Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第2章 ドロップハートの攻防戦(こうぼうせん)

12,(みかど)看病(かんびょう)

約2,100字(読了まで約6分)


 ベッドわきでひざ立ちして、私は横になった(みかど)さんの顔をのぞきこむ。


「つらいときは、がまんしちゃだめですよ」

「……弱みは見せるものじゃない」


 帝さんは私を横目に見て、ため息混じりに目を伏せながら言った。
 風邪(かぜ)をひくことが弱みになるなんて、そんなことないのに……。
 ……いや、(くに)家の人だから、体調不良も周りに見せちゃいけないとか、あるのかな?

 黒街(くろまち)の人なら、國家の人が具合をわるくしてるところに つけこんで悪事を……とか、やりかねないかも。


「管理する立場の人も、大変ですね……でも、私は帝さんがどんなに弱っていても、わるいことなんてしませんから!」

「……」


 帝さんは、すっと目を開けて私を見る。
 私は安心してもらうために、帝さんに笑顔を向けた。


「私なんかにって思われるかもしれませんけど、帝さんが弱っているときは、私が守ります。私、帝さんの命を救う存在なんですよね。大丈夫ですから」

「……たよりないな」


 帝さんは すこしだけほほえんで、目を閉じる。
 ばくっと心臓がはねて、フリーズしながら、帝さんが今チェッカーをつけてなくてよかった……!と私は心の底から思った。
 鼓動(こどう)を落ちつかせるのと、帝さんに快適(かいてき)に寝てもらうための環境(かんきょう)づくりに使えそうなものを探してあたりを見回すと、サイドテーブルにあるものを見つける。

 氷水が入ったおけと、たたまれた清潔(せいけつ)そうなタオル。これは使用人さんが用意しておいてくれたものなのかな……?


「帝さん、サイドテーブルに氷水とタオルが置いてあるんですが、使っても大丈夫ですか?」

「あぁ」


 部屋の主の許可をもらって、タオルを氷水に沈め、じゃぼじゃぼじゃぼ、とおけの上でしぼった。
 ひたいに乗るサイズにたたみなおしてから、「おでこ、冷やしますね」と声をかけて目を閉じている帝さんのひたいに ぬれタオルを置く。
 ついでに、ほおに触れて体温をチェックしなおすと、やっぱり38℃は超えてそうなくらいの熱を感じて眉を下げた。


「さむくないですか? 上にもっとなにかかけます?」

「いや」


 小さく答えた帝さんを心配に思いながら、私にできることは、と考えて、ふとんの下に手をもぐりこませる。
 探り当てた帝さんの手をにぎると、帝さんが目を開けて私を見た。


「なんだ?」

「風邪をひいたときってしんどいし、なんだかさみしくなるので……」


 帝さんには必要ないかな?と思ったけど、帝さんはことわるわけでも、振り払うわけでもなく、そのまま目を閉じたので、ぎゅっと手をつないでおく。


「なにかしてほしいことがあったら言ってくださいね。おやすみなさい」

「あぁ」


 そっと声をかけて、私はベッドの横に座りながら、帝さんが眠る様子を見守った。


****

 しゃべらず動かず、たぶん寝ている帝さんをながめて、たまにタオルを冷やしなおしたりしていると、ひかえめなノックの音が聞こえてくる。
 使用人さんかな?と思って、帝さんの手を離し、しずかに廊下(ろうか)へ続く扉を開けに行くと、やっぱり使用人さんが立っていた。
 廊下に2人、それぞれのものを手に持って。


「お飲み物とお食事をお持ちいたしました。それからお(じょう)さまに、マスクもご用意しております」

「ありがとうございます」

「氷水もお取り替えいたします」

「はい、よろしくお願いします」


 スポーツドリンクが入ったペットボトルと、グラス、小さな土鍋に、白いマスクが乗ったトレーを片方の使用人さんから受け取って、部屋のなかにもどる。
 新しい氷水が入ったおけを持ったもう1人の使用人さんと一緒にベッドわきへ行くと、帝さんが体を起こしていた。


「あ、おはようございます、帝さん。すみません、起こしちゃいましたか?」

「いや」

「失礼いたします」


 使用人さんがサイドテーブルに乗ったおけを取り替えたあと、私はトレーを残りのスペースに置いて、グラスにスポーツドリンクをそそぐ。
 しずかに部屋の扉が閉められた音を聞きながら、帝さんへとグラスを差し出した。


「よかったらどうぞ」

「あぁ」


 グラスを受け取った帝さんは、こく、こく、とスポーツドリンクを飲む。
 帰ってきたときと、顔色は変わってない……かな?
 でも帝さん、見た目じゃ具合がわからないからなぁ……。


「お(なか)、すいてますか? ごはんも持ってきてもらえましたよ」

「……すこし」

「じゃあ、食べれるように用意しますね」


 にっこり笑って、帝さんから空になったグラスを受け取り、代わりに土鍋を開けて湯気(ゆげ)が立っているおかゆをレンゲで すくいとった。
 ふー、ふー、と息を吹きかけて冷ましてから、レンゲの下に手をそえて、帝さんに「はい」と差し出す。
 帝さんは、じっとレンゲを見つめて、無言で私のことも見つめた。


「えぇと……サイドテーブルに置いてあるのを食べるのは、体勢的にちょっと大変かな、と思いまして……」

「……」


 た、たしかに、帝さんに“あーん”とか失礼だったかな……!?
 私があせり始めたとき、帝さんはしずかに口を開いて、受け入れ態勢になる。
 私は、はっ!!とすぐに帝さんのお口にレンゲを近づけて、ぱくりとおかゆを食べてもらった。


ありがとうございます💕

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