Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
11,いつもどおりの帝
従業員用通路を通って支配人ルームまで来ると、私はコンコンコン、と扉をノックして「おつかれさまです、
「はいはい、どうぞ~」
「あれ……?」
扉の向こうから返ってきたのは、どう考えても
というか、
私は首をかしげつつ、「失礼します」と支配人ルームの扉を開けて、なかに入った。
そこにいたのは、やっぱり廉さんと、この部屋の主である帝さんの2人で。
「ゆいちゃん、
「え? 早退、ですか?」
帝さんを連れて?
ぱちぱちとまばたきをしながら、「ほら、観念してチェッカー外してくださいよ」と帝さんに話しかける廉さんを見る。
帝さんは廉さんを横目に見てから、スーツをすこしまくってチェッカーを外した。
廉さんは帝さんからチェッカーを受け取ると、私のほうへ歩いてきて、帝さんのチェッカーを差し出す。
「帝サマ、ゆいちゃんの
「み、み、帝さんが風邪を!?」
思わず廉さんのうしろにいる帝さんを見たけど、顔色から表情から立ち姿からなにまで、いつもどおりの帝さんに見えて、風邪……?と首をかしげた。
「そう、気づくの遅れたけど、だいぶ熱出てるからゆいちゃんに
「は、はあ……わかりました」
ひとまず帝さんのチェッカーを受け取ると、廉さんは「先に帝サマ車に乗せとくから、ゆいちゃんは着替えてから来てくれ」とゆるく笑う。
もう一度帝さんに視線を向けても、やっぱりいつもどおりにしか見えなくて、うーん?と思いながら、私はうなずいた。
****
廉さんが呼んだらしく、いつもよりうんと早い時間に
看病をお願いされた身として、いつもと変わりなく歩く帝さんのとなりを歩き、帝さんの部屋までつきそったはいいものの。
帝さんはモノクロカラーの部屋に入るなり、気だるげに言う。
「仕事をする。
「んぇ……でも、廉さんが……」
「わざわざ休まなくても仕事に
“わざわざ休まなくても”、“支障はない”……っていうことは、やっぱり体調をくずしてるってことだよね?
「……帝さん、失礼します」
私はすこし考えてから、帝さんの前に回りこんで、前髪の下に手を差しこんだ。
すると、手のひらに人の体温をはるかに上回った熱を感じて、目を見開く。
「な、なんでこんなに熱があるのに平然としてるんですか!?」
「……」
顔色までいつもどおりって、どんな魔法を使ってるの!?
これはたしかに早退案件だし、看病も必要だよ!!
私はあわてて帝さんの腕をつかみ、部屋の右側にあった黒いベッドへと、帝さんを引っぱっていった。
「こんなに熱があるのに仕事なんてしちゃだめです! 大人しくしててください!」
「これくらい……」
帝さんをベッドに座らせて、スーツのボタンを外しながらお説教をすると、当の本人はため息をつく。
でも、私の手にかかったその
Yシャツのボタンにも手をかけて、1つ、2つ、3つ……と外してから、
「ご、ごめんなさいっ! えぇと、1人で着替えられますか? 使用人さんを呼んできましょうか?」
「……いい。そこのクローゼットに服があるから、適当に取ってくれ」
「わ、わかりました!」
顔をそむけていても、帝さんが自分でスーツを
失礼します、と心のなかでことわりを入れながらクローゼットを開けて、えぇと、と
あちこち かきわけてグレーのスウェットを見つけたから、上下がそろっていることを確認して帝さんのもとまで運んだ。
「はっ……き、着替え、持ってきました……」
「……あぁ」
帝さんがなにをしているか うっかり忘れて、肌色面積が多い姿を目撃してしまい、ぎゅいんと顔をそむけながらスウェットを差し出す。
すこしして、私の手からスウェットが離れていったのを感じとり、帝さんに背中を向けて立った。
両手で顔をおおいながら、
おそるおそる振り返ると、帝さんはスウェット姿でベッドわきに立っていた。
こんなラフな
「さぁ、帝さん、早く横になってください」
「……仕事、」
「だめです! 具合がわるいときは休まないと。ゆっくり寝て、体を治してください」
かけ布団をめくってすぐベッドに入れるようにしてから、私は眉を下げて帝さんに笑いかける。
帝さんはしばらく無言で私を見つめていたけど、観念するようにため息をついてベッドに入った。
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