Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第1章 黒街 から出るための勝負
3,監視 された生活
カジノフロアを出てセキュリティールームまで来た私は、扉をノックしてから「失礼します、
何台ものモニターがならび、店内のようすがいくつも映し出されたセキュリティールームの光景は、いつ見てもあっかんだ。
「よぉ、ゆいちゃん。ごきげんいかが?」
「
モニターの前のイスに座って、背もたれに体をあずけながら電子たばこを吸っていた廉さんが、白いけむりを吐き出してへらりと笑う。
イスを回転させ、体ごとこちらに向いた廉さんは、「まぁまぁ」と言いながら、電子たばこをポケットにしまってゆっくりと立ち上がった。
グレーに染めた髪のあいだから、たれ目気味な
「今日は店先でナンパされた らしいじゃんか? 大丈夫だったか~?」
「え……はい、
もしかして、ただ心配してくれただけ?
おしかりを受ける雰囲気じゃなさそうだと肩の力が抜けた私は、こちらに歩いてきた廉さんにゆるく笑いかけられて、口角を上げた。
帝さんが感情をそぎ落としたダウナーだとすれば、廉さんは愛想のいいダウナーといった感じ。
友だち同士?だからか、気だるげな雰囲気がそっくりだ。容姿がととのっているところも。
「うんうん、聞いたぜ~? ゆいちゃんもそんなに大きくなったかぁ」
「はい、高校2年生です」
ふふん、と
えへ、と笑う私の肩を
「これは、そんなゆいちゃんが今日作ったアカウントですよね~?」
「えっ」
スリープボタンが押されて、パッと明かりがついたスマホには、たしかに私が夜中の1時すぎに作ったSNSのアカウントが表示されている。
「な、なんで……」
「企業ひみつ。ゆいちゃんは帝サマん
「うぅ……決して家の情報をもらそうとか、帝さんのことを書こうとか、そんなつもりはないんですよ……? ただ、推しの情報を見たくて~……」
4年前は、まさか帝さんの家に住ませてもらえるなんて、予想外も予想外だった。
とは言え、私は学校があるし、朝方は寝ているだろう帝さんと家のなかで顔を合わせることは、この4年間を振り返ってみても、あんまりなかったんだけど。
肩を落として廉さんを見上げると、へらりと口角を上げたまま、すげなく
「だーめ。アカウント消そうな?」
「う……はい……」
がっくり、とうつむいて、私は廉さんに連行されるまま、スタッフルームへ移動した。
「帝さんの家に住んでると言っても、立ち入り禁止の場所もあるし、私が知ってることなんて ささいなことだと思いますけど……」
ざんねんな気持ちをおさえきれないまま、私が使っているロッカーを開けて、荷物のなかからスマホを取り出す。
画面を
「私ってそんなに重要な情報を知りうる立場なんですか?」
「ん~? どう思う?」
ズボンのポケットに手を入れながら、にこりと笑う廉さんを見て、あ、と感じとる。
これは……私、また聞いちゃいけないことを聞いたのかも。
昔から踏みこんじゃいけないラインがわからなくて、よく不快に思われることを聞いちゃうんだよね……。
それで今までさんざん怒られてきたし、友だちともケンカになっちゃったから、相手の反応でやってしまったのが理解できるようになった。
「ごめんなさい……なんでもないです。えぇと、私、ナンパされるのはもう えんりょしたいですね……おしりをなで回されたんですけど、気持ちわるくて」
あやまったあとに話題を変える、これが何度もやらかしてきた私が身につけたスキル。
こうすると、それなりの
「っはは、次の話題がそれ? 相変わらずゆいちゃんにはペース
吹き出すように笑った廉さんは、そんなことを言いつつも、いつもどおりの ひょうひょうとした雰囲気をくずしていない。
「ぜんぜん そんなふうには見えませんけど……?」
「そ~? ゆいちゃんをナンパしたやつには、きつ~いオシオキをしたって話だから、安心しな」
「わぁ……えぇと、ありがとうございます?」
で、いいのかな。
きつ~いオシオキの内容を想像してしまって、ちょっとこわいんだけど。
廉さんは笑いながら「どういたしまして」とあっさり返した。
私はつられるように、へら、と愛想笑いを浮かべて、スマホのスリープを解除する。
なんの気なしにロック画面へと視線を落としたその目を、私はすぐに大きく開いた。
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