Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第4章 隠されたひみつと えらんだ欲望

1,残された結果

約2,100字(読了まで約6分)


 きらびやかなGold(ゴールド) Night(ナイト)のカジノフロアで、今日も各テーブルを回って7種類のチップをセットする。
 そのかたわらで、近くのテーブルの準備をしている晴琉(はる)くんからまとめの言葉が返ってきた。


「それで、あのあと支配人に負けちゃったんだ」

「はい……」

「そっか……ごめんね、あおったりして。かけひきが()きるタイミングだと思ったんだけど」

「んぇ……あ、あれはそういう意味だったんですか。いえ、晴琉くんにお任せしたのは私ですから」


 今になって晴琉くんが奥の手を出した理由が分かり、顔を上げて手を振る。
 文化祭初日に、ドロップハートで負けてしまってから、2日。
 もともと仕事がお休みの日曜日はともかく、祝日だった昨日も、文化祭があるからとお休みをもらっていた私は、火曜日になって晴琉くんにすべてを話した。

 晴琉くんはもうしわけなさそうに眉を下げてほほえみ、口を開く。


「ドロップハートって、勝ったほうは負けたほうになんでもひとつお願いできるんだよね。支配人からは、なにを要求されたの?」

「う……そのぉ……て……定期的に、キスすること、です……」

「……そっか」


 なんで(みかど)さんがそんな要求をしたのか、ぜんぜんわからないけど。
 これからの生活を考えたら、なにも手につかなくなっちゃいそうなくらい、心臓がばくばくしちゃうんだけど。
 それよりも、今の私には、重大な なやみがあって……!


「晴琉くん、どうしましょう……っ。私、ドロップハートで負けたってことは、帝さんのことが好きっていうことで」

「うん」

「それが帝さん本人にも、バレちゃってる状態なんですよね……!?」

「まぁ、そうだね」


 そんな、やわらかくほほえんだ顔で肯定(こうてい)しないでほしい!
 わ、私、帝さんに恋しちゃってて、それを自覚したときには帝さんにも気持ちを知られてるなんて、もう究極(きゅうきょく)のピンチじゃない!?


「私、どんな顔して帝さんと会えばいいのか……っ!」

「そういうかわいい顔?」

「は、晴琉くん……冗談(じょうだん)ではなくてですね」


 昨日は丸一日帝さんと顔を合わせることがなくて ほっとしてたけど、今日は絶対にいつか顔を合わせてしまうわけで。
 片想いがバレてる状態で、どうやってご本人さまに会えばいいのか!
 わーって声をあげてしゃがみこみたい気持ちなのに、顔が赤くなっているだろう私を見て、晴琉くんは(かろ)やかに笑っている。


「冗談じゃないよ。恋する女の子ってかわいいから、自然体でいればきっと うまくいくんじゃないかな」

「“うまく”って……?」

《――青波(あおなみ)結花(ゆいか)、セキュリティールームへ来るように》

「んぇっ」


 いつの日か聞いた覚えのある呼び出しを受けて、私は びくっと体ごとはねた。
 いつも“ゆいちゃん”呼びの(れん)さんに、フルネームで呼ばれる おそろしさたるや。
 別に今回はSNSのアカウントを作ったりはしてないのに……な、なんのおしかりを受けるんだろう。


「あれ。呼ばれちゃったね」

「うぅぅ……こわいですけど、行ってきます……」

「あはは、気をつけて」


 ひらひらと手を振る晴琉くんに手を振り返して、私は肩を丸めながら、おそるおそるセキュリティールームへ向かった。
 カジノフロアを出て、従業員用通路にもどってくると、セキュリティールームへたどり着く前に、廉さんの姿を見つける。
 ……ワインレッドのスーツを着た、帝さんの姿と一緒に。


「だからあと4日だとしてもまだ可能性が……」


 帝さんに話しかけている廉さんの声がちょっぴり聞こえて、すこし待ってから近づいたほうがいいかな、となやむこと数秒。
 こちらに顔を向けた帝さんと目が合った気がして、びくっとはねると、帝さんが左手を上げて、人差し指をくいっと折りまげた。


「うぅ……」


 心の準備、ぜんぜんできてないよ~……っ。
 帝さんから目をそらしつつ、呼ばれるままに、私はぴたっと会話を止めた2人に近づく。


「あのぉ……なんでしょうか……」

「おー、ゆいちゃん。帝サマのご命令でな」

「んぇ……?」


 帝さんの命令?
 ぱちぱちとまばたきをして廉さんを見ると、今日もへらりと笑っている廉さんが、私に近づいて、ぽんと肩に手を乗せてきた。


「ひとついいことを教えてやろう」


 廉さんは私の耳元に顔を寄せて、ひそひそと ささやく。


「あとでチェッカーの記録を調べたんだけどな。帝サマのも、規定値(きていち)よりは下だったけど、“反応”してましたよ」

「へ……?」


 反応、してた? 帝さんのチェッカーが?
 ……え。


「そ、それって……?」


 ぱちぱちぱち、と何度もまばたきをしながら横を見ると、廉さんはにやりと笑って、私の肩から手を離した。


「じゃ、俺は仕事に戻るから」

「えっ。ちょ、ちょっと廉さん……!?」

「ごゆっくり~」


 ひらひらと手を振ってセキュリティールームのほうへ引き返していく廉さんを、あせりながら見つめる。
 帝さんと2人っきりにされるのは、ちょっと心の準備が~……!!


「……結花」

「ひゃっ、はい!」


 いつもの声で呼ばれて、どくりと心臓がはねた。
 じわじわとほおが熱くなるのを感じながら、ゆっくり、ゆっくり帝さんに顔を向ける。
 私を見つめる帝さんは、いつもどおりの気だるげな無表情。

 じっと視線を向けられて、ばく、ばく、と鼓動が速くなり始めた。


ありがとうございます💕

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