Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
12,帝 の看病
ベッドわきでひざ立ちして、私は横になった
「つらいときは、がまんしちゃだめですよ」
「……弱みは見せるものじゃない」
帝さんは私を横目に見て、ため息混じりに目を伏せながら言った。
……いや、
「管理する立場の人も、大変ですね……でも、私は帝さんがどんなに弱っていても、わるいことなんてしませんから!」
「……」
帝さんは、すっと目を開けて私を見る。
私は安心してもらうために、帝さんに笑顔を向けた。
「私なんかにって思われるかもしれませんけど、帝さんが弱っているときは、私が守ります。私、帝さんの命を救う存在なんですよね。大丈夫ですから」
「……たよりないな」
帝さんは すこしだけほほえんで、目を閉じる。
ばくっと心臓がはねて、フリーズしながら、帝さんが今チェッカーをつけてなくてよかった……!と私は心の底から思った。
氷水が入ったおけと、たたまれた
「帝さん、サイドテーブルに氷水とタオルが置いてあるんですが、使っても大丈夫ですか?」
「あぁ」
部屋の主の許可をもらって、タオルを氷水に沈め、じゃぼじゃぼじゃぼ、とおけの上でしぼった。
ひたいに乗るサイズにたたみなおしてから、「おでこ、冷やしますね」と声をかけて目を閉じている帝さんのひたいに ぬれタオルを置く。
ついでに、ほおに触れて体温をチェックしなおすと、やっぱり38℃は超えてそうなくらいの熱を感じて眉を下げた。
「さむくないですか? 上にもっとなにかかけます?」
「いや」
小さく答えた帝さんを心配に思いながら、私にできることは、と考えて、ふとんの下に手をもぐりこませる。
探り当てた帝さんの手をにぎると、帝さんが目を開けて私を見た。
「なんだ?」
「風邪をひいたときってしんどいし、なんだかさみしくなるので……」
帝さんには必要ないかな?と思ったけど、帝さんはことわるわけでも、振り払うわけでもなく、そのまま目を閉じたので、ぎゅっと手をつないでおく。
「なにかしてほしいことがあったら言ってくださいね。おやすみなさい」
「あぁ」
そっと声をかけて、私はベッドの横に座りながら、帝さんが眠る様子を見守った。
****
しゃべらず動かず、たぶん寝ている帝さんをながめて、たまにタオルを冷やしなおしたりしていると、ひかえめなノックの音が聞こえてくる。
使用人さんかな?と思って、帝さんの手を離し、しずかに
廊下に2人、それぞれのものを手に持って。
「お飲み物とお食事をお持ちいたしました。それからお
「ありがとうございます」
「氷水もお取り替えいたします」
「はい、よろしくお願いします」
スポーツドリンクが入ったペットボトルと、グラス、小さな土鍋に、白いマスクが乗ったトレーを片方の使用人さんから受け取って、部屋のなかにもどる。
新しい氷水が入ったおけを持ったもう1人の使用人さんと一緒にベッドわきへ行くと、帝さんが体を起こしていた。
「あ、おはようございます、帝さん。すみません、起こしちゃいましたか?」
「いや」
「失礼いたします」
使用人さんがサイドテーブルに乗ったおけを取り替えたあと、私はトレーを残りのスペースに置いて、グラスにスポーツドリンクをそそぐ。
しずかに部屋の扉が閉められた音を聞きながら、帝さんへとグラスを差し出した。
「よかったらどうぞ」
「あぁ」
グラスを受け取った帝さんは、こく、こく、とスポーツドリンクを飲む。
帰ってきたときと、顔色は変わってない……かな?
でも帝さん、見た目じゃ具合がわからないからなぁ……。
「お
「……すこし」
「じゃあ、食べれるように用意しますね」
にっこり笑って、帝さんから空になったグラスを受け取り、代わりに土鍋を開けて
ふー、ふー、と息を吹きかけて冷ましてから、レンゲの下に手をそえて、帝さんに「はい」と差し出す。
帝さんは、じっとレンゲを見つめて、無言で私のことも見つめた。
「えぇと……サイドテーブルに置いてあるのを食べるのは、体勢的にちょっと大変かな、と思いまして……」
「……」
た、たしかに、帝さんに“あーん”とか失礼だったかな……!?
私があせり始めたとき、帝さんはしずかに口を開いて、受け入れ態勢になる。
私は、はっ!!とすぐに帝さんのお口にレンゲを近づけて、ぱくりとおかゆを食べてもらった。
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