Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
9,文化祭のお客さま
心なしかがやがやとする声が小さくなって、やだなぁ~……と思いながら、お客さまのほうに体を向けた。
「もうしわけございませ――」
「ご主人さま、目がおつかれなのでは? “ブス”という言葉に適合する者はこの場にはいないように見受けられます。少々目を閉じて休まれては」
頭を下げるとちゅうで、
となりに立つ
茜、かっこいい……!
「あぁ!? んだてめぇ! 俺は客だぞ!」
「あぁ~もうしわけございません、ご主人さま。えぇと、私になにかご
かっこいいけど、茜に任せておくとヒートアップしそうだから、あわてて話をさえぎる。
愛想笑いを浮かべて、すすす、とお客さまのもとへ行くと、お客さまは舌打ちをしてコップをつかんだ。
周りが、しん、とするなか、お客さまはそのコップの口を、まさかの私に向けて持ち上げ――
「――止まれ」
この声……
「俺の前でうちの人間に手を出すか、金を置いて帰るか、えらべ」
「く、
お客さまは目だけを動かして、ひきつった顔で汗を浮かべると、ぎこちなくコップをつくえにもどした。
それから、ポケットのなかに手を入れてさいふを取り出し、中身をぜんぶ抜き取ったんじゃないかってくらい、お札をたくさん置いて席を立つ。
「す、すみませんでしたっ!!」
「……あ、お、お客さま、お金置きすぎ――」
お腹の底から声を出して、教室のうしろの扉から出ていくお客さまの背中に、あわてて声をかけるも、一歩届かず。
注文された商品とはかけ離れた
そこには、黒とグレーで統一された細いシルエットの私服を着た帝さんと、だぼっとしたゆるいシルエットの私服を着た
「み、帝さん、廉さん……?」
どうしてあの2人がうちの学校に。え、私もしかして夢を見てる??
「はろ~、ゆいちゃん。メイド姿もかわいいなぁ」
廉さんがあまりにもいつもどおりに、片手を上げてへらりとあいさつしてきたものだから、私は はっと我に返って、早足で入り口に近づいた。
「こ、こんにちは、廉さん、帝さん。助けてくれてありがとうございます。あの、どうされたんですか??」
ひとまずあいさつと、さっきのことへのお礼を言ってから、帝さんと廉さんを
2人一緒に学校へ来るなんて、もしかして私に用があって?
え、なんだろ、仕事のことかな、それとも家のことかな、まさかここで“家から出て行け”って言われたりする!?
「文化祭だろ」
「……へ?」
文化祭?
え、文化祭だから、来てくれたの??
帝さんと、廉さんが? うちの学校までわざわざ?
たっぷり5秒くらい使って、帝さんの言葉をすとんと体に落としこんだ私は、じわじわと湧き上がってくる笑みを、こらえきれずに ぱぁっと浮かべる。
「来てくださってうれしいです! あ、お帰りなさいませ、ご主人さま。こちらへどうぞっ」
まさか文化祭だからって、帝さんたちが来てくれるなんて~っ。
私は にこにこしながら教室を振り返って、ちょうど空いていた窓ぎわの席に2人を案内した。
いまだに周りは しーんとしているけど、そんなことも気にならないくらいうれしくて、にこにこしたまま2人に注文を聞く。
「お飲み物やお食事はいかがされますか? ただいまご用意できるのはこちらになります」
手作りのメニュー表を2人に見えるように移動させると、廉さんが ちらっとメニュー表を見てから、私にゆるい笑顔を向けてきた。
「メイドさんのオススメは?」
「ホットケーキです! 生クリームがたっぷり乗っていておいしいんですよっ」
尋ねられて、迷わず私が好きなメニューを答えると、廉さんが ぷはっと吹き出す。
帝さんは気だるげな無表情でメニュー表に視線を落としたまま。
「“生クリームがたっぷり”か~、それはいいなぁ。じゃあ俺はホットケーキとコーヒーで」
「俺もおなじものを」
「ホットケーキとコーヒーをお2つですね、かしこまりました! ただいまご用意いたしますので、少々お待ちください」
笑顔でぺこっと頭を下げて席を離れると、周りが静かだから、廉さんのしゃべり声が聞こえてきた。
「ははっ、ゆいちゃんうれしそ~。来てよかったですねぇ、帝サマ?」
「……」
だってうれしいんだもん、と心のなかで勝手に答える。
私は笑顔をしまえないまま、家庭科室からたまに補給が届く在庫テーブルの前に移動して、クラスメイトたちがフリーズしていることに気づいた。
(※無断転載禁止)