Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

6,夜襲(やしゅう)にたおれる

約2,200字(読了まで約6分)


 それに、“今後はいちいち”っていう言い方じゃ、まるで……。


「まさか、よくあることなんですか……!?」

結花(ゆいか)の身の安全は守る。気にするな」


 いや、気にしないなんて むりですけど……っ!?
 なんで(みかど)さんがそんな目に……もしかして、(くに)家の人だから?
 うぅ、ありそうだと思えてしまうくらいのイメージが……。

 あらためて、帝さんがちがう世界に住む人だと感じて、心配になる。
 こんなこわいことがよくあるなんて……今までも、私が気づいてなかっただけで、“刺客(しかく)”が来てたりしたのかな……?


「そのうち使用人が片付けに来る。今日は俺の部屋で寝ろ」

「えっ」


 み、帝さんの部屋で!?
 と思ったけど、またこんなことがあったらこわいし、帝さんと一緒にいたほうが安心かも……と考えて、私は大人しく「はい」と答えた。

 床にたおれている黒づくめの人たちを放置したまま、一緒に帝さんの部屋にもどると、ピピッピピッと警報(けいほう)が聞こえる。
 まだ鳴ってたんだ、と眉を下げながら思ったとき、前にいる帝さんが宙を()った。


「ここで待ってろ」


 帝さんは目を丸くする私にそうささやいて、部屋のなかに進み、暗い部屋に黒い服でまぎれた“だれか”と格闘(かくとう)する。
 それは複数人いるみたいで、なにかを()けるように体を動かしながら、帝さんはキレのある蹴りやパンチを宙に向かって放っていた。
 短く聞こえるうめき声や、どさっという重い音が、たしかに帝さん以外の人の気配(けはい)を感じさせる。

 すこしすると、人がたおれる音がしたあとに、帝さんが すっと姿勢(しせい)をなおして立ち止まった。
 全員撃退(げきたい)した……のかな?
 そう思って暗闇に近い部屋のなかを見回すと、帝さんがようすを見ようとしてくれていたのか、私の部屋に続く扉がすこし開いていることに気づく。

 その瞬間、目撃(もくげき)した。
 ピピッピピッと警報が鳴り続けるなか、音もなくその扉が動いて、充分な通り道ができたそこから、黒い影が帝さんの部屋に入ってきたところを。


「帝さんっ、あぶない!」


 私は、その影が きらっとにぶく光る物を持っていることに気づいて、体が動くまま、帝さんにかけ寄った。


「結花、そこで――」


 すこし振り向いた帝さんに、ばっと抱きついた、1秒後。
 左肩のすこし下に痛みが走って、同時にその場所が燃えるように熱くなった。
 “痛っ”と思わずこぼしそうになったとき、急に頭がぐらぐらして、体のなか、内臓がかき回されていくように気持ちわるくなる。

 のどに いきおいよくこみ上げてきたものが、口のなかを鉄のような味で満たして、ごぽっと唇の外へ飛び出した。
 帝さんが腕のなかから抜け出したこともあって、力が抜けるまま、床にどさっと座り込む。


「ぐぁっ」


 あぁ、あの人たおされたのかな、なんて頭の片すみで思っていると、ぱっと部屋が明るくなって、目の前の床が赤く染まっているのが見えた。
 あれ、私、もしかして血を吐いたのかな……?


「結花」


 帝さんの声、なんかいつもとちがう。
 肩に触れて、顔をのぞきこんできた帝さんの顔を見て、その“ちがい”の正体がわかった。
 帝さん、ちょっとあせってる……?


「みかど、さ……きもち、わるぃ……」

(どく)だ。待ってろ」


 毒……?
 私の前から離れた帝さんの姿を目で追うよゆうもなく、暴力的な体の不調に「うぅ」と小さくうめく。

 私、死ぬのかな……これ、死んじゃうやつだよね……。
 絶対に人間の体がおちいっちゃいけない状態になっているのがわかって、そんなことを思いながら、またのどにこみ上げてきた血を吐き出した。


「げほっ……」


 頭がぐらぐらして、意識が遠のいて、もうなにも考えられない。
 すこしして、目の前に現れた帝さんは、手に持ったなにかを私の口に押しつけてきた。
 でも、口のなかに入った液体は、すぐ口の外に流れていく。

 もうまぶたを持ち上げる力もなくて目を閉じると、今度はぐいっと顔を上げられて、唇にやわらかいものが触れた。
 口のなかにさっきとおなじ液体が入ってくる。
 のどに流れていくそれを、体が勝手に飲みこんだ。


「――――――――」


 帝さんがなにか言ってる。なんて言ってる……?

 “解毒剤(げどくざい)を飲ませた”
 “起きたら楽になっている”

 あぁ、そっか……。


「あり、がと……ござ、ます……ぇへ……しぬ、かと……おも……まし、た……」


 私はすこし目を開けて、ぼんやりとしている帝さんの顔を見ながら笑い、引きずられるまま、意識を底に(しず)めた。


****
Side:(くに)(みかど)

 ぐったりとした結花の体を抱き上げて、ベッドまで運ぶ。
 青白い顔とは対照的に、口元や服は血で赤く染まっていて、頭がすこし くらっとした。


「……結花」


 ほくろのあるほおに触れると、生きた体温を感じる。
 ――ひさしぶりに、あせりを(いだ)いた。
 “残り”に気づいたタイミングで、結花がさけんで、近づいてきて。

 服のそでに切れ込みが入っているのが、毒のぬられたナイフを体に受けた証拠(しょうこ)だ。


「……」


 どうやら、()せられてきているらしい。
 心を動かしてくれるなら、どんな刺激(しげき)でもいいと思っていたが……。


『ぇへ……しぬ、かと……おも……まし、た……』


 弱々しく笑う結花の顔が浮かんで、目の前の赤い口元を服のそででぬぐった。
 この顔に、血は似合わない。


 ――コンコンコン

「失礼いたします。清掃(せいそう)に参りました」


 いつもどおりのタイミングで来た使用人を部屋に通して、ひとつの命令を(くだ)した。


「――結花の部屋の警備(けいび)を、つねに最高レベルに引き上げろ」


ありがとうございます💕

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