Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
7,文化祭当日の朝
Side:
家に“
今日と明日の文化祭には絶対に行きたかったから、帝さんにOKをもらうべく、ずっとベッドで大人しくしててよかった。
「無理はせず、具合がわるくなったらいつでも言いなさい」
「はい。それじゃあ、失礼します」
ひさしぶりの登校になったから、先生に心配されて、職員室であいさつと雑談をした帰り。
委員会の人とか、生徒会の人とかがいそがしそうに通りすぎる1階
あの日のことは、もしかして私が帝さんの命を救うっていう予言の実現だったんじゃないかな……?
私が動かなかったら、帝さんがあの毒を受けて、私がわたわたしてるあいだに……なんてことも、あったかもしれないもんね。
そうなると、体が回復するまで
帝さんが今年死んじゃうっていう予言を解消したら、私って用なしだもんね……。
「うぅ……」
ドロップハートの期限だって、けっきょくなにもできないまま今週末にせまってるし。
住む場所を失ったあげく、
「あなた、どうしたの?」
「へ……?」
落ちついた女性の声に話しかけられて顔を上げると、目の前に、
「え、えぇと……ちょっと、のっぴきならない なやみごとがありまして……」
そういえば、今年の文化祭には、有名な占い師さんを呼ぶっていう話があったっけ……?
そう考えながら、へら、と愛想笑いを浮かべて答える。
占い師さんは
左右の目にそれぞれ泣きボクロがあるところが、神秘的な
「よかったら、占われにいらっしゃい。前にも、私のお客さまになったことがあるわよね?」
「え? いえ、生まれてこの方、占い師さんとは会ったことがなく……」
「あら? どこかで見た顔だと思ったのだけれど。うーん……まぁいいわ、お代は学校にもらっているから、今回は特別に無料で占ってあげる。どう?」
にこ、とほほえむ占い師さんは、怪しいというよりも、なんでも見通してしまいそうな空気があった。
人生初の占いだけど、今後どうすればいいか わかるかもしれないし、ついていってみようかなぁ。
「それじゃあ……お言葉に甘えて、ぜひお願いします」
「えぇ。今日と明日は、生徒指導室を借りて占いをするの。いらっしゃい」
なぜに、生徒指導室で。
そう思いつつ、神秘的にほほえむ占い師さんが階段に向かって歩き出すうしろ姿についていく。
そういえば、帝さんにあの予言をした占い師って、どんな人なんだろう。
「あのぉ……占い師さんって、ふだんはどこで占いをしてるんですか? 街を歩いてて、あんまりそういうところを見かけたことがなくて」
人生初そうぐうの占いに興味が湧いて聞いてみると、占い師さんは私の前を歩きながら「そうねぇ」とつぶやいた。
「私の場合は、導かれるまま、そのとき私の占いを必要としている人がいるところへ行くわ」
「へぇぇ……占い師さんはやっぱり、そういうふしぎなことが わかるものなんですか?」
「えぇ。なんとなくね」
見るからに神秘的な雰囲気があるし、そう言われても信じられちゃうからすごい。
感心しきりで階段を登っていくと、占い師さんが生徒指導室のある2階で足を止めず、さらに上に行こうとしたのを見て、あれ、と
「あのぉ、占い師さん。生徒指導室は2階ですが……」
「あら? いけない、また まちがえちゃったわ。こっちね、こっち」
占い師さんは笑って階段を引き返し、2階の廊下を進んでいく。
でも、階段のすぐ近くにある生徒指導室を通りすぎて、もっと奥へ行こうとしているから、あわてて声をかけた。
「占い師さん、生徒指導室、ここです!」
「あら? こんなに近かったかしら。ありがとう、ごめんなさいね」
「いえ……」
なんだか、うん……。この占い師さん、ちょっと抜けてるところがあるなぁ……。
急に神秘的な雰囲気が飛んでいって、大丈夫かなぁ、と苦笑いしながら、私は生徒指導室に入る占い師さんのあとに続く。
生徒指導室のなかは、カーテンが閉め切られて、中央のつくえには
占い師さんは目の前に水晶玉が置かれている奥側のイスに座って、私ににこりとほほえみかける。
「どうぞ、座って」
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