Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

3,文化祭準備

約2,100字(読了まで約6分)


 11月の2日と3日にある文化祭まで残り9日。
 昼休みを返上し、うちのクラスのメイド&執事喫茶(しつじきっさ)で使う衣装(いしょう)をぬいながら、私は(あかね)に話しかける。


「ねぇ、どうして私は(みかど)さんを落とすことを期待されてるのかな」

「んー? そりゃ、あの帝さまが女子を愛するところが見てみたいからじゃないの?」

「えぇ……? でも、帝さん本人が、私が勝つことを望んでるんだよ?」

「なにそれ。それじゃもう勝ってるようなもんじゃん」


 となりでおなじく ぬいものをしながら、茜は片方の眉をくいっと上げた。
 もう勝ってる……そうだよね、ゲームの相手が負けることを期待してたら、相手が勝ちを放棄(ほうき)しているようなもので。
 そもそも、帝さんからなにかアプローチされた覚えってないし。


「うーん……予言、かぁ」

「予言?」

「あ、や、なんでもない!」


 今年帝さんが死んじゃうって予言されてる、なんてどう考えても言っちゃいけないやつだよね……!
 私はあわてて口を閉じながら、予言とドロップハートになにか かかわりがあったりするのかなぁ?とぼんやり考える。
 でもそんなの、帝さんたちにちゃんと聞かないと答えがわからないから、けっきょく別のことを考えてため息をついた。


「はぁ、どうすれば帝さんを落とせるのかな~……」

結花(ゆいか)に期待してるって時点でもう勝ち確だと思うけど……押したおしてみた?」

「そ、そんなことできるわけないでしょっ!」


 私は()()になってすぐに茜の言葉を否定する。
 き、キスはしてみたけど。
 帝さんに慣れるためとは言え、()い寝もさせてもらったし。


「ま、うぶちゃんだからなぁ。でもほんと、がつんとした一押しがあればうまいこといくんじゃね?」

「がつんとした一押し……って、どんな?」

「それこそ押したおしてみたりとか、帝さまのピンチを助けたりとか、帝さまがいるのに他の男と浮気するって思わせたりとか」

「押したおすのはないから……っ!」


 まずはそこを却下(きゃっか)しつつ、他の案について考える。
 帝さんのピンチを助ける……か。
 帝さん、ピンチっていうくらい追い詰められたりしなさそうだけど。

 あ、でも今年死んじゃうって予言されてて、私がそれを助けられる存在なんだっけ。
 その予言って、いつ現実になるんだろう……?
 帝さんが死んじゃうかもなんてこと、ずっと起こらないほうがいいんだけど……私、今からなにか準備とかしておいたほうがいいのかな……!?


「あとは他の男の人と浮気する……って、私がそんなことして意味あるの? ただ帝さんに見捨てられそうな気がするけど」

「帝さまともなれば、なんでも手に入れられるわけじゃん? 特別あつかいして目にかけてる結花がふらつけば、ちょっとあせったり……」


 ちょっとあせったり……?と茜と目を合わせながら考えると、同時に首を振ることになった。


「なんて、ないか」

「ないない、私なんかが なにしたところで、帝さんがあせるなんて……」

「まぁそれでも気に食わなくて、もっとちゃんと手元に置いておこうとかさ。結花に目を光らせるようになるかもしれないじゃん」

「うーん……そうなのかなぁ?」


 考えながらちくちくと衣装をぬっていれば、これやって、とお願いされていたノルマが達成できた。
 よし、と仕上がりを確認したとき、タイミングよく廊下(ろうか)のほうから私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


青波(あおなみ)結花(ゆいか)ちゃん、いる?」

「はい?」


 振り向くと、明るめの髪色にばっちりメイクをした、華やかな3年生っぽい人が扉の前に立っていた。
 見覚えはない人だけど、なんだろう?
 私は使ったはりをはり山に()してから、衣装をつくえに置いて早足で廊下に向かう。


「私が青波ですが……なんでしょうか?」

「あぁ、よかった。うちのクラス文化祭でミニカジノやるんだけどさ、今まで晴琉(はる)からアドバイスもらってたの」

「は、はあ」


 文化祭で、ミニカジノ……なんというか、すごいなぁ。


「でもゲームの実践(じっせん)とか、進行のしかたとか、教室の内装とか? 晴琉が結花って子もいたほうが たよりになるって言うからさ」

「あぁ、なるほど……」

「ちょっとうちのクラス手伝いにきてくれない?」

「わかりました。ちょっと片付けだけしてくるので、すこしだけ待っていただいていてもいいですか?」

「うん」


 先輩にことわりを入れてから、私はいったん席にもどって、使ったものを片付ける。


「先輩から呼び出し?」

「うん、文化祭でミニカジノやるから、ちょっと手伝ってほしいって。行ってくるね」

「あぁ。がんば~」

「ありがと」


 茜にもあいさつしてから、私は先輩と、階上にある3年生の教室に向かった。
 そこには私を指名した晴琉くんも、とうぜんのようにいて。
「連れてきたよ~」と先輩が教室に入ると、晴琉くんと、周りにいた3年生の先輩方が私を見る。


「結花さん、こんにちは」

「こんにちは、晴琉くん。えぇと、私は なにをすれば……?」

「へぇ~、この子が中学のときからカジノで はたらいてるっていう? 実物初めて近くで見た」

「なんかカワイイよね~」


 わいわいと話す先輩方にちょっと圧倒(あっとう)されそう。
 すこしのあいだ、愛想笑いを浮かべて見世物(みせもの)になってから、私は晴琉くんにミニカジノの話を聞いた。


ありがとうございます💕

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