Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望
1,残された結果
きらびやかな
そのかたわらで、近くのテーブルの準備をしている
「それで、あのあと支配人に負けちゃったんだ」
「はい……」
「そっか……ごめんね、あおったりして。かけひきが
「んぇ……あ、あれはそういう意味だったんですか。いえ、晴琉くんにお任せしたのは私ですから」
今になって晴琉くんが奥の手を出した理由が分かり、顔を上げて手を振る。
文化祭初日に、ドロップハートで負けてしまってから、2日。
もともと仕事がお休みの日曜日はともかく、祝日だった昨日も、文化祭があるからとお休みをもらっていた私は、火曜日になって晴琉くんにすべてを話した。
晴琉くんはもうしわけなさそうに眉を下げてほほえみ、口を開く。
「ドロップハートって、勝ったほうは負けたほうになんでもひとつお願いできるんだよね。支配人からは、なにを要求されたの?」
「う……そのぉ……て……定期的に、キスすること、です……」
「……そっか」
なんで
これからの生活を考えたら、なにも手につかなくなっちゃいそうなくらい、心臓がばくばくしちゃうんだけど。
それよりも、今の私には、重大な なやみがあって……!
「晴琉くん、どうしましょう……っ。私、ドロップハートで負けたってことは、帝さんのことが好きっていうことで」
「うん」
「それが帝さん本人にも、バレちゃってる状態なんですよね……!?」
「まぁ、そうだね」
そんな、やわらかくほほえんだ顔で
わ、私、帝さんに恋しちゃってて、それを自覚したときには帝さんにも気持ちを知られてるなんて、もう
「私、どんな顔して帝さんと会えばいいのか……っ!」
「そういうかわいい顔?」
「は、晴琉くん……
昨日は丸一日帝さんと顔を合わせることがなくて ほっとしてたけど、今日は絶対にいつか顔を合わせてしまうわけで。
片想いがバレてる状態で、どうやってご本人さまに会えばいいのか!
わーって声をあげてしゃがみこみたい気持ちなのに、顔が赤くなっているだろう私を見て、晴琉くんは
「冗談じゃないよ。恋する女の子ってかわいいから、自然体でいればきっと うまくいくんじゃないかな」
「“うまく”って……?」
《――
「んぇっ」
いつの日か聞いた覚えのある呼び出しを受けて、私は びくっと体ごとはねた。
いつも“ゆいちゃん”呼びの
別に今回はSNSのアカウントを作ったりはしてないのに……な、なんのおしかりを受けるんだろう。
「あれ。呼ばれちゃったね」
「うぅぅ……こわいですけど、行ってきます……」
「あはは、気をつけて」
ひらひらと手を振る晴琉くんに手を振り返して、私は肩を丸めながら、おそるおそるセキュリティールームへ向かった。
カジノフロアを出て、従業員用通路にもどってくると、セキュリティールームへたどり着く前に、廉さんの姿を見つける。
……ワインレッドのスーツを着た、帝さんの姿と一緒に。
「だからあと4日だとしてもまだ可能性が……」
帝さんに話しかけている廉さんの声がちょっぴり聞こえて、すこし待ってから近づいたほうがいいかな、となやむこと数秒。
こちらに顔を向けた帝さんと目が合った気がして、びくっとはねると、帝さんが左手を上げて、人差し指をくいっと折りまげた。
「うぅ……」
心の準備、ぜんぜんできてないよ~……っ。
帝さんから目をそらしつつ、呼ばれるままに、私はぴたっと会話を止めた2人に近づく。
「あのぉ……なんでしょうか……」
「おー、ゆいちゃん。帝サマのご命令でな」
「んぇ……?」
帝さんの命令?
ぱちぱちとまばたきをして廉さんを見ると、今日もへらりと笑っている廉さんが、私に近づいて、ぽんと肩に手を乗せてきた。
「ひとついいことを教えてやろう」
廉さんは私の耳元に顔を寄せて、ひそひそと ささやく。
「あとでチェッカーの記録を調べたんだけどな。帝サマのも、
「へ……?」
反応、してた? 帝さんのチェッカーが?
……え。
「そ、それって……?」
ぱちぱちぱち、と何度もまばたきをしながら横を見ると、廉さんはにやりと笑って、私の肩から手を離した。
「じゃ、俺は仕事に戻るから」
「えっ。ちょ、ちょっと廉さん……!?」
「ごゆっくり~」
ひらひらと手を振ってセキュリティールームのほうへ引き返していく廉さんを、あせりながら見つめる。
帝さんと2人っきりにされるのは、ちょっと心の準備が~……!!
「……結花」
「ひゃっ、はい!」
いつもの声で呼ばれて、どくりと心臓がはねた。
じわじわとほおが熱くなるのを感じながら、ゆっくり、ゆっくり帝さんに顔を向ける。
私を見つめる帝さんは、いつもどおりの気だるげな無表情。
じっと視線を向けられて、ばく、ばく、と鼓動が速くなり始めた。
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