Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望
2,帝 の変化
「俺が求めたこと、覚えているな」
「んぇっ……は、はぃ……」
大きな
思わず視線を上げれば、せまる
……唇から伝わる体温に、心臓が
「……
やわらかい感触が離れて目を開けると、帝さんが数センチの距離しかない状態で、私を見つめた。
「へ、
廉さんと、セキュリティールームで見てたりしたのかな……?
でも、帝さんにどんな顔をして会えば、って話してたなんて、本人には言いづらいよ~……!
つい目を泳がせて言葉に詰まると、また唇が重ねられて、心臓が ばくっとはねる。
「
「う……そ、そのぉ……ドロップハートに負けちゃった、っていうことを話して~……」
「……他には?」
帝さんにそんな聞き方されたら、話しにくくても言うしかないじゃん……!
「うぅ~……み、帝さんに、どんな顔して会えばいいんだろうって、相談、してました……」
「……
「んぇ……?」
口説かれて? って、晴琉くんに?
「い、いえ……特に、そういうことは……」
帝さんの顔に視線をもどしながら答えたあと、もしかして、と考えつく。
これ……帝さんに
「……そうか。俺に向ける顔を、あまり春日野に見せるな」
目を伏せて顔を離しながら、帝さんはそんなことを言った。
『帝サマのも、
廉さんの言葉が頭のなかをぐるぐると回る。
も、もしかして、もしかして。
「……返事は?」
「は、はい!」
帝さんに視線を向けられて、とっさに いきおいよく答えた。
気だるげな無表情で小さくうなずいた帝さんは、形のいい薄い唇を開く。
「今日は帰りが遅くなる。俺を待たずに帰っていい」
「わ、わかりました……」
心臓がばくばく音を立てているのを聞きながらうなずくと、帝さんは手を上げて。
ぽん、と私の頭をなでた。
「もうもどっていい」
「……」
ぽかん、と開いた口から、心臓が飛び出したんじゃないかと、一瞬本気で思った。
帝さんは手を離すと、私の顔を見つめて、ふ、とほほえみ、うしろを向いて歩き出す。
「~~っ!?」
ばっと、自分のほおにそえた両手に、高熱が伝わった。
もしかして、もしかして、もしかして……っ!
わ、私……帝さんと、“両想い”になれる可能性があるのかな……っ!?
****
どきどきして、気もそぞろになりながら仕事を終えた今日。
開店前に言われたとおり、1人で家に帰ってきて寝る準備を済ませた私は、
そこに入っている1枚のチケットを取り出して、[
「はぁ……」
最初のブラックジャックでも、ドロップハートでも負けてしまって、もう絶対に行けないことは確定してしまったけど。
「ライブ……もう4日、や、日付変わってるから3日後かぁ……」
いいかげん、次のもらい手を探さないとだめだよね……。
明日……
お父さんも借金を返すためにずっと がんばってくれてるみたいだし、いつかはライブに行ける日も来るかもしれないよね。
うん、そのときを楽しみに、っていうことで、今回は すぱっとあきらめよう。
「もう、寝よ」
つぶやいて、チケットを引き出しのなかにしまってから、私はふと浮かんだ顔につられるように、となりの部屋につながっている扉を見た。
帝さん……帰りが遅くなるって言ってたけど、もう帰ってるかな……?
「……」
帰ってるなら、ちょっとあいさつしてから寝たい、かも。
あの扉を私が使うのは初めてだけど……入ってきていいって、言ってたもんね……?
私はごくりとつばを飲んで、扉の前まで歩き、おそるおそるノックした。
「あのぉ、帝さん……もう帰ってきてますか……?」
扉の向こうにも聞こえるように、ちょっと声を張ってから耳を澄ませてみたけど、物音は聞こえない。
まだ帰ってきてない、か……もう寝てる、とか……?
「……うぅ」
だめ、帝さんの顔、見たい。
もう寝てるなら、顔を見るだけ見てから寝たい。
そんな欲望に負けて、私はそっとドアノブを押し下げてみた。
私の部屋の明かりがもれて、一部室内が照らされているけど、帝さんの姿は見えなかった。
ベッドは、どうだろう……?
「失礼します……」
小声でことわりを入れて、体が通るくらいに扉を開け、足音で起こしたりしないように、しずかに帝さんの部屋に入る。
どきどきしながら、もれ出た明かりをたよりに、扉の反対側にあるベッドへ近づくと、帝さんの姿はなかった。
「……まだ、帰ってないんだ」
どこかさみしい気持ちで肩を落としたあと、サイドテーブルに口が開いた
折りたたまれた跡があるその書類にちょっとだけ視線を向けて、[
「――……え?」
[11月2日の
(※無断転載禁止)