Gold(ゴールド) Night(ナイト) ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―

第2章 ドロップハートの攻防戦(こうぼうせん)

10,結花(ゆいか)を家に住ませた理由

約2,100字(読了まで約6分)


 そういえば……私も(みかど)さんに聞きたいことがあるなぁ。
 そう思いついて、私は帝さんに顔を向け、口を開いた。


「帝さん、どうして私を家に住まわせたのか、もう一度聞いてもいいですか? 前は“気まぐれだ”って言ってましたけど、けほっ……」


 んん、とすこしのどを ととのえてから、無表情の帝さんに視線をもどして、言葉を続ける。


「やさしさからだとしても、帝さんは なんの計算もなしに、無償(むしょう)のほどこしを長年継続する人じゃない気がして……」


 帝さんがやさしいのは知ってる。
 でも、支配人として はたらいてるところをそばで見ていると、損得勘定(かんじょう)もあたりまえのようにできる人だって感じるから。
 ただのやさしさで4年も私を家に住まわせて、自分のカジノで はたらかせて、なんて、帝さんから感じる印象とは ちょっとちがう気がするんだ。


「私に なにか求められていることがあるなら、帝さんへの恩返(おんがえ)しに、きちんとやるつもりです」


 勝負の再挑戦を、ドロップハート限定で認めてくれたことも。
 勝者は、敗者になんでもひとつ言うことを聞かせられる、っていうドロップハートのルールで、私に なにかさせたいことがあるのかなって。
 帝さん側のメリットを考えて、思いついた可能性なんだけど。

 頭が痛くて、ぼーっと帝さんを見つめると、帝さんも無言で私を見つめ返した。
 すこし遅れて、あ、聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな、と気づいて「ごめんなさい」と口にする。


「またぶしつけな質問を……気をつけてはいるんですけど、聞いちゃだめなラインっていうのがわからなくて……もう聞きませんから」


 帝さん、怒らないでくれたらいいなぁ……。
 帝さんにきらわれるのは、ちょっとやだ。
 そのためにも、なにか別の話題を……と考え始めたところで、帝さんが「いや」と答えた。


「答えるかどうかは俺が決める。結花(ゆいか)は好きに聞けばいい」

「え……」


 “好きに聞けばいい”なんて言われたのは初めてで、びっくりしながら帝さんの顔を見つめる。
 帝さんは視線をそらして、気だるげに口を開いた。


「5年前に、(うらな)い師から俺が今年死ぬと予言された」

「んぇ……っ!?」


 え、占い師? 予言? 帝さんが今年死んじゃう!?
 な、な、な、なにそれ……!!


「結花は、俺の命を救う存在らしい」


 帝さんが私に視線をもどして、そう続ける。


「わ……私が、帝さんの命を……??」


 そう言われても、私、ただの一般人なんだけど……??
 帝さんを助けられるスーパー技能とか、持ってないよ?
 は、もしや、私自身が気づいてない()められた才能があったり……!?

 ……いやぁ、ないよねぇ……。


「んんん……まったくもって帝さんを助けられる自信がありませんけど……でも、私にできることがあるなら、がんばってその予言、そししてみせます!」

「……」


 ぐっ、とこぶしをにぎって力強く宣言(せんげん)すると、帝さんは目を細めて私を見つめた。
 思ったよりも大きな期待をされてたけど……でも、帝さんから あたえてもらったものを考えたら、つり合いがとれているのかもしれない。

 帝さんの命を救う……。
 帝さんにどんなピンチが訪れて、私にどんな役割が求められるのかわからないけど……帝さんが死んじゃうなんて、私もいやだし。


「まずは、その風邪(かぜ)を治せ。仕事のことは気にしなくていい」


 帝さんは私に声をかけると、熱をたしかめるように、手の甲で私のほおに触れる。
 どきっとすると、その手はすぐに離れて、帝さんもソファーから立ち上がった。
 帝さん……行っちゃうのかな?

 1人になるの、さみしいなぁ……。
 でも、帝さんを引き止めるわけにもいかないし……。


「定期的にようすを見に来させる。なにかあれば使用人に言え」

「はい……ありがとうございます、帝さん」


 お礼を言うと、帝さんはうなずいて、廊下(ろうか)に続く扉へ向かっていく。
 さみしい気持ちをがまんするように目を閉じると、時間が経たないうちに、すぅ、と意識が(しず)んでいった。


****

 よく部屋に来てお世話してくれた使用人さんと、お昼と夕方にようすを見に来てくれた帝さん。
 そして、日曜日と月曜日の2日間ゆっくり休んだかいあって、火曜日の今日には回復して、仕事に来ることができた。

 からん、と白い球が赤いマスに落ちて、ゆるやかな回転になったホイールが遅れて止まる。
 透明(とうめい)なマーカーを、レイアウトの34と書かれた場所に置いて、()けに負けたチップを回収していった。
 それから、赤の34をふくむ場所に賭けていたお客さまに配当金を払いもどす。

 ルーレットから球を回収して新しいゲームを始めようとすると、ディーラーの制服を着た男性が、交替(こうたい)時間よりずっと早くやってきた。
 んん?と疑問に思いつつも、両手を突き出して手のひらを合わせるいつもの動作をして、お客さまに会釈(えしゃく)する。
 テーブルを離れようとすると、すれちがいざま、交替に来た人がひそ、と耳打ちしてきた。


「支配人がお呼びです」


 帝さんが?
 なんだろう、と思いつつ、「わかりました」と小声で答えて、私はカジノフロアを出た。


ありがとうございます💕

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