Gold Night ―退屈をもてあました男は予言の乙女を欲する―
第2章 ドロップハートの攻防戦
8,晴琉 の奥の手
「ありがとうございます、
「うーん……」
晴琉くんは考えこむようなそぶりを見せたあと、「
へ、と目を丸くすれば、晴琉くんの指が私の指のあいだに入りこんで、きゅっと手をにぎられる。
それから伏し目気味に私の目を見つめてくる晴琉くんは、いつもの親しみやすい
「は……晴琉、くん……?」
どぎまぎして名前を呼べば、晴琉くんはやっぱり、いつものやわらかいほほえみじゃなく、
こ、この晴琉くん、だれぇ……っ!?
「結花ちゃん、次の授業は、僕と2人っきりでここにいない?」
「へ……っ」
私のほうが年下でも、
かぁぁっとほおに熱が集まるのを感じていると、くすっと妖艶に笑った晴琉くんが、「なんて」と手を離した。
「どきどきした経験が他にもあれば、支配人のことを意識しすぎなくていいかなって思ったんだけど」
「んぇ……っ!?」
ぱっと、いつもの人当たりがいい笑顔にもどった晴琉くんからは、先ほどの色気は感じない。
どこを切り取ってもいつもの晴琉くんで、安心感を覚えつつも、新しい一面を見てしまったどぎまぎが残る。
「は、晴琉くん……すごい、ですね。まるで、別人でした……」
「本当は好きな子にだけ見せる奥の手なんだ。ひみつだよ?」
「は、はいっ」
人差し指を口の前に立てて、片目を閉じてみせた晴琉くんに、私は こくこくこく、とうなずきを返した。
モテる男子の隠し玉、おそるべし……!
****
晴琉くんの手助けがあったおかげで、今日の仕事では帝さんを意識しすぎずに済んだけど……。
1人で入るには広すぎるお風呂に口元まで
今日から、帝さんのとなりの部屋で生活……。
「いやぁ~、むりむりむり……っ」
ざぱっとお湯のなかから顔を出して、悲鳴をもらした。
今日は先に1人で帰ってきたから、帝さんがいないうちに、新しい部屋から着替えを持ってこれたけど。
早ければ、お風呂から上がったあとには帝さんが帰ってきてる可能性もあるわけで。
私、どうやって帝さんがとなりの部屋にいる状態で寝ればいいの!?
晴琉くんマジックがあっても、となりの部屋にいる帝さんを意識しないなんてむりだよ~……っ!
「私、寝てるあいだに いびきかいたり、寝言言ったり、よだれたらしたりしてないかな~っ」
寝相もあんまりよくないし、もし寝てるときとか朝に部屋をのぞかれたら、
そうじゃなくても、大きな音を立てちゃったりしたら、帝さんに聞こえるかもしれないんでしょ!?
「はぁぁぁぁ……」
ぶくぶくぶく、とまた口元までお湯に浸かって、入浴剤のいい香りを感じながら、どうしよ~、と目を閉じた。
あの帝さんがとなりの部屋にいて、となりの部屋で寝たりしてて、扉を開ければいつでも帝さんのプライベート空間に入れちゃう……。
帝さんも、ふらっと私の部屋に来たりするのかな!?
いつ見られてもいいように、部屋は毎日きれいに片付けておかなきゃ……!
はっ、も、もし着替え中に帝さんが入ってきちゃったりしたらどうしよう!?
あの部屋って、どこか隠れられる場所あったかな……!
あ、それこそベッドのカーテンを閉じて、
あぁぁぁ、とお風呂のなかで えんえんとなやんだあげく、帝さんが帰ってきてるかも、とすぐ部屋に もどらずに、家のなかを うろうろしたせいかもしれない。
意を決して部屋にもどり、しずか~にベッドのなかに入った私は、朝になって目を覚ましたとき、あきらかな体のだるさと頭痛を感じた。
「今日も仕事あるのに、熱出しちゃうなんて……」
平日だったら学校に
パジャマ姿のまま食堂に行った私は、朝食を準備して待ってくれていた使用人さんに体温計を用意してもらって、37.8℃の記録をたたき出した。
午前中は大人しくベッドで寝てすごし、お昼すぎにふたたび起きて。
今は、部屋まで運んできてもらったおかゆを、かわいいクリームピンク色のソファーで食べている。
「ふー、ふー……」
レンゲで すくった ほかほかのおかゆを冷まして、ぱくっと口のなかに入れた。
今の味覚にぴったりと合う、やさしい味わいのおかゆを、半分くらい食べたのかな。
まだまだ小さな土鍋にはおかゆが残っているけど、いつもより食欲がないのか、もうお
残すのはもうしわけないけど、もう食べれる気がしない……。
どうしようかな、となやんでいたら、ベッドの向かいにある扉からコンコンとノックの音がした。
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