Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

11,文化祭めぐり

約2,200字(読了まで約6分)


 はずかしさのあまり顔をそむけて、ぱたぱたと片手で顔をあおぎ、ほおの熱を冷ます。
 さっきのは絶対カウントされちゃってるけど、私のチェッカーって残りカウントいくつなんだろう……。
 まだ反応したのは1回かな?

 いや……(みかど)さんとキスしたときも私、かなりどきどきしてたし、カウントされてるかも!?
 え、そうなるともう2回? あと1回帝さんにどきどきさせられたら私負ける!?


「ゆいちゃん、シフトいつ終わる~? 俺行きたいとこあるから、帝サマ案内してくれないか?」

「んぇ……あ、うぅんと、実はまだまだ――」

「すぐ終わります、どうぞご自由に連れて行ってください」


 (れん)さんに話しかけられて、まだシフトが終わるまで時間がある、と答えようとしたのに、ぽんと(あかね)の手が肩に乗った。
 いつのまに。
 振り向くと、茜は最大限にねこをかぶった愛想のいい笑顔を浮かべている。


「そう? わるいね~」

「いえ。どうぞごゆっくり」

「あ、茜……」


 茜は接客スマイルを浮かべたまま、さっと離れていってしまった。
 その姿を目で追っていれば、他のクラスメイトが茜に、ぐっと親指を立てているようすが見える。


「いい友だちだねぇ。小笠原(おがさわら)(あかね)ちゃん、だったか」

「え……あ、はい。1年のときから友だちなんですよ。さっきもあのお客さまから かばってくれたりして、かっこよくて」


 友だちをほめられた うれしさで、笑みを浮かべて答えると、廉さんはうんうんとゆるく笑いながらうなずいた。
 話題にあげてから、そういえば、とあのお客さまが置いていったお金の存在を思い出す。


「あのぉ、あのお客さまが置いていったお金、お代よりうんと多くて……帝さん、お代の残り、いりませんか?」

「……いらない。売り上げに入れておけ」

「んぇ……わ、わかりました……」


 帝さんにそう言われたら、大人しく受け取るしかない。
 ちらりと教室にいるクラスメイトを見ると、近くにいた女子がこくりとうなずいた。
 どうやら会話が聞こえていたみたい。

 それじゃああとは任せていいか、と、ホットケーキを食べて、コーヒーを飲む2人を見守る。
 帝さんと廉さんが食事を終えたあとは、お見送りとその後の同行もかねて、一緒にレジへ向かった。


「お、お代はけっこうです!」

「そ~? じゃ、さっきの臨時(りんじ)収入から引いといて」

「はい! ありがとうございました!!」


 と、いう感じでお会計をスキップしたので、クラスメイト全員の「行ってらっしゃいませ、ご主人さま!」という声を背に、教室を出る。
 今度は廊下(ろうか)が、しーんと しずまりかえったのは、帝さん効果の表れだ。


「ゆいちゃん、ここの生徒指導室って2階だったよな?」

「はい。今日と明日は(うらな)い師さんが来て、そこで占いをしてるみたいですよ」

「うんうん、ちょっと興味あるから行ってくるわ~。……じゃ、失礼します、帝サマ」

「あぁ」


 廉さんも占いに興味があるんだなぁ、と思いながら手を振って廉さんと別れたあと、私はとなりに立つ帝さんを見上げる。


「帝さん、どこか行きたいところはありますか?」

結花(ゆいか)が気になるところでいい」


 無表情でそっけなく答えた帝さんを見て、うーんと考えこんだ。
 せっかくなら帝さんに楽しんでもらえるところがいいよね。


「3年生の出し物は変わっていておもしろいですよ。晴琉(はる)くんのところはキャバクラ&ホストクラブなんてものをやってるらしく」

「そうか」

「あ、ミニカジノもあるんです! 晴琉くんと私でいろいろ教えたりしたんですよ。行ってみますか?」

「あぁ」


 無事、帝さんの同意が得られたので、私は笑顔で帝さんを上の階に案内した。
 行く先々で人々が言葉を失って固まるなか、何度か(かよ)った先輩たちの教室へたどり着くと、ミニカジノは にぎわっているようすだった。


「いらっしゃいま……」

「こんにちは、あそびに来ました」

「あ、結花ちゃ……」


 入り口に立っていた先輩も、私の声を聞いて振り返った先輩も、教室のなかにいるお客さんたちも、帝さんを見るなりぴたっと固まる。
 あはは、と苦笑いしつつ、私は帝さんを見て、先輩たちから聞いていたミニカジノの説明をした。


「ここではミニバカラにブラックジャック、大小(だいしょう)にウィール・オブ・フォーチュンがあそべるんです。かせいだチップに応じて景品がもらえるそうですよ」

「……そうか」


 帝さんはちらりと、カーテンを閉め切りつつ、きらびやかに かざりつけられた教室のなかを見回す。
 文化祭の出し物としては、けっこう再現クオリティが高いと思うから、帝さんも感心してくれる……かな?


「ど……どのゲームが、ご希望でしょうか……?」


 フリーズが解けたらしい、このクラスのリーダー的先輩がぎこちなく愛想笑いを浮かべて、帝さんに尋ねた。
 帝さんは4つあるブースを見て、空いてるイスがあるミニバカラのテーブルを指名する。


「あのテーブル……ミニバカラ」

「か、かしこまりました。どうぞ、こちらへ」


 案内するように先を歩く先輩の手と足が、同時に前に出ていた。
 かなり きんちょうしているみたいだ。
 私たちが近づくと、ミニバカラのテーブルについていたお客さん、特に空席のとなりに座っていたお客さんは、立ち上がってまで距離をとる。

 気持ちはわかるけど、と苦笑いしつつ、右はしの席に座った帝さんのとなりに、私もメイド服のスカートをまとめて座った。


ありがとうございます💕

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