Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第3章 予言が引き寄せた恋

1,歌姫の忠告(ちゅうこく)

約2,100字(読了まで約6分)



Spinning(スピニング) up(アップ)


 いつもどおり宣言(せんげん)してから、反時計回りに回転するホイールに球を投げ入れる。
 逆回転する球はホイールの外側を走って、たまに突起(とっき)にぶつかり、不規則(ふきそく)にはねた。

 なんだか、ぐっと(みかど)さんに近づけた気がするあの日から2日。
 体が丈夫なのか、体調不良を数日隠していたのか、帝さんは今日から仕事に復帰(ふっき)している。


No(ノー) more(モア) bet(ベット). チップを置くのをやめてください。これ以降、チップにお手を触れないようお願いいたします」


 日々ルーレットの挙動を見てきた経験からの(かん)で、そろそろ球が落ちそうだと思った私は、()けを終了させて、お客さまを監視(かんし)した。
 テーブルをかこむお客さまの向こう側に、カジノフロアを巡回する帝さんが見えると、自然とほおがゆるむ。
 見回りのために、方々(ほうぼう)に視線を向けている帝さんがこちらを見たのに気づいて、にこっと笑った。

 ルーレットに視線を落とすと、すでにホイールの内側に転がりこんだ球が、何度かマスのなかに入るそぶりを見せている。
 今回はどこに落ちるのかな、とのんびりながめていると、白い球は黒くぬりつぶされたマスにからんとおさまった。


「っ、また外れだ! おいおまえ、イカサマしてるだろ! 俺が賭けた場所からわざと外してるんだ! じゃなきゃこんなに負け続けるはずがない!」

「んぇ……お客さま、お気持ちはお察しいたします。ですが、当カジノがゲームに手を加えることは一切ございません」


 テーブルについたお客さまの1人が急に立ち上がって、私を怒鳴(どな)りつけてきたことに びっくりする。
 (くに)家の人が支配人をしている、という事実がお客さまの素行にすくなからず影響をあたえているはずだけど、たまにこういう人もいるのが黒街(くろまち)だ。


「うるさい! 金をすったのはおまえのせいだ!」

「わ、ぼ、暴力はごえんりょください~……!」


 お客さまは私に近づいて、胸ぐらをつかんでくる。
 ひぇ、だれか助けてぇ、と泣きたい気持ちで目をつぶると、「おい」と気だるげな声が聞こえて、胸元をつかまれる感覚がなくなった。


「なんだっ、……あ……」

「うちの従業員に手を出すな。おまえは今後出禁だ」

「お引き取り願います、お客さま」


 ぱちっと目を開けると、帝さんがお客さまの腕をつかんで、冷たい目を向けている。
 そばにいたカジノマネージャーが、きびしい顔で店から出ていくようにうながすと、お客さまは苦虫をかみつぶしたような顔で「くそっ」とつぶやいた。
 帝さんが手を離せば、お客さまはカジノマネージャーに監視されて出口に向かっていく。


「……大丈夫か」

「はい。ありがとうございます、帝さ……あぁえ~っと、支配人」


 お客さまの前だから、あわてて呼び方を変えると、帝さんは無言で私に手を伸ばした。
 うん?と首元にせまる手を見ていたら、(ちょう)ネクタイの位置が直される。


「ありがとうございます」


 はにかんで笑うと、帝さんはうなずいて私から離れていった。
 さっそうと助けに来てくれて、すぐお客さまを大人しくさせちゃうなんて、さすが帝さん、かっこいいなぁ。
 ゆるむほおを接客用に引きしめて、私は「失礼いたしました」と他のお客さまに声かけし、テーブルにもどった。


****

 ひと騒動(そうどう)があった前半の仕事を終えて、従業員用通路にもどってくると、うしろから「ねぇ」と通る女性の声が聞こえる。


「はい……? あ」

「あなた、支配人と一緒に暮らしてるそうじゃない?」


 ぶすっと、あきらかに ふきげんな顔で私にそう言ったのは、ついさっきまでカジノフロアにいたはずの歌姫さんだった。
 右サイドの高いところでお団子を作り、ゆるく巻いたダークブラウンの髪を下ろしている歌姫さんは、赤い瞳で私をにらんでいる。


「は、はあ……あのぉ、それがなにか……?」

「さっきも助けてもらったからって……自分だけ特別だなんて思わないことね。私は支配人と寝たこともあるんだから」

「え……」


 寝た。寝た、とは。
 え、帝さん、私以外の人と一緒に寝たことがあるの……?とすこしショックを受けたのは、まだ(じょ)の口だった。


「ベッドで支配人がどれだけ情熱的になるか知ってる? あなたみたいなお子さまじゃ想像もつかないかしら」


 くす、と目を細めて笑う歌姫さんがなにを言っているのか、さすがにそこまで言葉にされたらわかる。
 だから、私は数秒前のショックとは くらべものにならないくらい、ずんっと心に重い衝撃(しょうげき)を受けた。
 帝さんと、そんな特別な関係になった人が目の前にいる。


「支配人に特別あつかいされて思い上がってるなら、今すぐ自分を見つめ返しなさい。私とあなた、どちらが支配人にとって特別か……わかるでしょう?」

「……」


 特別、だと、思ってたわけじゃないはずなのに……。
 歌姫さんにそう言われて、胸がずきずき痛くなった。


「私なら、今すぐに自分から身を引くけれど。あなたがみっともなく支配人にすがりつくかどうかは、まぁ、あなたの自由よね」


 くすくすと笑う声が耳に残る。
 なんだか、泣きそう、かも。


結花(ゆいか)が俺にすがりついたとして……俺がどうするか、おまえにはわかるとでも言いたげだな」




ありがとうございます💕

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