Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望

5,予言の全貌(ぜんぼう)

約1,900字(読了まで約6分)


 (みかど)さんの死の原因が、帝さん自身……って?
 どういうこと、と目を丸くすると、帝さんは伏し目気味に説明を続ける。


(うらな)い師は、俺が退屈な人生にあきて、21になる日に自分の手で命を()つだろう、と言った」

「……えっ」


 そ、それってつまり……帝さんは21歳の誕生日(たんじょうび)に、じ、自殺しちゃうってこと!?
 な、な、な……っ!


「その運命を変えるのは……俺が21のとき、17歳の、ほおにほくろがある“結花(ゆいか)”という名前の女らしい」

「わ、私……?」


 ほくろがある左のほおに触れながら、ぽかんとして帝さんを見つめた。
 私が、自殺しちゃう帝さんの運命を変えるって……どうやって……?


「俺が、結花を愛せば」


 帝さんは視線を上げて、まっすぐに私を見つめる。


「この退屈が、消えるそうだ」

「み、帝さんが、私を愛せば……?」


 帝さんが自殺する原因がなくなる、ってこと……?
 え……え、え。
 ぐるぐると頭が混乱しているけど、それと同時に、今までのことがパズルのピースをはめたように、ぱちぱちっとつながっていった。

 帝さんが、私の名前と年齢(ねんれい)を聞いて、家に住まわせたこと。
 ゲームの再挑戦を、“相手の心を落とし合う”ドロップハート限定で認めてくれたこと。
 (れん)さんが、ドロップハートなら、と私を応援(おうえん)してくれたこと。

 帝さんが、世のなかを退屈に思っていること。
 ドロップハートで、私が勝つことを望んでいたこと。
 廉さんが、『愛の魔法で死が遠ざかる』と言っていたこと。

 帝さんが、勝者として定期的にキスすることを求めたこと。
 ……私に、黒街(くろまち)から出る許可証を隠していたこと。


「予言を受けた1年後、予言と合致(がっち)する女が現れて、気まぐれで近くに置いた。これまで、俺の退屈を消し去るほど、強烈(きょうれつ)刺激(しげき)ではないと思っていたが」


 帝さんは心のうちを明かしながら、一歩一歩私に近づいてくる。
 どく、どく、と心臓の音が体にひびいているのは、きっと……。


「たしかに、ドロップハートを始めて、結花をそばに置くようになってから、“退屈”以外の感情をひさしぶりに感じている」

「み、帝さ……」


 気だるげに、でもまっすぐに私を見つめる瞳がどんどん私に近づいて、身じろぎもできない私の後頭部(こうとうぶ)を、帝さんがつかまえた。
 ()き寄せるように唇が重ねられて、ばくっ、ばくっ、と鼓動が大きくなり、体が熱を持つ。
 すこし顔を離した帝さんは、私だけをグレーの瞳に映して、ほほえんだ。


「その顔をもっと見たいだとか」

「ん……っ」


 帝さんがまぶたを下ろして、また唇を寄せる。
 そっと腰に回された腕が、私を抱き寄せた。


「結花が苦しむ姿はあせるだとか」

「帝、さ……」


 すこし眉をひそめて私を見つめる帝さんの瞳は、心配にゆれているようで。
 磁石(じしゃく)がくっつくように、ふたたび触れた熱が、何回だって私の鼓動(こどう)を加速させる。


「他の男に触らせるのは腹が立つだとか」


 すっと目を細めて私の瞳をのぞく帝さんに、執着心(しゅうちゃくしん)のようなものを感じて、頭がぐるぐるした。
 こんなに“感情”が表れている帝さんは、初めて見る。


「死ぬかどうかはどうでもいい。俺は結花にあたえられる刺激がもっとほしい」


 ぱくりと食べるように唇を重ねた帝さんに、そろそろ心臓が破裂(はれつ)させられそうだ。
 最初から、帝さんに“私”を求められていたなんて。
 いつも気だるげで、たんたんとしている帝さんが、私に、こんなに感情をあらわにしてくるなんて。

 どきどきしすぎて、頭がおかしくなりそう……っ。


「わ、私なんて、そんな、たいした存在じゃ……」

「俺の心を動かすのは、結花しかいない」

「っ……帝、さん……」


 熱すぎる体温も、今にも限界を迎えそうな鼓動も、きっとこんなに密着してたら、帝さんにぜんぶ伝わってる。
 好きな人に求められるうれしさが、私の手を帝さんのスーツに吸い寄せた。


「感情を感じるたびに、結花におぼれてみたいと思う」


 私に向かって手を伸ばしてくるような、帝さんのまっすぐすぎる視線に耐えかねて目をつぶると、帝さんは私の耳元でささやく。


「俺のなかを、もっと結花で満たしてくれ。望みはなんでもかなえる」


 体のなかに入ってくるような熱い声に、頭がくらっとした。
 私、帝さんに手を伸ばしてもいいのかな。
 心を落とし合うゲームとか関係なく、帝さんは私のものって言うために、くもをつかんでもいいのかな。


「わ……わかり、ました……がんばって、みます……」


 声をしぼり出すように答えると、帝さんは私の唇をうばう。
 長いキスのあと、そっと離れていく帝さんの頭をつかまえるように手を伸ばして、私は帝さんにぎゅっと抱きついた。


「帝さん、好きです……っ。絶対、死なせたりしませんから……待っててください……っ」

「……あぁ」


 帝さんは私に(こた)えるように、両手で私を抱きしめた。


ありがとうございます💕

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