Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
13,好奇心の質問
もぐもぐと、大人しく私の手からおかゆを食べている
もしかして私、無自覚にハードルが高いことをしているのでは。
「ふー、ふー……」
次の一口をすくって、熱を冷ましてから帝さんの口元へ運ぶと、おかゆは帝さんの口内へおさまった。
たまに「どうぞ」と言うくらいで、しずかな空間で帝さんのお食事を手伝っているうちに、帝さんはおかゆを完食する。
「けほっ……」
レンゲを土鍋のなかに入れてふたを閉めていると、となりからセキが聞こえて視線を向けた。
あれ……帝さん、なんだかさっきより顔が赤みをおびてる?
セキもしてるし、もしかして熱が上がったのかな?
「帝さん、ちょっと失礼しますね」
「……」
ことわりを入れて、長い前髪の下に手を差しこむと、思ったほどの高熱は伝わってこない。
最初のインパクトが強すぎたせいかもしれないけど、むしろ最初より熱はやわらいでるような……?
うーん……もしかして、具合がわるいのをがまんしなくなったから、ちゃんと体調不良が表面的に見えるようになってきたのかな?
「……マスク、しておけ」
「あ、はい」
けほ、とまた小さくセキこんだ帝さんを横目に、トレーに置きっぱなしだったマスクを顔につけた。
帝さんが がまんするのをやめてくれたなら、いい調子だ。
「帝さん、なにか してほしいことはありませんか?」
「ない」
他にもなにか できることはないかと、口角を上げて聞くと、あっさり振られる。
でも、帝さんは自主的に体を横たえて、ふとんのなかにもどった。
私はタオルを新しい氷水につけて、水分をしぼりとってから帝さんのおでこに乗せる。
「それじゃあ、帝さんがお話してくれたみたいに、私も帝さんとお話していいですか?」
「……あぁ」
帝さんの
「帝さんの好きなこととか、
「……」
思いつくまま口に出すと、帝さんは無言で私を見つめる。
は、またやってしまった!?と、あわててあやまろうとしたとき、帝さんは視線を
「好ききらいは特にない……廉は俺の部下だ。
「はあ、部下……」
「Gold Nightの支配人になったのは、当主に命じられたからだ」
カジノの従業員ともちがう、個人の部下を持っているあたり、
それに、帝さんに命令した“当主”って、國家のご当主さまのことだよね?
「子どものころから部下がいて、高校生なのにご当主さまからGold Nightの支配人を任されるなんて……帝さんって、やっぱりすごいですね」
「……満足したか?」
「あ、帝さんが子どものころ のことも聞きたいです。帝さんはどんな子だったんですか?」
横目に見て聞かれたから、好奇心のままに尋ねれば、帝さんは伏し目がちに口を開いた。
「今と、そう変わらない。だが……昔はまだ、世のなかがこんなに退屈なものだと知らなかった」
「え、退屈……?」
そうかな? いろんな
帝さんには、私とは ぜんぜんちがう ふうに見えてるのかなぁ。
なにせ國家の人だし、なんでもそつなくこなせるし。
でも……高校生のときからカジノの支配人なんてやってても、帝さんは、世のなかを退屈に感じてるの?
それって……すごく生きづらそう。
帝さんがいつも気だるげな
眉を下げて見つめると、帝さんは私と目を合わせて、ぽつりとこぼした。
「死ぬ運命だろうと、興味はない。ただ……
「私が、刺激を?」
ぱちぱちと まばたきをすると、帝さんはふとんから手を出して、私のほおに触れる。
「俺に勝て。退屈以外のものを……――」
ほおから伝わる熱にどきどきしながら、帝さんの視線を
“俺に勝て”って、ドロップハートで、ってこと……だよね?
帝さんは、私が勝つことを望んでるの?
「けほっ……もう、遅いな。部屋にもどれ」
帝さんはセキをしたあと、するりと手を引いて、どこかに視線を向けながらそんなことを言う。
その視線の先をたどれば、壁にかけられた時計があった。
たしかに、もう遅い時間だけど……。
「心配だから、そばにいたいです。今日は帝さんのお部屋で寝てもいいですか?」
「……ぶり返すぞ」
「マスクは外しません!」
意気ごむように両手をにぎると、帝さんは、じっと私を見つめたあとにため息をこぼす。
それから、かけぶとんをめくった。
「帝さん……?」
「ここで寝るんだろ」
「えっ!?」
み、み、帝さんのベッドで!?
私はぶわっと赤面して、あわてて
「そ、そんな! 私、床で寝ますから! それか ソファーをお借りして!」
「病み上がりの人間を、そこらの場所で寝かせておけるか……」
「うぅ……」
なにも言い返せない。
でも、帝さんのベッドで一緒に寝るなんて~……っ。
私は顔の熱を感じながら、せいだいに目を泳がせた。
「……俺がチェッカーを外してるあいだに、俺に慣れておけ」
「!」
帝さんのその言葉に、たしかに、と納得して、ベッドを見る。
今のうちに、帝さんにくっついておけば、これからちょっとしたことで どきどきすることがなくなるかも……!?
名案すぎる
さっそくベッドに入ると、帝さんは私に背中を向けるように体勢を変える。
このままとなりにいるだけでも どきどきはするけど、せっかくならもっと耐性をつけるために、と私は思い切って帝さんの背中に抱きついた。
「……」
「つ、つらくて目が覚めたら、えんりょなく私を起こしてくださいね……!」
自分でやっておいて、これ、心臓が口から飛び出そうなくらいどきどきする……!
私は「あぁ」という帝さんの返事を聞いて目をつぶり、眠れそうにないほど ばくばくとさわぐ
(※無断転載禁止)