなタイミングで自由行動とは、ゆいちゃんはことごとく想像のななめ上をいきますねぇ。予測がついたらご連絡します》


 軽口を聞き流して「あぁ」と答え、通話を切った。
 想像もしないことをするわりに、回されてくる“仕事”のようにその結果で害をもたらすわけでもない。
 今回も今までとおなじ、ささいな理由での行動だろう。

 だからこそ、俺に隠してなにをするつもりなのか、興味がある。


『帝さん、好きです……っ。絶対、死なせたりしませんから……待っててください……っ』


 首のうしろに回された腕。
 脈拍の速い、熱い体で抱きついて、初めて結花が口にした言葉。
 どくりと心臓が音を立てた、そんな体の変化をもっと味わいたくて、またいちだんと結花をほっする気持ちが強くなった。

 遅効性(ちこうせい)(どく)のように、じわじわとしみこんで、俺に退屈以外のものを思い出させる結花の一挙一動を、そばで観察していたい。
 結花からの着信履歴をながめて、今回は なにをするのか予想していた俺は、Gold(ゴールド) Night(ナイト)に着いたタイミングでかかってきた電話に、衝撃(しょうげき)をあたえられた。


《帝サマ、ゆいちゃんですが、おそらく――西の関所に向かっています》

「……関所?」


 ここから出る許可証も、青波(あおなみ)優紀(ゆうき)の手紙も隠しているはずだが。
 許可していても俺の部屋に入ってこない結花が、俺の部屋をあさった?
 ……いや、どうでもいい。


「西の関所に向かえ。今すぐ」

「かしこまりました」


 ――不愉快(ふゆかい)だ。
 結花が、俺のもとから逃げるとは……。
 ざわつく心に眉根を寄せて、俺はフロントガラスの向こうを見すえた。


ありがとうございます💕

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