Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
10,帝 担当の結花
「あのぉ……? 注文伝えてもいい?」
在庫管理を担当しているクラスメイトの顔をのぞきこんで、手を振りながら声をかけると、その男子はぎこちなく私と目を合わせた。
「お、俺が、用意すんの……?」
もはや声になっていないくらいの小声だ。
「え、うん、まぁ……」
「むりむりむりっ、なんかあったら殺されるっ」
「えぇ……? 大げさじゃない?」
なにかあっちゃまずいけど、それで人生終了させられるほど、
まぁ、彼がいやなら、他の人に、と思って視線を動かすと、目が合ったクラスメイト全員に、無言で首を振られる。横向きに、高速で。
えぇ……と思っていたら、肩にぽんと手が置かれて、いつのまにか近くに来ていた
「帝さまの前で平然としてられんのは
「んぇ、私が?」
茜と小声で話すと、在庫管理担当のクラスメイトがみんな、こくこくと首を
「帝さまご
「え」
他の仕事しなくていいって、それはどうなの。
茜と、他のクラスメイトたちの硬い顔を見てから、私はまぁいいか、とうなずいて、ビニールの手袋をもらう。
基本は用意してあるものをお皿やカップに移すだけだけど、ホットケーキは生クリームを乗せる作業が加わるんだ。
みんなに距離をとられるなか、クーラーボックスに入れてあるホイップクリームを取り出して、お皿に移したホットケーキの上に、ちゅうう、としぼり出す。
担当してたわけじゃないから、完成品を目にしたときの記憶をたよりにした目分量だけど、我ながらうまくしぼり出せた。
もうひとつも おなじようにホイップクリームをしぼり出して、あと片付けをしてから、まずはコーヒー2杯を持っていく。
「お待たせいたしました、こちらコーヒーです。ホットケーキもすぐにお持ちしますので、少々お待ちくださいねっ」
「は~い」
2人の前にそれぞれコーヒーを置いたあと、へらりと笑う
そのころにはみんなもぎこちなく動き出していて、
今度はプラスチックのフォークとナイフも乗せたホットケーキを2皿両手に持って、帝さんたちがいる席まで運び、笑顔でお皿を置いていった。
「お待たせいたしました、こちらホットケーキです」
「ありがとな~。ゆいちゃん生クリーム乗せんのうまいじゃん」
「えへへ、
カップに入ったコーヒーを飲んでいた廉さんは、ホットケーキを見ながらほめてくれる。
他の仕事はしなくていいって言われたし、とその場にとどまって、私は帝さんたちがホットケーキを食べるところを見守ることにした。
帝さんがうちのクラスに来て、うちのクラスの商品を口にしてくれるなんて……夢みたい。
「いただきま~す」と言ってホットケーキを切り分け、それぞれ口に運ぶ廉さんと帝さんを
「ん~、んまいね~」
「……あぁ」
ゆるく笑ってくれる廉さんと、私をちらりと見てから、同意する声を発してくれた帝さん。
そのどちらもうれしくて、ほおのゆるみが止まらなくなった。
「よかったです!」
味見したときのことを思い出して、なんだかお
ふわふわホットケーキに、あまーい生クリーム。特に生クリームをたっぷり乗せた一口がおいしくて……。
「ははっ、今にもよだれたらしそうな顔してんな~」
「んぇっ。す、すみません! 味見したときのこと思い出しちゃって!」
かぁっと赤面しながらあわてて視線を外すと、廉さんがくつくつと楽しそうに笑う。
今は仕事中なのに はずかしい~……っ。
「食べるか?」
「へ?」
帝さんから話しかけられて、きょとんとしながら視線を移せば、帝さんはホットケーキを一口分切り分けて、生クリームを乗せた。
それから、フォークに刺したそれを私のほうに差し出して目を合わせる。
「……えっ!?」
「ははっ、よかったじゃん、ゆいちゃん。帝サマのご好意、もらっとけ~?」
「も、も、もらうって……!」
え、これどう見ても“あーん”の体勢だよね!?
仕事中に帝さんからホットケーキを分けてもらうっていう状況だけでも、かなりの食いしんぼうで はずかしいのに……!
帝さんの手で食べさせてもらうなんて、そんなの!!
顔が赤くなっているだろう私を見つめながら、帝さんは無表情で口を開いた。
「えんりょするな」
「~~っ、そ、それ、じゃあ、いただき、ます……」
「あぁ」
ばくばくと音を立てる
これ、絶対チェッカーが反応しちゃってるよ~……っ。
そう思いながらも、ぱくっとホットケーキをいただいて、その甘さを味わいながら、おずおずと帝さんを見た。
「……」
私を見つめ返す帝さんは、ほほえむとまではいかないまでも、目を細めて、どこかやわらかいまなざしをしている。
それによけいどきどきして、ホットケーキを飲みこんだあと、私は「ありがとうございます」と消え入りそうな声で伝えた。
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