Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
2,歌姫がついたうそ
いつもどおり気だるげな、
おどろいた顔で振り返る歌姫さんのさらにうしろには、
「し、支配人……!」
「帝、さん……」
「仕事を放り出してなにをしているかと思えば。
「っ……も、もうしわけありません。この子が支配人と一緒に暮らしていると聞いたもので、すこし
歌姫さんはすぐに反省した顔になったけど、最後に はかなく笑った。
思わずなんでも許してしまいそうになるその顔を見ても、帝さんは無表情のまま。
それでも、帝さんは歌姫さんと、特別な関係なんだよね……?
「今すぐ仕事にもどれ」
「……はい。失礼いたしました」
歌姫さんは胸に手を当てて頭を下げる。
ちらりと私を見て にらんだあと、歌姫さんは帝さんに
帝さんはすれちがう歌姫さんを見ることもなく、私に近づく。
さっきの話を聞いたあとだと、帝さんの顔を見ているだけでも胸がずきずきして、へにょ、と顔がゆがんでしまうのを止められなかった。
「……あの女から、なにを言われた?」
「んぇ……そのぉ……」
歌姫さんが帝さんと特別な関係だって聞いた、なんて本人を前にして言えないし。
視線を落として口をつぐむと、帝さんは「待て」と言った。
「
「へ……っ?」
「……えっ? そんな、支配人、どうしてですか!?」
帝さん、急になにを。
びっくりして顔を上げると、玄関ホールにもどるところだった歌姫さんも、あせった顔で引き返してくる。
「おまえが結花に言ったこと。それがすべてだ」
「っ……あ、あれは、つい言ってしまっただけなんです! 支配人がその子を特別あつかい しているように見えて、嫉妬してしまって……」
「……ここに残しておけば、おまえは またくり返すだろう」
「もう、もう二度と支配人と寝たなんて うそはつきません! ですからお願いします、ここで歌わせてください!」
振り向いて冷たい目を向ける帝さんに、歌姫さんは必死なようすで頭を下げた。
“支配人と寝たなんて うそ”……?と、歌姫さんの言葉に ぱちりとまばたきをすると、帝さんは目を細めて歌姫さんを見てから、私に視線をもどす。
「結花、あの女を
「え……?」
大きく目を開いた私に背中を向けて、帝さんは歌姫さんに近づく。
「もうしわけありません! もうしわけありません!」
「契約は終わりだ。そののどを つぶされたくなかったら、大人しく帰れ」
「……!!」
「1秒でもこの場に残れば……」
「っ、失礼いたしました!」
歌姫さんは ふるえた声でさけぶと、従業員用通路の向こうへ、ドレスのすそをつかんで走っていった。
帝さんはその姿をながめて、玄関ホールへもどっていく。
1人、ぽつんとこの場に残された私は、めまぐるしく起こったことを必死に整理しようと、自分のほおに触れた。
「えぇと、歌姫さんが言ったことは、うそ……?」
帝さん、歌姫さんとそういう関係になったことはないの……?
「よ、おつかれ~、ゆいちゃん」
「わっ。び、びっくりした、
ぽん、ととつぜん肩をたたかれて、私は はね上がりながら振り返る。
いつのまにかうしろに立っていたのは、へらりと笑う廉さんだった。
「あの女がゆいちゃんを追って、カジノフロアを抜け出すのが見えたからさ。すぐ帝サマにご報告したわけよ。無事解決したようで なにより」
「え……あ、ありがとうございます」
帝さんが来たのは、廉さんが呼んでくれたからだったんだ……。
「しっかし、今日は
「は、はい……ちょっと混乱してますけど」
「ん~? どうした?」
廉さんってやっぱり、セキュリティールームからぜんぶ見てるんだなぁ、と思いつつ。
ゆるく笑って聞いてくれた廉さんに、私は前のめりで確認した。
「あ、あの、帝さんってほんとに、歌姫さんと、そのぉ……特別な関係になったこと、ないんでしょうか?」
「帝サマが、あの女と? ないない、絶対ない。なに、あの女に吹きこまれたん?」
「吹きこまれたというか、帝さんと寝た歌姫さんのほうが特別だって……」
しょも、と眉を下げてもやもやを吐き出すと、廉さんは私の頭をぽんぽんとなでる。
「けん制してやろうっていう わるあがきだな。帝サマの特別になりうるのは、ゆいちゃんだけだよ。だれになに言われたって気にすんな」
「私、だけ……」
廉さんにそう言われて、なぜかうれしくなってしまっている私がいる。
でも、“特別”って、たぶん……。
「私が……帝さんの命を救う存在だから、ですよね?」
「……へぇ、帝サマがそこまで話したのか。いい調子だ、そのまま帝サマを落としちまいな」
「んぇ……廉さんも、私が勝つことを望んでるんですか? なんで……」
帝さんも廉さんも、私に勝とうって思ってないんだろう?
これじゃあゲームになってないような。
うーん?と首をかしげると、廉さんは笑ってすこしかがみ、私の頭をゆっくりなでながら目を合わせた。
「愛の魔法で死が遠ざかるんだ。俺も帝サマが死ぬことは望んでないから、がんばってくれ、ゆいちゃん」
「愛の、魔法……?」
とつぜん、おとぎ話みたいなワードが。
私はあくまで、帝さんの命を救うだけの存在のはずなのに……。
どうして帝さんも廉さんも、私が帝さんを落とすことを望んでるんだろう?
(※無断転載禁止)