Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

5,深夜の怪音

約2,000字(読了まで約6分)



 ――ピピッピピッピピッ

「ん……」


 高い電子音が聞こえて、眠りに落ちていた意識が浮上(ふじょう)する。
 ぼんやりと目を開けても、部屋は寝たときとおなじで、真っ暗なまま。


 ――ピピッピピッピピッ

「んん~……?」


 なんだろう、この音。ずっとやまない。
 スマホのアラームじゃないし……と、音の出所を探すために、のっそりと体を起こした。
 10月も今日をふくめて残り4日。文化祭も、ドロップハートの期限と(はく)ツキくんのライブの日も、せまってきているところ。

 そろそろ がつんとした一押しで(みかど)さんを落としたいなぁ、とあせる気持ちがちょっぴり湧き始めている今なのだけど……。


「時計……じゃない。うーん、部屋のまんなか から聞こえてる……?」


 ベッドを抜け出して音が鳴りそうなものを見て回ったけど、部屋のすみに行くほど、むしろ音が遠くなっている気がして天井を見上げた。
 でも、天井にあるものなんて照明くらい。


「……使用人さんを呼んでこよう」


 夜中でも数人の使用人さんが家にいるし、頭にけっこうひびくこの音が鳴りやまないと、寝にもどれる気がしない。
 私はあくびをもらしながら、部屋を出て使用人さんが待機している部屋に向かおうとした。
 だけど、廊下(ろうか)に出てすぐ、薄闇のなかに だれかがいるのが見えて。


「あ、使用人さ……あれ?」


 使用人さんだと思って声をかけてから、なんだか使用人さんとは格好(かっこう)がちがうことに気づく。
 体にぴっちりとフィットした黒づくめの服に、黒い布で顔の下半分をおおっていたりなんかして。
 3人いるみたいだけど、見えている目元にもまるで見覚えがない。


「あのぉ……どちらさまでしょうか……?」

「「……」」

「へ……っ?」


 とりあえず尋ねてみた私に対して、黒づくめの人たちは目を合わせてから、手を上げて私にせまってきた。
 その手には、きらんとにぶく光るナイフがにぎられている。


「んぇっ……!? きゃぁぁあ!」

「チッ」


 命の危機を、これほど直接的に感じたことはなかったかもしれない。
 私はのどの奥から悲鳴(ひめい)をもらしながら、思わず黒づくめの人たちから逃げるように、廊下の左側へと走った。

 やだやだやだ、ちょっと死ぬのは ごかんべん願いたい~……っ!!
 じわっと涙が にじんできたりして、どこに行けば助かるかな!?と必死に考え始めたとき、うしろでガチャッといきおいよく扉が開く音がする。
 この近くにある扉って、私か帝さんの部屋の扉しかないから、私はすぐにその音を出した人の正体に思い当たった。


「帝さんっ、なんかあぶない人たちが――!」


 いるから気をつけて、と伝えようと振り向いたら、私を追いかける黒づくめの人たちが思ったよりも近くにいておどろく。
 でも、そのさらにうしろで、帝さんが足を振り上げて、一番うしろにいる黒づくめの人の頭を()り飛ばすのが見えた。
 ごんっ、と壁にたたきつけられた人から痛そうな音がして、黒づくめの1人は振り向き、1人は私に手を伸ばしてくる。

 はっ、と前を向きなおして全力で走ったけど、数秒もしないうちに、ぐいっと腕を引っぱられて羽交(はが)いじめにされた。
 からんっとナイフが落ちるような音と、どさっと人がたおれる音が聞こえるなか、私を捕まえた人は うしろに体を向ける。
 ぐぐ、と拘束(こうそく)されている私も一緒になってうしろを向かされ、しゃがむように体勢を低くしている帝さんが目に入った。


「止まれ、この女が――ぐっ」


 ひぇ、首になんか当たってるぅ……!と、ぎゅっと目をつぶった直後、私を拘束している人がうめいて、首に当たるなにかの感触が離れる。
 次いで、わきの下から回された腕が離れて、体を前に抱き寄せられた。


「ぎゃぁっ――」


 うしろから聞こえたさっきの人の悲鳴が、まうしろじゃなく、すこし離れたところからあがっていて、あぁ、解放されたんだ、と涙がこみあげてくる。


「ケガはないか」


 耳の近くで帝さんの声が聞こえたことで、私を抱き寄せた人が帝さんなのだと確信できて、思わずその背中に腕を回してしまった。


「帝さぁん……っ、こわかったです……!!」


 思ったよりも完全な泣き声になってしまったけど、安心したいきおいで泣きつくと、背中をとんとんとたたいてもらえる。
 帝さんの温かい体温がうれしい。私、ちゃんと生きてる……!


「部屋で、ピピッって音がやまなくて、使用人さんを呼びに行こうと思ったら、あの人たちがいて……っ」

「あぁ。あれは警報(けいほう)だ」

「警報……?」


 帝さんに抱きついたまま顔を上げると、帝さんがいつもどおりの無表情で私を見下ろした。
 そして、ほおに伝う涙を指でぬぐってくれる。


侵入者(しんにゅうしゃ)を検知したら特定の部屋で鳴るしくみになっている」

「侵入者……って、この人たちは一体……?」

「俺を殺しに来た刺客(しかく)だろう。結花の部屋は警報を切らせておく。今後はいちいち起こされることはない」

「え……っ!? み、帝さんを殺しに、って……!」


 な、なにそれ。まるで暗殺みたいな……え、帝さん、そんな命の危険があるの……!?


ありがとうございます💕

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