Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

10,(みかど)担当の結花(ゆいか)

約2,200字(読了まで約6分)



「あのぉ……? 注文伝えてもいい?」


 在庫管理を担当しているクラスメイトの顔をのぞきこんで、手を振りながら声をかけると、その男子はぎこちなく私と目を合わせた。


「お、俺が、用意すんの……?」


 もはや声になっていないくらいの小声だ。


「え、うん、まぁ……」

「むりむりむりっ、なんかあったら殺されるっ」

「えぇ……? 大げさじゃない?」


 なにかあっちゃまずいけど、それで人生終了させられるほど、(みかど)さんって無慈悲(むじひ)じゃなくないかな……?
 まぁ、彼がいやなら、他の人に、と思って視線を動かすと、目が合ったクラスメイト全員に、無言で首を振られる。横向きに、高速で。
 えぇ……と思っていたら、肩にぽんと手が置かれて、いつのまにか近くに来ていた(あかね)が顔を寄せてきた。


「帝さまの前で平然としてられんのは結花(ゆいか)だけだって。手袋のあまりはあるし、結花が用意しな」

「んぇ、私が?」


 茜と小声で話すと、在庫管理担当のクラスメイトがみんな、こくこくと首を(たて)に振った。


「帝さまご一行(いっこう)の担当は結花ってことで。他の仕事しなくていいから」

「え」


 他の仕事しなくていいって、それはどうなの。
 茜と、他のクラスメイトたちの硬い顔を見てから、私はまぁいいか、とうなずいて、ビニールの手袋をもらう。
 基本は用意してあるものをお皿やカップに移すだけだけど、ホットケーキは生クリームを乗せる作業が加わるんだ。

 みんなに距離をとられるなか、クーラーボックスに入れてあるホイップクリームを取り出して、お皿に移したホットケーキの上に、ちゅうう、としぼり出す。
 担当してたわけじゃないから、完成品を目にしたときの記憶をたよりにした目分量だけど、我ながらうまくしぼり出せた。
 もうひとつも おなじようにホイップクリームをしぼり出して、あと片付けをしてから、まずはコーヒー2杯を持っていく。


「お待たせいたしました、こちらコーヒーです。ホットケーキもすぐにお持ちしますので、少々お待ちくださいねっ」

「は~い」


 2人の前にそれぞれコーヒーを置いたあと、へらりと笑う(れん)さんに見送られて、ホットケーキを取りにもどった。
 そのころにはみんなもぎこちなく動き出していて、廊下(ろうか)から聞こえてくる話し声に混じって、ひそひそとしたお客さまの話し声も復活する。
 今度はプラスチックのフォークとナイフも乗せたホットケーキを2皿両手に持って、帝さんたちがいる席まで運び、笑顔でお皿を置いていった。


「お待たせいたしました、こちらホットケーキです」

「ありがとな~。ゆいちゃん生クリーム乗せんのうまいじゃん」

「えへへ、上手(じょうず)にできました!」


 カップに入ったコーヒーを飲んでいた廉さんは、ホットケーキを見ながらほめてくれる。
 他の仕事はしなくていいって言われたし、とその場にとどまって、私は帝さんたちがホットケーキを食べるところを見守ることにした。
 帝さんがうちのクラスに来て、うちのクラスの商品を口にしてくれるなんて……夢みたい。

「いただきま~す」と言ってホットケーキを切り分け、それぞれ口に運ぶ廉さんと帝さんを交互(こうご)に見つめ、わくわくと反応を待つ。


「ん~、んまいね~」

「……あぁ」


 ゆるく笑ってくれる廉さんと、私をちらりと見てから、同意する声を発してくれた帝さん。
 そのどちらもうれしくて、ほおのゆるみが止まらなくなった。


「よかったです!」


 Gold(ゴールド) Night(ナイト)にあるレストランの絶品料理にはおよばないけど、うちのクラスで出してるものも ちゃんとおいしいんだよね。
 味見したときのことを思い出して、なんだかお(なか)がすいてくるなぁ、と思いながら、2人のホットケーキをじぃっと見つめた。
 ふわふわホットケーキに、あまーい生クリーム。特に生クリームをたっぷり乗せた一口がおいしくて……。


「ははっ、今にもよだれたらしそうな顔してんな~」

「んぇっ。す、すみません! 味見したときのこと思い出しちゃって!」


 かぁっと赤面しながらあわてて視線を外すと、廉さんがくつくつと楽しそうに笑う。
 今は仕事中なのに はずかしい~……っ。


「食べるか?」

「へ?」


 帝さんから話しかけられて、きょとんとしながら視線を移せば、帝さんはホットケーキを一口分切り分けて、生クリームを乗せた。
 それから、フォークに刺したそれを私のほうに差し出して目を合わせる。


「……えっ!?」

「ははっ、よかったじゃん、ゆいちゃん。帝サマのご好意、もらっとけ~?」

「も、も、もらうって……!」


 え、これどう見ても“あーん”の体勢だよね!?
 仕事中に帝さんからホットケーキを分けてもらうっていう状況だけでも、かなりの食いしんぼうで はずかしいのに……!
 帝さんの手で食べさせてもらうなんて、そんなの!!

 顔が赤くなっているだろう私を見つめながら、帝さんは無表情で口を開いた。


「えんりょするな」

「~~っ、そ、それ、じゃあ、いただき、ます……」

「あぁ」


 ばくばくと音を立てる鼓動(こどう)を聞きながらかがんで、差し出されているフォークに顔を寄せる。
 これ、絶対チェッカーが反応しちゃってるよ~……っ。
 そう思いながらも、ぱくっとホットケーキをいただいて、その甘さを味わいながら、おずおずと帝さんを見た。


「……」


 私を見つめ返す帝さんは、ほほえむとまではいかないまでも、目を細めて、どこかやわらかいまなざしをしている。
 それによけいどきどきして、ホットケーキを飲みこんだあと、私は「ありがとうございます」と消え入りそうな声で伝えた。


ありがとうございます💕

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