Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

4,ミニカジノの手伝い

約2,400字(読了まで約7分)


 先輩たちのクラスで提供(ていきょう)するゲームは、トランプを使ったブラックジャックとミニバカラ。
 それに、サイコロを使った大小(だいしょう)、私には苦い思い出のあるウィール・オブ・フォーチュンの4つみたい。
 ゲームのルールとか必要な道具は晴琉(はる)くんがすでに説明しているようで、私にはひとまず、ゲームの実演(じつえん)に協力してほしいとか。


「ミニバカラはプレイヤーの行動がないから実演を済ませてあるんだけど、ブラックジャックと大小はプレイヤーがいたほうがわかりやすいから」

「わかりました。ひとまず3ゲームずつくらいやればいいですかね?」

「うん、まずは大小のディーラーをお願いしてもいい?」

「はい」


 教室の中央に寄せてあった つくえに近づいて、周りを先輩方にかこまれながら、晴琉くんとつくえ越しに向かい合った。
 大小は3つのサイコロ・ダイスを使って、出目の合計や、出目の組み合わせを予想して()けるゲーム。
 これにもルーレットのテーブルとおなじ、決まったレイアウトがあるんだけど、それは晴琉くんが紙に描き起こしたみたい。


Place(プレイス) your(ユア) bet(ベット). どうぞ、お好きな場所にチップを置いてください」

「まずはわかりやすいところからいくよ。出目の合計が11以上の“大”に、100円賭ける。これは当たれば賭け金の同額(どうがく)が配当される賭け方」

「うんうん」


 3~18までの合計が出る可能性があるなかで、10以下の合計に賭けられるのが“小”、11以上の合計に賭けられるのが“大”。
 晴琉くんは5段に分かれたレイアウトのうち、上から2段目の右はしに大きく[大]と書かれた場所へ、チップ代わりの消しゴムを置いた。


No(ノー) more(モア) bet(ベット). チップを置くのをやめてください。これ以降、チップにお手を触れないようお願いいたします」


 ディーラーは取っ手のないマグカップみたいな、ダイスカップと呼ばれるものに3つのダイスを入れて振り、テーブルにダイスを出す。
 その手順どおり、用意されていた紙コップに3つのダイスを入れて、おなじく用意されていた紙製のコースターでふたをしながら振った。
 公開のしかたは かんたん、コースターごと紙コップをテーブルに置いて、紙コップをぱかっと開けるだけ。


「今回出たのは、5と6と2……だね。合計は13だから、“大”に賭けていた僕は勝ち」

「おぉ~」

「えぇと……消しゴム、お借りしますね」


 つくえの上に ごろっと集められていた消しゴムを1個取って、晴琉くんが置いた消しゴムチップの横に置き、すすす、と晴琉くんの手元まで移動させる。


「ありがとう。……これで1ゲームが終わり。賭け方はいくつかあるけどゲームの流れは変わらないよ」


 大小には他に、3つのダイスのうち、1~6の1とか3とか、特定の出目が出ることに賭けるワンダイという賭け方や。
 2と4や、3と6などの組み合わせが出ることに賭けるコンビネーションという賭け方。
 2つぞろ目、または3つぞろ目が出ることに賭ける賭け方なんかがあったりする。

 それらを説明するために、そのあとも数回ゲームをおこなって、晴琉くんがいろんな賭け方を見せた。
 晴琉くんとディーラーを交替して、ブラックジャックの実演と解説も し終えたころには、長い昼休みも終わりが近くて。


「ありがと~! おもしろかったし勉強になった! またいろいろ手伝いに来てもらっていい?」

「はい、私でよければ」

「じゃあ続きはまた今度ね」


 私を呼びに来た明るい先輩に代表してお礼を言われ、晴琉くんと一緒に先輩方の教室を出る。


「来てくれてありがとう、結花(ゆいか)さん。手伝ってもらってごめんね」

「いえ、晴琉くん1人でぜんぶ説明するのは大変ですから。ちなみに、晴琉くんのクラスはなにをやるんですか?」


 私を送ってくれるみたいで、一緒に階段のほうへ歩きながら晴琉くんに尋ねると、にこ、とほほえみが返ってきた。


「キャバクラ&ホストクラブ」

「わぁ……さすが3年生ですね」


 3年生の出し物が変わり種なのは毎年こうれいみたいだけど、ミニカジノといい、発想がすごい。
 私は来年、なにをすることになるんだろう……。


「ふふ、結花さんのクラスでは なにをやるの?」

「メイド&執事喫茶(しつじきっさ)です。よくばりセットなところはおなじですね」

「あはは、たしかに。結花さんはホール担当? メイド服もかわいいだろうね」

「はい、ホールです。似合うといいなぁって思いながら、衣装(いしょう)づくりを手伝ってますよ」


 ナチュラルにほめてくる晴琉くんに、えへ、と笑いながら答えた。
 そして、その衣装づくりをしながら(あかね)と話していたことについて、はっと思い出す。


「あのぉ、晴琉くん。友だちとドロップハートのことを話してて、(みかど)さんのピンチを助けたり、私が浮気すると思わせたり……」


 がつんとした一押しがあればうまくいくんじゃないか、って言われたことを、晴琉くんに話した。


「この作戦、晴琉くんから見てどう思いますか?」

「うーん……他の男子を使ったかけひきは、タイミングが重要かな。支配人との関係をよく見きわめる必要があると思う」

「帝さんとの関係……」


 うーん、と私も考えこむ。
 帝さんとの関係がどうなれば、浮気すると思わせたときにいい効果が出るんだろう。
 そもそも帝さんに効果なんてあるのかなぁ、と思っていたら、晴琉くんがくすりと笑った。


「かけひきが活きるタイミングだと思ったら、僕が協力するよ。それまでは、支配人の“ピンチ”を探してみてもいいかもね」

「なるほど。ありがとうございます、晴琉くん!」


 晴琉くんに協力してもらえるなんて、心強い。
 それじゃあ、そのタイミングとやらが来るまでは、帝さんのピンチを……いやぁ、他のがつんとした一押しについて考えてみようかな……。うん。
 どう考えてもピンチという言葉との親和性がない帝さんを思い浮かべながら、私は遠くを見つめた。


ありがとうございます💕

(※無断転載禁止)

2025/04/28に第3章第3話以前のストーリーを一部変更しました。
変更内容は、
・カジノゲーム開始時に「Place your bet」という発言の追加(第1章4・5話・第2章3話)
・ルーレットで球を投げ入れる際に「Spinning up」という発言の追加(第1章4・5話・第2章3話・第3章1話)
・ルーレットのマーカーを1ゲーム終了ごとに回収するように修正(第1章5話・第2章3話)
・結花が過去に外を賭けて勝負した際のゲームを「ウィール・オブ・フォーチュン」に変更(第1章2・9話)
となっています。