Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第3章 予言が引き寄せた恋
1,歌姫の忠告
「
いつもどおり
逆回転する球はホイールの外側を走って、たまに
なんだか、ぐっと
体が丈夫なのか、体調不良を数日隠していたのか、帝さんは今日から仕事に
「
日々ルーレットの挙動を見てきた経験からの
テーブルをかこむお客さまの向こう側に、カジノフロアを巡回する帝さんが見えると、自然とほおがゆるむ。
見回りのために、
ルーレットに視線を落とすと、すでにホイールの内側に転がりこんだ球が、何度かマスのなかに入るそぶりを見せている。
今回はどこに落ちるのかな、とのんびりながめていると、白い球は黒くぬりつぶされたマスにからんとおさまった。
「っ、また外れだ! おいおまえ、イカサマしてるだろ! 俺が賭けた場所からわざと外してるんだ! じゃなきゃこんなに負け続けるはずがない!」
「んぇ……お客さま、お気持ちはお察しいたします。ですが、当カジノがゲームに手を加えることは一切ございません」
テーブルについたお客さまの1人が急に立ち上がって、私を
「うるさい! 金をすったのはおまえのせいだ!」
「わ、ぼ、暴力はごえんりょください~……!」
お客さまは私に近づいて、胸ぐらをつかんでくる。
ひぇ、だれか助けてぇ、と泣きたい気持ちで目をつぶると、「おい」と気だるげな声が聞こえて、胸元をつかまれる感覚がなくなった。
「なんだっ、……あ……」
「うちの従業員に手を出すな。おまえは今後出禁だ」
「お引き取り願います、お客さま」
ぱちっと目を開けると、帝さんがお客さまの腕をつかんで、冷たい目を向けている。
そばにいたカジノマネージャーが、きびしい顔で店から出ていくようにうながすと、お客さまは苦虫をかみつぶしたような顔で「くそっ」とつぶやいた。
帝さんが手を離せば、お客さまはカジノマネージャーに監視されて出口に向かっていく。
「……大丈夫か」
「はい。ありがとうございます、帝さ……あぁえ~っと、支配人」
お客さまの前だから、あわてて呼び方を変えると、帝さんは無言で私に手を伸ばした。
うん?と首元にせまる手を見ていたら、
「ありがとうございます」
はにかんで笑うと、帝さんはうなずいて私から離れていった。
さっそうと助けに来てくれて、すぐお客さまを大人しくさせちゃうなんて、さすが帝さん、かっこいいなぁ。
ゆるむほおを接客用に引きしめて、私は「失礼いたしました」と他のお客さまに声かけし、テーブルにもどった。
****
ひと
「はい……? あ」
「あなた、支配人と一緒に暮らしてるそうじゃない?」
ぶすっと、あきらかに ふきげんな顔で私にそう言ったのは、ついさっきまでカジノフロアにいたはずの歌姫さんだった。
右サイドの高いところでお団子を作り、ゆるく巻いたダークブラウンの髪を下ろしている歌姫さんは、赤い瞳で私をにらんでいる。
「は、はあ……あのぉ、それがなにか……?」
「さっきも助けてもらったからって……自分だけ特別だなんて思わないことね。私は支配人と寝たこともあるんだから」
「え……」
寝た。寝た、とは。
え、帝さん、私以外の人と一緒に寝たことがあるの……?とすこしショックを受けたのは、まだ
「ベッドで支配人がどれだけ情熱的になるか知ってる? あなたみたいなお子さまじゃ想像もつかないかしら」
くす、と目を細めて笑う歌姫さんがなにを言っているのか、さすがにそこまで言葉にされたらわかる。
だから、私は数秒前のショックとは くらべものにならないくらい、ずんっと心に重い
帝さんと、そんな特別な関係になった人が目の前にいる。
「支配人に特別あつかいされて思い上がってるなら、今すぐ自分を見つめ返しなさい。私とあなた、どちらが支配人にとって特別か……わかるでしょう?」
「……」
特別、だと、思ってたわけじゃないはずなのに……。
歌姫さんにそう言われて、胸がずきずき痛くなった。
「私なら、今すぐに自分から身を引くけれど。あなたがみっともなく支配人にすがりつくかどうかは、まぁ、あなたの自由よね」
くすくすと笑う声が耳に残る。
なんだか、泣きそう、かも。
「
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