Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
14,晴琉 の営業
「そういえば、さっきはどういう
本当に小さいペットボトルをメイド服のポケットにしまって
どんとチップを増やしたり、前回と
適当に賭けているのかなとも思うくらい、帝さんの法則性がわからなかったんだよね。
「モンテカルロ法を使った」
「モンテカルロ法……?」
首をかしげると、となりを歩く帝さんはちらりと私を見て、その賭け方について説明してくれた。
「連続した数字を3つ用意して、両はしの合計額を賭ける。勝ったら両はしの数字をけずり、負けたら右はしに負けた額を追加する」
「は、はあ……」
「数字がなくなるまでくり返して、数字がなくなったらまた最初から始める」
えぇと、ぜんぜん わからない。
連続した数字を3つ……たとえば、1、2、3、とか?
両はしの合計だから、1+3=4を賭けるっていうこと?
で、勝ったら1と3をけずって、残りの2を賭けて、負けたら、たとえば1、2、3に4を追加して、今度は1+4=5を賭ける……?
「あ、頭が混乱しそうです……」
「メモをとればいい」
「な、なるほど……って、帝さん、それをずっと頭のなかでやってたんですか?」
「あぁ」
す、すごい。もしかして帝さん、天才なんじゃ。
知識があるのもそうだし、それを自分の頭ひとつでやってしまえるのも、
「帝さんって、本当にすごい人ですよね……」
帝さんのすごさを かみしめながら歩いているうちに、3年1組の教室に着く。
「こんにちは、支配人、
[キャバクラ&ホストクラブ]という張り紙がある教室の入り口には、すでに
まったく
もしかして、帝さんがいるってうわさになってたのかな?
「あぁ」
「うちのクラスまで来てくださってありがとうございます。なかで休んでいかれますか?」
黒系の服を着ている帝さんとは対照的に、白いスーツを着た晴琉くんは、教室のなかを見せるように半身引いた。
うちの
なんだかそわそわしちゃいそうな空間……!
ちらりと帝さんを見ると、帝さんも判断をゆだねるように私を見ていて。
「えぇと……」
「……結花さん、よかったら寄っていってほしいな。僕が特別なサービスをするよ」
「んぇっ?」
答えを考えていたら、晴琉くんがするりと私の手をとって、妖しく目を細めながら指の背に唇を近づける。
い、いつぞやの奥の手……!?
また別人のような雰囲気をただよわせている晴琉くんにどぎまぎすると、帝さんがどこか冷たい声を落とした。
「
「はい、失礼いたしました。……結花さん、今度は1人のときにおいで」
「へ……っ!?」
ぱっと手を離した晴琉くんは、人差し指を口の前に立てて、私にウィンクしてみせる。
え、営業をかけられている!?
晴琉くんってホスト似合ってるんじゃ、なんて思っていたら、帝さんがつないだ手をぐいっと引っ張って、私を階段のほうへ連れて行った。
「え、帝さん……? あ、は、晴琉くん、すみません、また!」
振り向いてあいさつだけすると、晴琉くんは にこっとほほえんで手を振る。
軽く手を振り返して前に視線をもどせば、帝さんは立ち入り禁止の注意書きが貼られた三角コーンのわきを通って、まっすぐに階段を上がっていき。
屋上に続いている扉を開けて、青空の下に数人いた、先客に声をかけた。
「他の場所へ行け」
「「はっ、はい!!」」
帝さんを見て固まっていた一般のお客さんは、いきおいよく返事をすると、私たちの横を通ってあっというまに屋上から去ってしまう。
ちょっと
「えぇと、帝さん……?」
「……もとから、春日野とは親しげだったな」
「え? あ、はい……晴琉くんは気さくに接してくれるので……」
帝さん、従業員同士の関係もちゃんと見てるんだなぁ……と思いつつ。
とりあえず振られた話題に答えると、帝さんは手を離して、ゆっくりと私に向きなおる。
「結花が“心”を賭けてゲームをしているのは、俺とだろう」
「へ……?」
いつもどおりの無表情で、気だるげに言った帝さんは、私のほおに触れて――、唇をうばった。
どきっと、まず心臓がはね、1秒遅れて、え、と思う。
顔を離して私を見つめた帝さんは、ささやくように言った。
「よそ見をするな」
それからまた目を伏せて、私にキスをし、私の腰を抱き寄せる。
え、え、え、と遅い助走から、頭が急速回転し始めて、帝さんと密着したことで伝わる体温に息が詰まりそうになった。
どっどっどっ、と加速する鼓動につられるように、体も熱くなり始めて、帝さんが角度を変えたことで、ばくっと心臓がはねる。
そのとき。
――テテテンテテテンテテテン
「んっ……!?」
とつぜん、近くからなぞの音が鳴り出して、びくっと肩がはねた。
1秒フリーズしたあと、帝さんはそっと離れて、眉根をすこし寄せながら視線を落とす。
その視線をたどるように、私も下を見て、気づいた。
その音が、チェッカーをつけている左手首から鳴っていることに。
「……え」
現状を理解したとき、目の前からため息をつく小さな音が聞こえる。
ゆっくり視線を上げると、帝さんは私を見つめて、口を開いた。
「――俺の、勝ちだ」
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